第18話 引きの強さも武器の強さ

「着いたわ。ここよ」


 翌朝、受注していた仕事をローネルに代わってもらい、エディカに案内された所は街のはずれにある古めかしい店だった。築何十年もしてそうなその店は、到底新しい武器があるようには思えない。


「って、ここって初日に来た店じゃないか」

「いいからいいから……店長―!」

「おや、エディカ。なんの用だい?」

「なんだ、おじさんか」

「店長は僕で合ってるよ。あれは家内だよ」

「例の物をやらせて欲しいの」

「ああ、あれか。ちょっと待ってて」


 そう言うとおじさんは奥に戻り、ガサゴソと何かを探している。おじさんが取り出したのはよく見るスピードくじの箱だった。


「一回一万エルドだよ」

「おいエディカ」

「なに?」

「武器を買いに来たんじゃ無いのか?」

「そうだけど?」

「この箱はなんだ?」

「商品よ。だって今からやるのは武器ガチャなんだから」


 ほらやっぱり。何度もこんな感じだからもうつっこむ気力すらない。


「このくじ、もとい武器ガチャを甘く見ない方がいいわよ」

「はいはい、話だけ聞いておくよ」

「なんとこのガチャ、お値段たったの一万エルドで最低でも星三の武器は保証、運が良ければ星五の武器も手に入るのよ!」

「待て、安いのはわかったがどうも話が美味すぎる。星三の武器でも最低三十万エルドするんだぞ?」


 一応補足しておくと人間と同じで武器のランクも星制度だ。ちなみに俺の包丁は星一ですらない。星零。つまり価値無しというか武器とすらみなされていない。


「そう、そこなのよ。安く手に入る代わりにいわゆるわけありが結構混ざってるの」

「そのわけありってどういった意味でわけありなんだよ。呪われた武器とかそんななのか?」

「すごくわかりやすく言って、リリース初期に猛威もういを振るっていたけど大幅なシステムや上位互換が出たことによって産廃となった武器しか出てこない通常ガチャってところね」

「やっぱりゴミじゃねぇか!」

「でも考えてみなさい。大金を使って性能の高い武器を買っても目的によっては全く役に立たないことだってあるのよ。それよりかはちょっと性能が劣っても用途によって使い分けられた方が長い目で見れば断然お得よ」

「お前の口からお得って言葉が出てくるとは思わなかったよ。で本当の目的は?」

「余ったお金でガチャを回すわ」

「だろうな!」

「引かないのかい?」

「引きます!」


 性能は劣るとはいえ、星三は星三。今持っている最低ランク以下の包丁に比べれば性能は遥かに違う。

迷いを無くし、俺は箱の中に手を入れる。十万エルド払ったから十回はくじを引くことができるし、これで一つくらいは星五の武器が出てくれると嬉しいんだが……。


「まずはこれだ!」


 勢いよく引いたくじを恐る恐る見てみる。その紙には大きな文字ではっきりと星が二つ描かれていた


「星三確定じゃないの⁉」


 全然保証されてないじゃん! 引くくじ間違えてないよな⁉


「悪い悪い、最近家内からいくら中古でも星三が一万は安すぎるって指摘されてね。それなら新品の星二の値段から始めようってことになって、先日から星二を混ぜるようになったんだよ」

「そういうことは先に言ってくれませんか⁉」

「君が星三が安くで手に入るってとても嬉しそうにしてたから言いづらくて……」

「それでも言えよ! 残り九回は引かないから金を返してくれ!」


 それなら高くてもまともなのを買うから‼


「残念、もうあたしが引いちゃったもの」

「おまえ何やってんの⁉」

「武器ガチャよ」

「知ってるよ‼」


 クソ!どんなに文句を言っても引いてしまった以上返金してもらうことはできない。せめてこれで星二じゃない武器があればいいんだが。


「星二が八つ出て全部トレンチナイフだったわ」

「だからおまえどんだけ引き弱いの⁉」


 そんなに被りまくったら使い分けできねえし!


