第11話 押し売りするから金をくれ

「いやー、儲かったわねえ」

「これで一週間はお金に困ることはありませんね」

「まさかヴェノケンの肉があんなに高値で売れるとは思わなかったわ。流石あたしね」

「ええ、こればかりはエディカのおかげです。エディカの商才はきっとこの街一番に違いありません」

「もっと褒めても良いのよ」

「……なんだかなあ」


 報酬が支払われたことと、大量のヴェノケンの肉が売れたことで二人はとてもご機嫌だった。けど俺は素直に喜ぶことが出来ないでいた。


「なによハルト。せっかくお金が手に入ったんだからもっと嬉しそうにしなさいよ」

「そうですよハルトさん」


 そう言われてもな……。依頼を達成したことで報酬を貰えたのは嬉しかったさ。受付けのお姉さんは不満そうにしてたけど。でもな、


「お前ら二人には良心ってのは存在しないのか⁉」


 ヴェノケンの肉は確かに良い値で売れた。この世界に来てから日が浅い俺でもそれはわかった。

 だが問題はその方法だ。あれは商談とか交渉とかそういうものじゃない。どっからどうみても脅しだ。

 弱みに付け込んだ物ならまだましだった。やったとしても普通はそのくらいだろう。まさか家族を人質に取るとは思わなかった。しかも直接。これじゃ強盗と変わりはない。違いと言えば等価交換と称して生肉を置いていくところだ。

 当然俺も手伝わされた。人生で「こいつがどうなってもいいのか?」なんてセリフを言うことになるとは思わなかった。包丁を突き付けるというオプション付きで。


「もしかしてさっきのことが不満なの? でも文句はうけつけないわ。無理やり協力させたとはいえあんただって共犯なんだから」

「共犯と言ってる段階で悪事と言うことは認めているんだな」

「仕方ないじゃない。ああでもしないと売れなかったんだから」

「そりゃヴェノケンの肉ってばれたからな!」


 そう。大量のヴェノケンの肉は皮を剥いだ程度ではベテランの商人たちを騙せるはずもなくさっぱり売れなかった。それどころか人殺しと間違われる始末。諦めて捨てればいいものの俺たちのリーダーは強硬手段に出ることにしたわけだ。


「別にいいじゃない。顔はばれないように変装したんだから。細かいことを気にしてるとストレスで早死にするわよ」


 恨みを持った被害者たちに殺される方が早いと思う。


「まあいい。お前とのやりとりはいい加減疲れた。それと不眠不休で働いたもんだから腹が減って死にそうだ。金も入ったことだし何か食いに行こうぜ」


 それ以前にこの世界に来てから水すら飲んでいない。よく動けるな俺。でもいい加減なにか口にしないとやばそうだ。


「ならあんた達はこのお金で好きな物食べてきなさい」


 そう言ってエディカは金貨を数枚ローネルに手渡した。


「こ、こんなにいいんですか⁉」

「ええ。二人とも頑張ったからこのくらいはね。あたしからのご褒美よ」

「お前はどうするんだよ?」

「ちょっと用事を思い出してね。すぐに合流するから」


 言うや否や、エディカは小走りでどこかへ行ってしまった。なんかちょっと怪しいがほっとくか。それより飯だ飯。


「じゃあ遠慮せず食いに行くとするか。俺はこの世界に来てから日も浅いし……ローネル、お前に任せるわ」

「そうですね。組合にも食堂があるので一応そこでもご飯は食べられますが…これだけあるしちょっと贅沢できますね。でも今回はハルトさんに案内も兼ねていろいろ食べ歩きましょうか」

「おっ、それは祭りみたいで楽しそうだな」

「では行きましょう!」


 俺たちは早走りで街を駆け出した。

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