第31話 アンデッド・ホイホイ


 森の中には空がよく見える開けた場所が何ヶ所かある。今俺が一人佇んでいるここもその一つだ。近くの湖には満月がくっきりと映り静かな美しさをかもし出している。この湖に背を向け立っている俺はなかなか様になっているんじゃないだろうか。


「俺の名前は一ノ瀬遥翔いちのせ はると

 お前らゾンビはアンデッド♪」


 大きく息を吸い込み俺は歌い始める。


「俺召喚されて災難♪

 お前ら追放されてカンカン♪

 それでも倒すぜガンガン♪」


 歌ってるときは大きな声をさらに出来るだけ大きくする。こんな居場所がばれるようなこと普通は自殺行為だ。俺だってやりたくない。


「同情するだけ損損♪

 かかってきやがれどんどん♪

 相手してやるぜとことん♪」


 すると、ガサガサと正面の茂みから物音が聞こえてきた。来るか⁉


「グルルル……」


 茂みから出てきたのはゾンビではなくヴェノケン。わあ、気持ち悪―い。お前はお呼びじゃねーんだよ! とっとと帰れ!


「ガルル……ルㇽㇽ……」


 ん? なんか様子がおかしいぞ? 念のためナイフではなく鉄棒を構えて警戒してみるか。


「ウウゥゥ……」


 ヴェノケンはよろよろと一歩、また一歩と俺の方に近づく。月明りでようやく分かったが、こいつ、右腕が一本千切られている。傷跡からして今さっき負ったばかりだろう。


「ふう。驚かせやがって。これならほっといてもすぐに失血死するな。さて、気を取り直してゾンビをおびき寄せると……?」


 グチャっと何者かがヴェノケンの頭を踏み潰す。そいつは飛び散ったヴェノケンの眼球や脳味噌を掴み取ると自分の口まで運んで行った。グチュグチュと不快な音が静かな森に響き渡る。


「はは……食事姿もおぞましいな……アンデッド!」

「フウ…フウ…」


 一匹見たら三匹いる。その言葉の通りさらに二体のゾンビが正面から現れる。そいつらもヴェノケンの残骸を手に取ると同様に口に運んだ。俺のことは眼中に無いってか。それならこっちに意識を向けさせてやるよ。


「今は食事か?♪

 俺は放置か?♪

 ならば好機だ!♪

 お前ら掃除だ!♪」


 歌いながらゾンビに向かって突撃していく。俺に気付くと、ゾンビは食事を中断しこちらへ襲い掛かってきた。


「グルウァ!」


 まずは一体。大振りの引っ掻き攻撃か。はっきり言って最初に戦ったゾンビよりものろい。この程度ならいける。


「こっちも大きく振りかぶってやるよ!」


 野球のように構え直しゾンビの頭めがけ思いっきりフルスイング。ゾンビの頭はブチブチと千切れ湖の中へ沈んでいった。


「しゃあ!」


 思わずガッツポーズ。残る二体もこんな感じで楽に倒せればいいんだけどな。


「フシュウウウ……」

「グヘッッ……」


 二体はゆっくりと構えると、その場で動きを止める。仲間が一撃で屠られたからか随分と警戒しているようだ。そうだ。それでいい。

 それが狙いなんだからな。


「今がチャンスだ♪

 焼くんだエディカ♪」

『わかったわ!』

「「⁉」」


 いつの間にか自分たちの脚が燃え始め、困惑するゾンビ。二体は周りを見渡すが攻撃の主はどこにも見当たらない。存分に探せ。どうせ死ぬんだからな。


『安心してください。ちゃんと頭だけは残しときますから』


 ローネルの声が聞こえた瞬間、ゾンビ共の頭は光の膜のようなもので覆われる。障壁魔法。ただし守るのは頭だけだ。


「オ、オオオオオ……」

「ゲッ……ゲゲゲ…」


 しばらくしてゾンビは言葉通り頭だけを残し身体は全て燃え尽きてしまった。これで三体撃破。


「二人とも! 上手くいったな!」


 頭を回収し、俺は湖へとそれを運ぶ。誰もいないはずの湖からザパアと大きな球体が現れる。中にいるのは障壁に包まれたエディカとローネルだ。


「何が上手くいったのよ! 一つ湖に落としておきながら!」

「それくらいいいだろ! 俺だって囮として頑張ったんだから‼」

「そうですよ。まずはこの作戦の成功を喜びましょう」

「落ちた頭なら後で回収するからさ。とっとと持ち場に戻ろうぜ」

「む、そうね」


 二人は再び球体に入り湖の中へ潜る。俺は引き続きラップでゾンビを集めるとしよう。


「殺すぜ♪ 奪うぜ♪

 斬る♪ 伐る♪ KILL♪

 殴るぜ♪ 叩くぜ♪

 ドン♪ 鈍♪ 丼♪」


 辺りが騒めく。静かな湖の周りに一体、また一体と次々とゾンビが集まる。俺が歌い終わるころには、湖には百を超すゾンビの群れが完成していた。


「ゲヒヒ……ヒヒヒ……」

「アアア……ッッッッッ…」

「ヒャララララララ……」


 冷や汗が流れる。落ち着け。落ち着くんだ。俺はこいつらをおびき寄せる疑似餌。死ぬことは無い。鉄棒を左手に、トレンチナイフを右手に持ち、呼吸を整える。大丈夫。限界突破のおかげで並みの星二より俺は強い。


「「「フシャアアアア‼」」」

「かかって来いやあああ‼」


 来るなら来い! 持てる火力を持って全力で相手してやるよ‼ まずは目玉が爛れてる貴様! お前からぶっ殺す‼

 右手のナイフでゾンビの首に斬りこみを入れ、素早く横に反れる。ゾンビは頭周辺の神経だけは傷をつけても正常に機能するため、致命傷には至らない。だがそれで十分!


「バッター構えて、打ったあああ‼」


 斬りこみに向けてフルスイング。本日二度目の場外ホームラン。首は見事湖に沈んだ。


「そして更に攻撃だあ‼」


 同時に二体、頭を殴りつける。メリメリと二体は上顎から上が千切れ、絶命する。後で下顎も切断しとかないと。

 合計八体倒すと、流石の俺も疲れてきた。そろそろ回復しないと。


「頼んだぜ‼」

『『了解‼』』


 数も多いため、巻き添えを食らわないよう一旦湖の中へ避難する。辺り一面が火の海と化し、その間に俺はゾンビから受けた傷を傷薬で治療する。この調子でどんどん数を稼いでやる!

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