第30話 ゾンビの発生源
森の中を歩くこと一時間。大分夜も遅くなってきたところで、俺達はいい感じの洞穴を見つけることができた。中は結構広く寒すぎず暑すぎない。拠点としての環境もかなりいい。一旦荷物を置いて、一息ついてから本題に入る。
「で、俺達にとって不利ってのはどういうことなんだよ?」
もしも弱点があるというなら、ここでその弱点を補うような作戦を立てなければならない。時間だって限られているし。
「そうね。あのゾンビ達だけど、おそらくあたしとローネルを見つけた瞬間他の人間には目もくれずに襲いかかってくると思うわ」
「俺は?」
「あんたは大丈夫。しつこくゾンビを挑発しない限りは」
「なるほど。俺は危なくなったらお前を盾にすればいいんだな」
「ぶっ飛ばすわよ?」
「冗談だって」
「ですから、私たちはこの森の中を堂々と歩いていたらあっという間にゾンビ達に囲まれてしまいます」
そりゃあんな状況に何度も陥ったら命がいくつあっても足りないもんな。
「というかなんでお前達はゾンビに狙われるって分かるんだよ?」
この中では一番弱い俺が狙わるのはともかく、この二人だけがゾンビの最優先攻撃対象になるなんていくら考えても理由が思いつかない。
「ハルト。あんたを召喚した時のことを覚えてる?」
なんだ急に。
「あんなの忘れたくても忘れられねーよ。いきなり人のことハズレ扱いしやがって」
「だって事実じゃない」
「うるせえ! ってそうじゃなくて今その話関係あるのか?」
「めちゃくちゃ関係あるわ。その時にリセマラしてたって言ったでしょ」
そういえば言ってたな。戦功者組合に偽名で登録しまくって何万回も召喚をタダでやったって。その後そいつらがどうなったのかは知らないけど。
エディカは冷や汗を垂らしながら言う。
「多分あのゾンビ達……全部あたしが召喚した奴かもしれない……。いや、確実にあたしが召喚した奴らだわ……」
へー、そうなんだー。あれ全部お前が呼び出したんだー。
「バカじゃねーの⁉」
魔物が増えてる原因お前らじゃねえか!
「いくらなんでもこんな近場の森に捨てることねえだろ!」
「ちょっと違うわ。普通に街にも放したわよ」
「もっとタチ悪いじゃねえか!」
そういや街での目撃情報もあったな! そもそも捨てるんだったら最初から召喚するな!
「つまりあれだ。お前らはゾンビから恨みを買ってるってことだろ」
「そういうことね」
「はあ……呆れた……」
「流石に言い返せないわ。でもしょうがないじゃない。あんなに気持ち悪いんだから」
「そうだとしても捨てられた奴の気持ちを考えてみろよ。いきなり自分のいた世界じゃないとこにいて、いらないから捨てられるってかなりキツイぞ」
「なによ。あんただって嬉々として殺していたくせに」
「うっ! 仕方ないだろ! 知らなかったんだから!」
「それでも殺した事実は変わらないから」
「まあな! それより、もう一度どうしてこんなことになったのか説明してくれ」
俺は全ての事情を把握しているわけじゃない。全てを知ればもしかしたらゾンビを説得できるかもしれない。仮にも俺と同じで別の世界から来たという事は「知的生物」ではあるということだから。
「臭い・キモい・醜いの三拍子揃っていたから捨てた。以上」
「だから詳細に言えよ‼」
「あーもー。わかったからうるさいわね。このツッコミ野郎」
「嫌なら真面目にやれ!」
「はいはい。あんたを召喚する一年前。あたしは町中の廻魂石を買い占めて召喚した。出てきたのは得体の知れないゾンビ。そりゃ最初はビビったわよ。可愛いとは縁もゆかりもないゴミが出てきたんだから。一緒にいたローネルに泣きついてなんとか追っ払ってもらったわ」
「ゴミって言うな」
「自分のお金で出てきたのはゴミ。親のお金を使っても出てきたのはゴミ。その後あたしは戦功者組合に登録しに行って、今度こそどんな可愛い娘が出てくるかわくわくしながら召喚。出てきたのはまたゴミ」
「だからゴミって言うな」
「それでもあたしは諦められなかった。そこで偽名を使ったリアルリセマラを行うことにしたの。でも二回目でも出てきたのはゴミ。もちろんそいつも森に捨てて、三回の召喚に挑んだわ。でも二度あることは三度ある、またゴミが出てきて四回目でも当然出てきたのはゴミ。限界突破するゴミも結構あったわ」
俺が倒したゾンビが星の割に強かったのはそういうことか。
「なんとなくわかった。結局のところ最後の俺以外全部ゾンビだったってことなのかよ」
「当たり」
「……お前の引きは聞くたびに驚かされるよ」
人間を召喚できたのは俺以降ってことかよ。それでも全部召喚できたのが俺と同姓同名の奴しかいないってのもすごいことだが。とことん神に愛されていない女だ。
「あたしだって、好きでこんなにガチャを回してるわけじゃないんだから。そりゃ強いに越したことはないけど、可愛い娘が出たらやめるつもりだったわ。でも出ないんだもの。しょうがないじゃない」
「今までのお前を見てると好きでやってるとしか思えんがな。多分出たら出たでもう一度いけると思って引いてるだろ」
ソシャゲ廃人ってそんなもんだし。
「………………………………………………………………………………………………………そんなことないわよ!なんだかんだ言って召喚した娘の食費だってかかるんだから!」
その長すぎる間は肯定として受け取ろう。それとお前の食費は俺とローネルが出してるんだが?
「ちょっと思ったんですけど」
それまで黙っていたローネルが口を開く。
「あのアンデッドさん達も元々は別の世界に居たのをこちらが勝手に呼び出したんですよね」
改めて言う必要はないと思うがそうだな。その境遇を考えたら奴らと俺はある意味同じと言って良いかもしれない。
「でも、私達は弱いし気持ち悪いという理由でアンデッドさん達を捨てました。きっと彼らは見知らぬ世界で助けを求めて彷徨ったのでしょう。でもあの見た目です。誰からも助けて貰えず泣く泣く森の中に逃げて来たに違いありません」
ちょっと想像してみる。いきなり違う世界に呼び出されて勝手な理由で追い出される。それに加えて誰からも救いの手を差し伸べてもらえない。それどころか、今では討伐対象になる始末。……自分がこうなってたかもしれないと思うと涙が出てくる。討伐対象にはされないだろうけど。
「元いた世界での家族を思ったり、楽しかった日々を振り返ったりもしてたでしょうね」
「やめてくれ。あいつらを殺すことが出来なくなるかもしれない」
「わかりましたよ。とりあえず冗談は置いといて……あまり手加減出来る相手ではないので見つかる前にこちらから奇襲するのが安全で効率的でしょうね。まあ気持ち悪いし彼らの所為でこんな目に遭ってると思うとムカつくので容赦する気は元からありませんが」
「全くよ。あたしの前に現れるんだったら美少女になって出直して来いって話よ。この恨み何千倍にもして返さなきゃ気が済まないんだから」
お前らのは恨みではなく逆恨みだろ。
「でも待ってくれ。それだと安全であるかもしれないけど確実に討伐できる数は少なくなるぞ」
「じゃあどうすれば良いのよ。他に何か案でもあるの?」
案だと? 有るに決まってる。無かったらそもそも口出しなんかしないさ。
「お前を囮にしてゾンビを集めて、その隙にお前もろとも俺とローネル二人で攻撃する」
「却下」
より安全にかつ大量に討伐できるだろ!
「でも作戦の内容は悪くないと思いますよ」
「ほら! これで二票だ! 俺の勝ちだ!」
とっとと犠牲にになって来い!
「あたしが囮だということを除けば確かに悪くはないと思うわ。ただ、あんたはあたしたちのように広範囲を攻撃できないじゃない」
「そうですね。攻撃手としては少々力不足かと」
ん? 雲行きが怪しくなってきたぞ?
「となると囮役は自動的に決定ね」
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