第12話 金も実力のうち
「あー、食った食った」
「美味しかったですねえ」
貰った金で食えるだけ食った俺たちは組合に戻り、
「それにしてもあいつ戻ってくるの遅くねえか?」
「用事と言っていましたし、結構時間がかかるのかもしれませんが……それにしても二時間はちょっと待たせすぎですよね」
「なんか良からぬことでもしてるんじゃないのか? 俺にはともかくお前にも言えないようなことをさ」
「それはまずないでしょう。エディカはああ見えてもちゃんと考えて行動できますから」
「押し売りの真似ごとを仲間に強要する奴がか?」
あ、でもこいつはあのときのエディカのことを褒めてたな。類は友を呼ぶということわざもあるし、リーダーがあれならやっぱり仲間もあれなんだろうか。問題は俺もその仲間に入っているということだが。
「た、確かにあのときは素直にエディカに感心していましたが疲労と空腹で正常な判断が出来なかっただけです! エディカもそうだったに違いありません!」
ならいいんだけどな。今のところあいつは調子のいい悪い以前に普段から素でああいう行動をしている気がしてならない。
「そうだ、本人もいないことだしこの際聞いてもいいか。あいつ――エディカはどうして薬を使ってまで前世の記憶を手に入れようと思ったんだ?」
そもそも金で記憶を買えるというのも未だに信じられないのだが。
「そこまで面白い話でもありませんがいいですよ。少しだけ長くなりますけど」
ローネルはカップに残っている紅茶を飲み干すと、少し息を整えてから話し始めた。
ローネルの話を要約するとこうなる。
エディカの実家、アデクタ家はそれなりの家柄だそうで、エディカはそこの長女だ。多くの高名な魔術師を輩出している一族であり、修行の一環として代々戦功者として働くんだとか。そうすることで有名になればこの世界ではいわゆる勝ち組コース、出世街道まっしぐら。
んで、肝心のエディカが記憶を買った理由なわけだけど……アデクタ家の家訓には「金で買えるのであれば努力も実力も買え」というのがある。「自分の能力を育てるために金を使うのは惜しむな」って意味だそうだ。
現代日本で例えるのならば、成績を伸ばすためには予備校に払う月謝や教材費など、勉強するにはいくらでも金を積んででもいいからとにかく努力しろって感じだ。
だがエディカはその家訓を曲解した。寧ろ逆と言うべきか。ストレートに受け取った。そのまんまの意味だ。実力を直接金で買おうと考えたのだ。
この世界では買うことのできる力は大きく分けて二つだ。一つは才能。俺がこの世界に来た直後に教わったように、これは買える力としては最もポピュラーなものだ。
もう一つは記憶だ。ただし、こっちに限って言ってしまえば才能に比べると色々条件が厳しい。
第一に、才能の売買は魔法を使って行うため比較的値段がリーズナブルであるが、成功率も半々でありそれほど高くはない。才能のレベルアップに至っては更に低くなる場合もある。
だが記憶はそうではない。成功率こそ高いものの手に入れることのできる記憶は自身の前世の物に限られる。理由として、記憶は外部から入手するのではなく自身の魂の中に眠っているのを掘り起こし修復するからだそうだ。消去した写真やメールを元に戻すようなものだ。
これを行うには生半可な魔力では到底不可能で、ゆえに時間と最高の魔術をかけて作られた特別な薬が必要となる。
それと、前世の記憶復活の薬はいくつかの強さがあり、一番低いものは前世での強い記憶のみの復活、一番高いレベルだと人格や母国語、死ぬ直前の記憶まで全部思い出してしまうらしい。
よって、思い出したい記憶に合わせて薬の強さを選んで使用するのだ。当然、強い薬になればなるほど値段は高くなる。
もちろんエディカは一番強い薬を選んで使用した。記憶の完全復活を行ったわけだ。もうわかると思うが、これは相当危険なことだ。
記憶の完全復活自体はおかしいことでもないそうだが、通常は長い月日をかけて徐々に薬の強さを上げていく。何故かと言うとそうしないと情報の処理が追いつかないからだ。
じゃあ、いきなり最高レベルの薬を使用するとどうなるのか?
ローネル曰く、一瞬で大量の情報が頭に流れ込み酷い頭痛と吐き気に襲われる。そして情報が完全に処理されるまで頭痛は治まらず、最悪この段階でショック死する。
情報の処理が終わると、薬の使用者は混乱し始める。記憶の混濁が起こるのだ。自分が誰だかわからなくなり、全てがあやふやになる。
その結果、精神が崩壊してまともな生活を送れなくなる。
どうせエディカは大丈夫だったんだろと俺は思ったがそうではなかったらしい。例に漏れず人格崩壊を起こし――
「あのようハチャメチャな性格になってしまったんです……」
「ハチャメチャっていうよりメチャクチャだなあいつは……」
性格もだけどやってることが。
「でもでも! エディカも前は真面目で凛としたとってもいい子だったんですよ! ちょっとだけ抜けていましたけど! 今は頭も身体も貧相で品も無い同性愛者のクソカス女に成り下がってますけども!」
なら今はかなり抜けているな。それとお前も相当口が悪いと思うぞ。
「申し訳ないけどあいつが真面目だったとはとても想像がつかねーな」
「今のエディカを見ていればそう思われても仕方ありません。記憶を復活させたあとはそれはもう大変でしたよ」
ローネルはお茶のお代わりを注文すると、そのときのことをつらつらと再び語り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます