第6話 限界突破は命の足し算
死んだ? どういうこと?
「まあ死んだってのはちょっと違うはね。正確には一人の人間に統一されたってところかしら」
「統一?」
嫌な予感がする。エディカは俺の胸に手をそっと置いて言った。
「あの男はあんたの中に取り込まれて肉体が消滅した。さっきあんた頭痛が起きたでしょ? あれはその副作用よ」
「副作用……じゃああの頭に流れた映像は、その人間の記憶?」
「察しが良いわね。その通りよ」
「その、取り込まれた人間はどうなるんだ?」
「
なにそれ。めちゃくちゃ気持ち悪いんだけど。
「とりあえずあんた、星眼鏡で自分の頭を見てみなさい」
ローネルから鏡を借り、自分の頭を見る。俺の頭上には二つの星とその少し左上に鏡文字で「+2」と表示された。
「なにこれ?」
「限界突破した回数よ。あんたの場合最初の子供とチャラい男、二人の命を取り込んだから+2ってなってるはずだけど」
「まて、あの男だけでなく少年の方も俺の中に入ったっていうのか?」
「まだ説明してなかったけど召喚では同一ユニット、まあ同姓同名の人間を召喚すると自動的に一つに統合されるって決まりになってるのよ。被りのユニットが結晶になったり覚醒とかいってレベル上限が上がる素材に自動的にされるのってソシャゲだとよくあるじゃない」
「名前以外同じ要素が何一つ存在しないんだが⁉」
「細かいことは気にしないでよ」
細かいどころか大切な命が二つも犠牲になってるんだが。
「確かに彼らの肉体は犠牲になってしまいましたが命が消滅したわけではありません。それにハルトさんにも一応それなりの恩恵はありますよ。星二以上の方と統合されたので何かしらの特技が継承されているはずです」
特技が継承?
「よくあるじゃない。合成したとき素材になるカードのスキルが継承されるの」
「おまえのソシャゲ知識はもういい‼」
「まあまあ。とりあえず引き継いだ特技がどんなものか確認してみましょうよ」
「確認って、どうやってすればいいんだ? チャラ男に聞こうと思っても奴はもう俺の中だぞ」
「その通りよ」
「は?」
「さっき言ったでしょ。残留思念としてあんたの中に生き続けるって」
「頭の中で残留思念と対話すればすんなり聞き出せるはずです。ただその時注意しない と一瞬の隙を突かれて身体を乗っ取られますけどね」
「なんだそのホラー」
「いいから聞き出しなさい」
エディカがうるさいし、ちょっと怖いけどやってみるか。意識を集中させ、チャラ男との対話を試みる。
『おいチャラ男。聞こえてるなら返事しろ』
頭の中でそう念じ続けること三分。
『うるさいっすね。だれっすか?』
うっすらと面倒くさそうな声が頭の奥から聞こえてくる。
『俺は…なんて言えばいいんだ? とりあえずおまえと同じ名前だ』
『自分と同じ名前⁉︎奇遇っすね! 初めて会ったかもしれないっす!』
会うのも初めてだし一つにされるのも初めてだな。
『ああ…そうだな。それで話は変わるんだけど、今から言う話と俺の頼みを聞いてほしい』
『なんすか? 自分頼られたことないんで自分でよければなんでも聞くっすよ』
『ありがとう。まず最初に言っておくが、おまえは俺の中に吸収された。ごめん』
偶然とはいえ俺のせいでこうなってしまったんだ。最初に謝っておかないと。
『ああ、それっすか。普通にさっき聞いたんでもう知ってるっすよ』
『え?』
『外の音とか景色とかはちゃんとこっちにも届いてるっす。あとそんなに気にしないで良いっすよ。最初びっくりしたっすけど、ここ結構居心地良いんすよ。なんて言えばいいかわからないっすけど、とにかく快適なんっす』
『そ、そうか……』
意外にもチャラ男はあっさりと自分の状況を受け入れていた。
『で、頼みというのは?』
『おまえの特技を教えて欲しい』
『自分の特技っすか……』
チャラ男は腕を組み、うーんと考え始めた。自分の特技なんと他人に言われないと意外と気がつかないものだ。悩むのもわかる。
しばらくしてチャラ男は何かを思い出したような顔をし、嬉々として俺に語り始めた。
『自分、こう見えてラップできるんすよ!』
見た目からしてチャラいもんな。
『だから多分ラップが少しできるようになったと思うっす!』
『ラップなんてやったことないぞ』
『自分の特技を引き継いだんだから、きっとできるっすよ! とりあえず外の二人に披露してください。きっと驚くっすよ!』
『わかった。やってみるわ』
チャラ男に礼を言い、意識を元に戻す。よし、お手並みを試させてもらおうじゃないか。
「で、どんな特技だった?」
「まあ待て、今からそれを披露するんだからな」
一、二回呼吸を置くと身体が無意識のうちにそれらしい動きを始めだした。頭の中に流れてくるリズムに合わせて、身体が動きを修正していく。おお、なんだか楽しくなってきたぞ。
「あの動き…なんかの拳法でしょうか?」
「ローネル、あたしなんか嫌な予感するんだけど…」
「いくぜ!」
一、二の三で韻を踏む。見てろよ俺の初ラップ。ハイ!
「リセマラ失敗♪ 大後悔♪
異界に呼ばれて困ったワイ♪
そんな小生、壬申生♪
貰った♪ 入った♪ このラップ♪
ときめけ♪ 一ノ瀬♪ 俺の声♪」
決まった……! 会心の出来だ……! チャラ男の奴、なかなか素晴らしい才能を持っているじゃないか。もしかして戦いじゃなくてこれで食っていけるんじゃないか?
