第19話 報酬開示は胸躍る

「おう。おはよう」

「……なんでいるの」


 ローネルはとても爽やかに笑っている。この笑顔を見るとさっきまでのイライラした気分も浄化されていくみたいだ。これからエディカに起こることを考えると。


「酷いじゃないですか。私だけ仲間はずれにするなんて」


 ローネルは静かにエディカに近づき、その頬を撫でる。


「あのね、ローネルが忙しそうにしてたから声をかけるのもかわいそうだなーって思って……」

「そうですか。気を使わせてどうもすみません」

「あはは……」


 エディカはローネルとは逆に引きつった笑いをしている。そりゃそうだ。あれ以来ローネルとの約束でガチャは一ヶ月に一回ってことになったからな。たびたび破っていたけど。性懲しょうこりもなくまたその約束を破ろうとしてるのだからきつい折檻せっかんが待っているだろう。いい気味だ。


「ところでエディカ、その手の袋には何が入ってるんですか?」


 ローネルはエディカが俺から巻き上げた金が入っている袋を指差し、わざとらしく問いかけてくる。


「こ、これは! 卵よ! 朝御飯にして食べようと思って買ってきたの!」


 急なことすぎて、明らかにわかりやすすぎる嘘をつくエディカ。そういうこと言うと「それなら私が持ちましょう」「あっ、ダメ、取らないで!」「これは何ですか?」「ごめんなさい……」ほらな。


「エディカ。約束しましたよね。召喚は一ヶ月に一回って」

「でも! それはマクロで得たお金を使う場合の話でしょ! このお金はマクロ関係ないからいいじゃない!」


 マクロもその金も両方俺の金だっての。


「没収します。生活に必要なお金は多いに越したことはありませんから」

「ああ……」


 ローネルはエディカから袋を取り上げ、自分の懐の中に入れる。ざまあみろ。


「それで、このお金はどこで手に入れたんですか?」

「その金は俺が道端で倒れている女を助けた時に礼として貰ったんだ」

「そうなのですか。しかし礼金にしては多すぎでは?」

「俺も思ったんだけどな。そいつ曰く俺と同じで召喚されたようで、今は王族の居住区に住まわせてもらってるらしい。お金はその人達からたくさん貰ってるんだとよ」

「なるほど。確かにその身分の方達に召喚されればお金もたくさん持ってることに納得いきます。彼らは娯楽として異世界の話を聞くために召喚をすることもありますから」

「ここにも娯楽で召喚をしているバカがいるけどな」

「バカで悪かったわね。それにあたしの場合趣味と実益を兼ねてガチャを回してるんだから」

「その実益が出た試しはないけどな」


 でも良いなあ。俺も王族に召喚されたらたくさんお金ももらえて住むところにも困らなかったのかなあ。ほんと羨ましい。


「王族に召喚ねえ……時期も時期だしあれのために召喚されたとあたしは思うけどね」

「あれってなんだよ?」

「レイドイベントよ」


 レイドイベントというとあれか。通常とは違うボスキャラをひたすら倒していくわけか。


「国が主催する三ヶ月に一度のレイドイベント、大規模討伐大会! 狙うは勿論優勝よ!」

「はあ……」


 御構い無しにエディカは説明を始める。


「このレイドはね、なんと言っても魅力的なのは普通にガチャを回しても出てこない世界の住人が報酬として貰えるってところなの!」

「ローネル。この国って奴隷制あったりする?」

「前にも言いましたが異世界からの住人には人権は存在しませんので♪」

「そうだったな」

「でも貰えるのは上位のチームだけなのよね……。他の街の組合からもたくさんの戦功者が来るし」


 うーん。俺達の所属する組合でも千を超えるチームが存在してるから他の組合のチームも入るとなると相当な数になる。この街だけでも戦功者は五万人以上、他の街から来ることも考えるとかなりの狭き門だ。そもそも戦力的に優勝は難しいんじゃないだろうか。

 俺の負担を減らすためにも新しい仲間は欲しいけど、望みは薄いだろう。


「そういえば丁度今日が報酬の事前告知の日でしたね」

「よし! 報酬の確認に行くわよ!」

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