第16話 餌付けは人のためならず
「お兄さんありがとね。ご飯も美味しかったし家まで送って貰っちゃって」
俺と猫耳少女は食事を終え
「いや別にいいって。俺も一週間ぶりに干し肉以外の食い物にありつけたし。それよりここがお前の家なのか?」
間違っていなければここはこの国の王族が住まう場所だ。俺は王様なんか見たことないから知らないけどもしかしてこいつは王族だったりするのか?
「うん。まあ家っていうよりしばらく間借りしてるって感じかな」
「曖昧な物言いだな。何か隠しているのか? 言いたくないなら聞かないことにするけど」
「あーうん……。さっきボクここに来たのは初めてって言ったでしょ?」
言ったな。それで道がわかんないから俺が案内したわけだし。
「信じてくれなくてもいいけどボクこの世界の住人じゃないんだよね……。三日前気づいたらここにいたって言うか」
なんだと? それってつまり……。
「って変なこと言ってごめんね! ちょっと自分でもわけわかんなくなって今日飛び出してきちゃってさ」
「いや、信じるさ」
「え……」
「俺もお前と同じで別の世界から来たからな」
それよりも俺のいた世界以外からも本当に召喚されるんだな。話だけでは聞いていたけど実際に出会うのは初めてだ。そもそも一ノ瀬遥翔以外が召喚された場面のに立ち会ったことないし。
「安心しろ。この世界には俺とお前のように別の世界から来たやつが何人もいる」
俺の身体の中とかにもな。
猫耳少女はしばらく目をぱちくりさせたあとにっこり笑った。
「ああ、良かったあ! ボクがおかしくなったわけじゃなかったんだ! 安心したらお腹減ってきちゃったよ」
「おいおい、さっきあんなに食ったじゃねえか。これ以上食うと身体に悪いし夜も遅いから今日の所はやめておけ。また機会があったらどっか美味い飯屋に連れてってやる」
「そうだね。色々有ったし今日はもう休むとするよ。お兄さんも気をつけてね。あ、そうだ。これボクを運んでくれたお礼」
そう言うと少女は俺に麻の袋を俺に手渡した。
「おおサンキュ……って重いな。こんなに貰っていいほどの仕事はしてないぞ」
「良いんだよ。見ず知らずのボクに親切にしてくれたから感謝の気持ちも兼ねてね」
「そういうことなら貰っておくが……本当に良いんだな?」
「いいからいいから。あ、でも最後に一つだけお願いがあるな」
「な、なんだ?」
こんな大金だ。もしかしたら最後の最後で突拍子もないことを要求してくるのかもしれない。
「名前を教えてほしいな」
名前? なんだその程度ならお安い御用だ。
「俺は一ノ瀬遥翔って言う。ハルトでいい」
「イチノセ、ハルト……か。良い名前だねボクはセツナ。それじゃあまたね」
セツナは俺に手と尻尾を振りながら王宮へと戻っていった。さて俺も戻るとしますかね。
それにしても結構な臨時収入が入った。これがあればしばらくはまともに食事ができる。
いや、食事も大事だが仕事で使う武器も必要だな。今使ってる包丁も切れ味が悪くなってきた。それにいつまでも包丁が武器だというのも心もとない。ならやることは一つ。
「武器買おう」
それもなるたけ強いのを。一度も生かされてない俺の剣術を生かすことが出来るのを。
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