「なあ、どうだった?」
二人に感想を訊いてみる。
「えっと、なんというか」
うんうん。あまりにも素晴らしくてなんて言葉で表せばいいかわからないんだろ?
「今のそれ、なんていうものなんでしょうか?」
「あっ」
そうか。ローネルはラップを知らないんだったか。
「ローネル、今のはラップって言ってね、リズムに合わせて韻を踏むある種のダンスみたいなものよ」
「らっぷ?」
「ローネルにもわかりやすく説明すると、詩にも韻があるでしょう。それに独特のリズムを重ねたものだと考えてちょうだい」
「なるほど! 先ほどのハルトさんが口ずさんでいたのはらっぷという詩なのですね!」
「うん…まあそういうことよ」
ローネルは納得したような表情をしている。
「改めて訊くけどローネル、どうだった?」
「そうですね」
少し間を空けてローネルは答える。
「どういうものなのはまだなんとなくでしかわかりませんが…ハルトさんが楽しそうだということはわかりました!」
「そうか…ありがとう」
とりあえずローネルからの評価はこれで良しとしておこうか。悪いって印象は持ってないみたいだしそれだけでも十分だ。さて、エディカからの評価はどれくらいだろうか。
「そうね、一言で言って」
「うんうん」
「聴くに耐えないわ」
「え?」
なんだと…?
「なんなの? リセマラ失敗大後悔って? あたしを侮辱してるの? それとも自虐ネタのつもり? だとしたらすっごく寒いんだけど。それと声が大きすぎる。尋常じゃないほどうるさい。極めつけに最後のときめけ一ノ瀬俺の声って……あんたみたいな三枚目かつ声もかっこよくない奴にときめく女子なんてどこにも居やしないわよ」
「そ、そんなにひどいできだった……? てかリセマラ失敗についての評価はお前の逆恨みも入ってるだろ‼ それに顔と声は関係ないだろ‼」
「うるさいわね。人は見た目よ。ひどいってもんじゃないわ。ラップをバカにしている。ただ単に韻を踏んでいればいいってもんじゃないわよ」
「そ、そんな……!」
「むしろこの程度の実力で星二の評価だったことに驚きよ。特技無しじゃないほうが不思議なくらいね」
うう。元々俺の才能ってわけじゃないけれど、ここまでボロクソに評価されるとなんだかすごく悲しい。チャラ男のやつもこの評価を聞いているためかさっきから『ひどいっす……あんまりっす……』なんて泣き声が頭から響いてきてるし。
「まあいろいろ言ったけど継承したばかりでスキル上げもしてないからしょうがないと言えばしょうがないけどね」
んん? 今スキル上げって聞こえたんだけど?
「まあマックスにしたところでたかが知れているしどうでもいいか」
「説明してくれよ!」
そんでチャラ男に謝れ‼ 特技をボロクソに言ったことを‼
「やれやれ、めんどくさいわね。一度しか言わないから目ん玉かっぽじってよく聞きなさいよ」
「それを言うなら耳の穴だろ」
「良い? この世界では特技っていうのはただ鍛えるだけじゃある程度は成長するけど、すぐに限界が訪れるの。強くするには軟鉄が炭素を加えることで鋼鉄になるように、外部要素が必要なの」
「ふむふむ。外部要素ね」
「特技を伸ばす方法は三つあって一番手っ取り早い方法としては、同じ特技――特技と言うより才能ね。それを持つ人から継承するのがあるけど、これはまず無理ね。才能を売買することはこの世界では普通にできることだけど二束三文にしかならないうえに折角の才能、他人にあげたい人なんていないでしょうし」
「才能の売買はどうやってするんだ?」
なんとなく気になるからとりあえず聞いておこう。
「それはそういう店に行って……リサイクルショップの才能版みたいな店で魔法を使って売買するのよ。確か。使ったことないからわからないけど」
「売る人がそんなにいないのにそれで生計を立てられるのか、その店」
「基本的に武器がメインで才能はおまけだから大丈夫よ。話を戻すけど、二つ目の方法は素材を使って成長、さっき言った外部要素ってのは基本的にはこれのことね」
なるほど。素材か。RPGでも特定の能力値を上げるために様々な素材を使用しているしそういう感じのものなんだろうな。
「ただ、素材を集めたからって必ず上がるとは限らないのよね……。最初の成功率が二分の一って聞くし」
「成長するたびに素材の量も多く確率も渋くなるって言いますしねえ」
「そこがネックね」
売買に素材か……。
「で、最後の方法は今やっているこれ。召喚よ」
「といっても、この方法は同姓同名の人物かつ才能が同じでないといけませんから、売買よりも不可能に近いですね」
「当たれば確実に上がるけどあたしもそこまで変な引きじゃないから期待しないでよ」
三連続で一ノ瀬遥翔を召喚できたお前ならいけそうな気がする。けどそれはごめんだ。もうあんなに痛い思いはしたくないしこれ以上他人の命を無駄にしたくない。
「つまり現実的に可能なのは素材集めの方か。かなり金かかるんだろうなぁ」
「まあ他の戦闘に関する特技ならともかくあんたのそのゴミみたいなラップなんて上げるだけ素材の無駄だから気にしないでいいわよ」
「そんなこと言うなよ!」
もしかしたら役に立つかもしれないだろ! 宴会の余興とかでさ!
「そういえば忘れてましたけど」
「どうしたローネル?」
「ハルトさん自身の元々の特技は一体なんなのでしょうか?」
……あ。
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