「トレンチナイフをバカにしない方がいいわよ。刃が折れてもメリケンサックとして使えるんだから」

「打撃しかできない時点でいらねぇよ! なんだその弾が切れても剣があるから大丈夫みたいな銃剣みたいな発想は⁉ これじゃやっぱり俺の剣道が生かせねえじゃねえかよ‼」

「それ前も言わなかった?」

「言ったな! 包丁の時言ってたな! おまえが!」


 あれ? こいつは今確かに星二が出たのは「八つ」だと言った。くじを引いたのは九回。つまり一つは星二じゃない星三以上の武器があるということだ。


「エディカ! もう一つは星いくつだ?」

「最後の一つは残念ながら星一だったわ……」

「星二ですらないのかよ⁉ てか詐欺だろこれ! じじい、金返せ‼」

「そういえば一個だけ超ハズレ枠のくじを入れてたんだった。てへ♩」

「だからそういうことは先に言え‼」

「だって家内が……」

「人のせいにするんじゃねえよ‼ 殺すぞ‼」

「ひい! でも、ちゃんと箱の隅っこに『実際の確率と異なります』って書いてるし…」

「見えるように! はっきり書けよ!」

「ハルト、そういうことなら仕方ないわ。ちゃんと隅々まで確認しなかったあたし達の負けよ」

「納得してるんじゃねーよ! こいつ明らかに騙してんだぞ!」

「うるさいわね。だいたいいくら突破したところでたかが星二のユニッ……人間に強い武器は無用の長物よ」

「おまえまた俺のことユニットって言おうとしただろ⁉」

「えっと……僕は武器を持ってくるね」

「さっさっとしろ! ほら!」


 紙を渡すと、おっさんは奥の方に景品である武器を取りに行った。ゴタゴタしていたから、俺は自分の引いた紙に書かれていた武器をまだ知らない。星二なのは仕方ないけど、せめて剣の形をしていてくれ。


「お待たせ。えっと、星二のトレンチナイフが八つに、星一の錆びたトレンチナイフが一つ」


 おいこら。


「錆びた物を商品にしてるとかおまえふざけてんのか!?」

「だからこれも家内が……」

「てめえが恐妻家きょうさいかだとかそういうのはこっちは知ったこっちゃねえんだよ! 尻に敷かれてないで少しは言い返せよ!」

「ハルト、あんまりきつく言わないで。おじさん泣きかけてるから」

「お前はどっちの味方だよ! そんな奴の肩を持つな!」

「それで残りなんだけどこの星二の……」


 ああもうどうにでもなれ! せめて弱くても普通の剣が来てくれ!


「文化包丁と十回引いたからオマケの鉄棒だね」


 よーし。神様仏様。死んだら真っ先に息の根を止めに行くから首を洗って待ってろ! 


「包丁と棒って……ふふ……あっはは! やっぱりあんたにお似合いってことよ!」


 エディカは腹を抱えて笑い転げる。この女、この鉄棒で引っ叩いてやろうか?


「でも良かったじゃない」

「何がだよ?」

「その鉄棒なら竹刀の代わり、剣の役割くらいは果たせるんじゃないの?」


 確かに、前の木の棒に比べれば防御力と攻撃力両方上がっているな。これなら先端に包丁をくくりつけるようなバカなことはしなくて済む。


「一万歩譲ってよしとするか」

「用が済んだらとっとと行くわよ。ローネルにこのお金がバレる前にガチャを回さないといけないんだから」


 忘れてた。俺がセツナから貰った五百万のうち、四百九十万はまだこいつが持っているんだった。正直こんな奴に全部使われるくらいならローネルに全額取られた方がいいに決まっている。こいつのことだからどうせ全部俺が頭痛を起こす結果になるだけだろうし。


「ふふっ♪ 楽しみね」

「俺は楽しみじゃないけどな」


 結局俺が新たに得たのはトレンチナイフ九本(一本は錆びてる)と包丁と鉄棒。どこの族と抗争するんだよ俺は。

 ひとまず購入したトレンチナイフは鞘の部分を紐でくくり、腰に巻きつける。残った包丁は刃がむき出しのため包帯で刃を巻き、鉄棒は肩に携える。こんな感じか。


「よく似合ってるわよ」

「お世辞でも嬉しくねーよ」

「よし、じゃあガチャを回しに行くわよ」

「おっさん、ありがとよ」


 言いたくないがおっさんにお礼を言って店を後にする。俺の四百九十万……アディオス。

店を出た瞬間、エディカの動きが急に止まった。その理由は言われずともすぐにわかる。


「おはようございます、エディカ。ハルトさん」


 店の外には仕事でいないはずのローネルが立っていたのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る