第15話 アシ食いねえ

「あ~、疲れた~……」


 あれから一週間後。朝から依頼を三件ぶっ続けで片付け、全てが終わるころには夕方になっていた。

 全く、何がマクロだ。ただ俺が一人で依頼をこなしているだけじゃないか。確かにエディカ本人にとっちゃ何もしなくても良いという意味では自動化されてるかもしれないが。「あたし達は宿でゆっくりしてるから頑張ってね♪」じゃねえよ。

 オマケに報酬は全て自分の懐に直行するようにしやがって。あいつは人をなんだと思っているんだ。奴隷だったな。

 しかも報酬のほとんどはガチャに消える始末。そのせいで俺の中に他人の記憶が増える増える。その度にローネルにお仕置きされてるけど。あの後ガチャは一か月に一回って約束したからな。

 おかげで俺は魔物討伐の仕事を中心に受注している。食料確保も兼ねてな。あいつ、人が働いているのに弁当代すら寄こしてくれない。

 魔物の肉を好んで食べるやつなんてまずいないから、休憩時間に食っているところを通行人に見られるとものすごい勢いでドン引きされる。組合に所属する他の連中から陰で「ゲテモノ食いのハルト」とかいう不名誉なあだ名をつけられてるし。

 でも仕方ない。生きるためには俺は手段なんか選んでられない。

 とにかく早く宿に戻って少しでも身体を休めねえと。明日の仕事に支障がでる。

 そう思い小走りで宿に戻ると。


「ぷぎゅう……」


 宿の入り口の前で壁にもたれかかるように倒れてる少女がいた。その少女の頭からは猫のような耳が生えている。よく見たら尻尾もあるな。流石さすが異世界と言うべきか。


「う、うーん……」


 参ったな。ここで声をかけたらちょっと面倒なことになりそうだ。どうせ酔っ払いみたいなものだろう。これは関わらない方が吉だ。気づかれないようにそっと部屋に戻ってしまおう。


「そ、そこのお兄さん……」


 あ、気づかれた。考えている暇があったら早く戻ってしまえばよかった。


「どうした? お前が言っている人間が俺のことであれば話なら聞くぞ。見たところちょっと具合も悪そうだし俺ができることなら手も貸してやる」


 声をかけられた以上スルーすることはもう無理だろう。それにそのまま野垂れ死なれたりしたらこっちが気分悪いし。


「な……」

「な?」

「何でもいいから…。なにか食べ物を持っていないかい……?」


 食い物? 腹を空かしているのか?一応持ってることには持っているけど……。


「悪いが食えるものはこれしかないぞ」


 俺は懐からヴェノケンの脚から作った干し肉を取り出した。サバイバル知識に長けてるハルトの記憶を使って自分で作ったものだ。ちなみにこれ、食えないことはないし味も悪くないけど、見た目がまんま人間の脚なので食ってると気分が悪くなる。


「あ、ありがとう……!」


 猫耳少女は俺から奪うように干し肉を取るとむさぼるように食べ始めた。


「お、美味ひい……! これ凄く美味ひいよ……!」

「そ、そうか。それは良かったな。まだあるから食えるだけ食え」


 ものの数秒で全てのヴェノケンの脚を平らげ少女はすっかり元気を取り戻した。


「ふう、助かったよお兄さん。三時間前から何も食べてなくてね」

「三時間前⁉ 腹減る時間じゃないだろ!」

「ボク、燃費が悪いみたいで。普段はお腹が空く前に食べるようにしてるんだけど、ここに来たのは初めてでね。食べ物屋さんがどこにあるかわからなくって」

「結構そこら中に屋台があったと思うんだが……」

「でもまだ腹三分目ってところかな」

「まだ足りないのか? あの肉結構ボリュームあっただろ」

「普通の人はそうかもね。ボクにとってはウェルカムドリンクみたいなものだよ」

「固体ですらないのかよ」


 まあでも動けるようになったのならいいや。


「それじゃあ気をつけろよ。もう空腹で倒れるんじゃないぞ」


 さあ、部屋に戻って飯食って寝るか。確かまだヴェノケンの腕の干し肉がいくつか残っていたはずだ。


「あ、ちょっと待ってよ!」

「なんだ? 俺は明日も仕事があるから早く飯食って寝なきゃいけないんだが」


 俺の言葉に対し、その少女はピクッと反応する。


「へえ、お兄さん今からご飯なんだ。丁度いいや。一緒にご飯食べに行こうよ」

「いい案だと思うが生憎あいにく俺は金を持っていない。さっきお前にやった干し肉が部屋に残っているからそれが夕飯だ」

「じゃあさ、お金はボクが出すからどっか美味しいお店に案内してくれない?」

「それはお前が奢ってくれるっていうのかい?」

「うん。ほらお金はちゃんと持ってるからさ」


 少女はスカートのポケットから金貨を三枚取り出し俺に見せる。ま、眩しい……! これだけあれば腹いっぱい食えるぞ!


「……まあそういうことならいいか。じゃあ俺が美味いと思った店に案内してやるよ」

「やったあ! それじゃあ出発!」


 そう言って少女はピョンと俺の背中に飛び乗った。


「待て、俺がお前を運ぶのか?」

「話せるほどの元気は取り戻せたけど歩けるほどではなくてさ。お兄さんをタクシー代わりにした分のお金は食事代とは別に出すからさ」


 ったくしょうがねえな。俺も腹が減ってるしとっとと行くか。


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