愛の人と形
岸本和葉
第1話女神
女性と言うものが、どうも苦手だ。
彼女らの思考が、僕にはこれっぽっちも理解できない。
姿形がよくても、僕は相手が女性と言うだけで近寄りがたいものを感じる。
そんな僕だから、当然、女性とお付き合いしたことはない。
このまま誰も愛せずに、一人で人生を終えるのだろう――――。
そう思っていたある日のこと。
僕は女神に出会った。
驚くべきことに、僕は彼女に対して一度も苦手意識を感じなかった。
彼女はあまり喋らず、静かに僕の話を聞いてくれる。
気づけば、僕たちは意気投合していて、自然とお付き合いすることになった。
彼女と一緒に街を歩くと、誰もが僕たちに視線を向ける。
すべては彼女が美しいからだ。
この世のものとは思えないほどに整った顔に、色白の肌。
男も女もみんな釘付けだ。
僕にはもったいないくらいの彼女だけど、誰にも渡そうとは思わない。
彼女を失えば、僕は多分一生一人だ。
いつかは諦めていた僕だけど、今は一人で人生を終えるなんて考えられない。
僕は、彼女と一生を過ごしたい。
僕の生活は、彼女と出会ってから劇的に変わっている。
それに気づいた会社の同僚が、仕事中の僕に話しかけてきた。
「お前さ、最近なんかいいことあった?」
「え? どうしたのさ」
「いや、なんか活き活きしてんなーって。女か?」
「うん……分かる?」
「たー! やっぱりかー! どんな子だ? 写メ見せろよ」
「まあ……いいけど」
僕はスーツのポケットからスマホを取り出し、ロック画面になっている彼女の写真を見せた。
「これだよ」
「……お、お前……そういうタイプか……」
彼女の写真を見せると、人は大体こういう反応を取る。
それが僕には不思議でならない。
「どうしたの?」
「いや……な、なんでもねぇ。うん」
ヨロヨロと、同僚は僕から離れていく。
多分、僕があまりにも美人な人と付き合っていると知って、ショックを受けたんだろう。
素敵な優越感が、僕を包んでいる。
家に帰れば、彼女が僕を出迎えてくれる。
同棲生活が始まり、僕は毎日が幸せだ。
結婚も、そろそろ視野に入れていい気がする。
気が早いかな?
でも、それだけ彼女のことが好きなんだ。
「ただいま」
帰ってきて早々、彼女を抱きしめる。
彼女の肌はいつも少しひんやりしていて、早足で帰ってきて火照った僕の身体にはちょうどいい。
きっと急いで帰ってきている僕を気遣ってくれているのだろう。
「ねぇ、キスしてもいい?」
彼女はコクンと頷く。
僕はゆっくり、彼女に口付けした。
今日も僕と彼女は一緒に寝る。
明日も仕事だ。
彼女に疲れを癒やしてもらわないとね。
朝、スーツに着替えた僕は、出勤の前に彼女を抱きしめる。
「行ってくるよ」
そう言って、僕は彼女の美しく透き通っているガラスで出来た目玉を覗き込む。
名残惜しさを感じつつ僕が玄関へ向かうと、彼女の丸い関節でつながっている腕が、僅かにカチャリと音をたてた。
手を振ってくれている。
それだけで、僕は生きる活力を得ることが出来た。
ああ、幸せだ。
愛の人と形 岸本和葉 @kazuki
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