第17話 あんたの金はあたしの金
深夜。俺は廊下に誰もいないことを確認してから部屋に入る。あいつらはこの時間はぐっすり寝ているし大丈夫なはず。床に腰を下ろし、持っていた袋の中身を数える。
「ひーふーみー……まじか!五百万エルドも……‼」
長かった……いや、そうでもないか。半年は覚悟してたから予定よりは早かった。それにしても今まで何度エディカに稼いだ金を根こそぎ取られ召喚に使われたことか。辛い日々だった。だが情けは人の為ならずって諺、あれは嘘じゃなかったんだな。善行はちゃんと返ってくる。無神論者だけど今だけ言わせてもらおう。神様ありがとう。
おっと、感傷に浸るのは早い。ようやく手に入れた五百万だ。見つからない内に使わないと。あいつの召喚癖のせいですでに俺も三十突だ。おかげで他の一ノ瀬遥翔の特技も結構継承できたけど、三十人も知らない人間の残留思念が脳にあるから時々気が狂いそうになる。これ以上召喚による限界突破をされすぎると本当におかしくなってしまうかもしれない。
「一ノ瀬遥翔ってそんなに多い名前じゃないよな……。おっと、それより武器だ武器」
俺が金を欲した理由の一つ。装備の強化。ここに来た初日からずっとこの包丁だけで戦ってきた。そろそろ新しい武器にしないと強い敵が現れた際に対応できないかもしれない。それに鎧も持ってないし。カタログを見つつ予算と相談しながら計画を立てることにしよう。
しかしカタログを読むうえで問題になることがある。そう。文字が読めないのだ。写真(絵と言うべきか?)がちゃんとついているとはいえ外観の良さだけで決めてしまうと、後々必ず公開することになる。ではどうすればいいのか?
「こうするのさ!」
俺は星眼鏡を取り出し、フレーム横のネジをいじくり、レンズ越しにカタログを眺める。するとどうだろうか。さっきまで読めなかった文字がちゃんとした日本語として認識できるのだ。これに気が付いたのは三日前。エディカが何度も召喚をするせいで、俺はその都度自分が今何人の人間の残留思念が入っているのか確認するために自分の姿を確認した。その時、偶然手鏡に一緒に映った看板の文字が日本語で書かれているのが見えた。俺はその看板をすぐに確認したがその看板は俺の知る文字などどこにも書かれていない。もしやと思った俺はすぐさま星眼鏡越しに看板を見た。
予想は当たり、看板の文字をしっかりと読み取ることが出来た。理由はわからないけどこの発見は大きい。その日俺は嬉しくて街中にどんな店があるのかを確認した。そして品ぞろえの良い武器屋を見つけ、このカタログを入手したというわけだ。
「さてと、どれにしよっかな~。
ああ。文字が読めるってこんなに素晴らしいことだったんだな!
「この
「おいおい、俺は剣道専門でフェンシングは…」
ん?
「五百万エルドかー、ガチャ百回分ね」
嘘だろ……嘘と言ってくれよ!
「エディカ、いつからそこに?」
「五百万貯まったって言ってた時からね。というか今日のあんた仕事が終わってからどっかに出かけてたから気になってずっと観察してたのよ」
「ハハハ……つまり最初からバレていたってことかよ」
終わった……俺の頑張りは水泡と化してしまった。今にこの金は召喚に使われるだろう。ずっとそうだったから。前言撤回。神。もしもいるならいつか絶対殺す。
「あんた、武器が欲しかったの?」
「そ、そうだけど、悪いか? てか俺はずっと包丁だからまともに戦闘が出来ないんだよ!」
「それならそうと早く言ってよ。そんなカタログに載ってるのよりも安くて良いのが売ってる所、知ってるんだから」
「はい?」
「朝になったら連れてってあげるからとっとと寝なさい」
「まじか⁉ それは助かる!」
ただのクソ女じゃなかったんだな!
「それとその金は渡しなさい。ただで教えると思ったら大間違いよ」
「あ、ならいいです。それなら定価で自分で買うから」
「誰か―‼ この男に襲われそうなんです―‼」
「やめろ! 金ならやるからそういうのはやめろ!」
「わかればいいのよ。ほら」
「はい……」
「それじゃおやすみなさい♩」
「おやすみなさい……」
当然の様に金を取り上げられた。俺から巻き上げた金を見てうっとりとした表情をしてエディカは自室に戻っていく。いいもん。また自力で貯めるもん。
それにしても良い武器屋か。一応さっき見てたカタログはこの街一番の武器屋の物なんだけど。隠れた名店ってのがあるのかな? まあ武器屋に連れてってくれるならいいや。遅いし俺も寝よう……。
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