第22話 予定は予定通りにはいかない
「プレゼント?」
エディカは首を縦に振る。
「そう。イベント開催前になると国に報酬と設定された者は星眼鏡での星の横にそう表示されるの」
「何のためにさ?」
「特に意味は無い……というかあたしも理由は知らないわよ。あたしたちにとっては常識的なことなんだから」
常識か……。
「あはは……認めるよ。そうだよ。ボクはこの大規模討伐の報酬だよ。分かったらそろそろ離してくれない?」
「んー、どうしようかしら」
「質問を変えるけどさ、星眼鏡ってどれくらい機能があるんだ?」
「あの……もう一分経ったんだけど……」
星の数を見るだけでなく文字の翻訳機能までもついている。値段の割に便利すぎやしないか? しかしエディカの返答は意外なものだった。
「星眼鏡の機能? 名前の通り星の数、それと突破の数を調べられるだけよ」
「それは無いだろ! だってこれを通して看板を見ると文字が翻訳されて俺でも読めるようになるんだぜ」
「文字の翻訳? そんなの聞いたことないんだけど…」
「ねえ……もう離れてよ……」
「マジだって!」
「あたしは普通に読めるから確かめようもないし」
「無視しないでよ……」
「まあ文字が読めるのは良いじゃない。あ、だから昨日カタログ読むときそれ使ってたのね。変だとは思ったけど」
「そういうことだ」
ようやくセツナを開放し、まじまじと星眼鏡をいじくるエディカ。
「ああ、やっと離れてくれた……」
「できることならそのままお持ち帰りしたかったわ」
「それはやめろ」
「でも星眼鏡にそんな機能があったなんて……意外だわ。もしかしたらあたしの知らない機能が他にもあるかもしれないからハルト、あんたが持ってなさい」
「持ってろも何もここしばらくずっと俺が持ってるじゃねーか」
「そういえばそうね」
「ところでローネルはどこに行ったんだ?」
セツナとエディカとの会話に夢中になって気づかなかったけど、いつの間にかローネルの姿が見当たらない。エディカと違って勝手な行動をするような性格じゃないから近くにはいるはずなんだけど。
「ローネルならあそこにいるわよ」
「あれか。おーい! ローネ……」
『ブツブツブツ……』
広場の端っこにあるテーブルで呪詛を唱えながらなにやら作業に没頭している。金の袋を脇に置き少しずつ中身を確認しながらノートに黙々と何かを書き込んでいるようだ。
「ろ、ローネル?」
「今朝の報酬の二万と合わせて四百九十二万が私たちの所持金。大規模討伐での報酬が現金と廻魂石。今の所持金すべて使っても元を取れるのは二十位以内。ただしそれは報酬の人間の食費を除いてですし……」
どうやら大規模討伐にかかる必要経費を計算している最中のようだ。この大規模討伐で廻魂石を貰える順位に入ることが出来ればしばらくは召喚に使うお金も必要なくなるし、ローネルとしても高い順位に入りたいのは当然だろう。
「ハルト、この人は?」
「こいつはローネル。俺のチーム最後のメンバーだ」
「なんか……おっかなさそうだね」
「いつもはもっと穏やかなんだけどな」
たまに毒を吐くけど。
「傷薬とあと麻痺消しや毒消しもこれだけあれば……できました!」
机から立ち上がるとローネルは俺とエディカにそれぞれメモを渡す。見るとメモには細々とした字で討伐に必要な道具の種類とその数が書いてあった。
「今から三手に分かれて、このメモに書いてある道具をそれぞれ買いに行きますよ。大規模討伐までまだ一週間ありますが、早く行動をするに越したことはありません。一位を、少なくとも二十位以内を取りましょう!」
「おお! やる気だな!」
「はい! ハルトさんの稼いだお金なら余裕を持って計算ができました!」
「あ、その袋! それね、ボクがあげたんだよ!」
「おや……ということはあなたがハルトさんに助けられた方ですか。申し遅れました。ローネル・スノーマンと言います」
「ボクはセツナ! 一応大規模討伐の報酬ってことになってるよ!」
「ほう…ではもしかしたら私達の将来の仲間になるのかもしれないのですね」
「うん! 応援するから頑張ってね! じゃボクはこれで」
「おう、必ず迎えてやるから待っとけよ」
セツナと別れる。俺達も討伐に必要な道具を買い揃えるべく広場を後にするか。
『静粛にいいいいいい!』
「「「!?」」」
突然広場に大きな声が響く。一体なんだ!?
『広場に集まっている者全員に告ぐ。突然で済まないが大規模討伐の開催を一週間後から急遽明日開催することになった』
「なっ……!?」
『申し訳ないが詳細は明日話す。以上!』
広場がざわつく。
『おいおい……まじかよ』
『こうしちゃいられねえ。おめえら、とっととアイテムを買いに行くぞ!』
『了解!』
広場から人が一気にいなくなる。俺たちも行かないと!
金の分配はそれぞれが買う道具の値段を考慮しローネル、俺、エディカの順に多く分配している。
エディカに多く持たせると
「二人とも、私達も早くいきましょう。私は向こうの店に行ってきますので二人もメモ通り買い物をしてきてくださいね。特にエディカ。もしそのお金を召喚なんかに使ったら、分かりますね?」
「分かってるわよ! 少しは信用してくれてもいいじゃない!」
「信用できないから言っているのです。本当なら監視したいですが、早くしないとどの店も薬が品切れになる可能性があるので仕方なく三手に分かれるんですから」
「ほら、さっさと行くぞ」
「ではまた後で」
「おう」
ローネルが店に向かって走って行ったのを確認してから俺とエディカも別々の店へと向かう。俺はこのすぐ近くの店だから……ん?
「おい。お前が行くのはあっちの方だろ」
「グエ⁉」
首根っこを掴みエディカを引き留める。案の定良からぬことを考えているに違いない。
「ゲホッ、ゲホッ……何すんのよ!」
「こっちのセリフだ。なんで逆に行こうとしてるんだよ」
「勿論買い物に決まってるじゃない」
「俺の記憶が正しければそっちには薬が売ってる店は無いんだけどなあ‼」
そっちの道にあるのは大なり小なりの武器屋と廻魂石を売ってる店、それと俺たちの所属する組合だ。ローネルのメモには武器はおろか装備すら書かれてないしましてや廻魂石なんてもっと必要ない。これにより導き出される答えは一つ。
「お前今正に約束破ろうとしているだろ⁉」
こいつの目的は召喚だ。一番少ないとはいえこいつの今持っている金額なら裕に十回分以上の廻魂石を購入することが出来る。なんとしても阻止しないと。
「その金を渡せ。やっぱり俺が買いに行ってくる」
「何言ってるの! 戦力アップのためにはアイテム課金なんかよりガチャ課金の方が大事に決まってるでしょ!」
「あ、何しやがる!」
エディカは俺の袋を奪うと一目散に逃げだした。
「おい、エディカ待て!」
俺は慌ててエディカを追いかける。クソ! 間に合え!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます