9−2
ジリ、ジリリ……
わたしはキョウヤに相対すると、すり足で動きながら慎重に間合いを調整した。
一回のミスが致命傷になる。
それは前回嫌というほど味わっていた。
一方のキョウヤは余裕たっぷりだ。
右手で銃をくるくる回している。
「さあ、どっからでもかかってきな」
「……」
剣術の試合で口を開くのは得策ではない。
隙ができるし、口を開けば力が抜ける。
無言のまま、少しずつ周回する。
ちら、とわたしは周囲を窺った。
足場はいい。ただ、もう少し木から離れないと剣撃の邪魔になる。
いや、逆か?
木を弾除けに使った方がいいんだろうか?
たっくんは少し離れたところにしゃがみ込んでいる。
きっとキョウヤに何か言われたのだろう。少し怯えた表情で、それでも一心にこちらを見つめている。
「キェイッ」
背後に木を背負ったまま、わたしは一気に仕掛けて出た。
腰構えに『西瓜割』を握り、一気に間合いを詰める。
「キタキターッ」
キョウヤが空かさず銃をホルスターから抜くと三発のファニング・ショットを放つ。
しかし、これは読めていた。
リンボーダンスをするかのように上半身を反らし、扇形に広がる弾幕を素早くかわす。
わたしはそのまま横に転がると素早く飛び起きて体勢を立て直した。
ファニング・ショットの弱点は一度に何発も撃ってしまうことだ。
銃に六発入っているとすると、ファニング・ショットを放てるのはせいぜい二回か、三回だ。
もう一回撃たせれば、あの銃はただの文鎮になる。
そうしたらズタズタのメッタ切りだ。
わたしの瞳に殺気が込もる。眼が半目に据わり殺意を宿す。
「おおっと、やるねえ、姉ちゃん」
キョウヤは軽薄に笑うと再びファニング・ショットを放った。
今度は縦の三発。
ギャリンッ
一発を『西瓜割』の刀身で受け、残りの二発を際どく逸らす。
毎日お風呂上りに柔軟体操をやっておいてよかった。おかげでわたしの身体は柔らかい。それに多少無理な体勢でも強化された体幹で身体を支えることができる。
これで六発。
「ウォーッ」
わたしは雄叫びを上げると『西瓜割』を背負い、一気にキョウヤの懐に飛び込んだ。
だがその刹那。
ゾクッ
わたしの背筋に寒気が走る。
キョウヤの目が笑っている。
わたしの剣士の本能がこれは悪手だとささやいている。
ダメだ、飛び込んではいけない!
わたしは踵を突いて急停止するとバク転して飛び退り、『西瓜割』を八双に構え直した。
手の中で『西瓜割』がチャキンと鳴る。
「ヘッ、姉ちゃん、良い勘してるじゃん」
キョウヤがニヤッと笑う。
「そっちが無駄弾撃たせようとしてるのは知ってたぜ。誰でも考えることだもんなあ」
空になってしまったはずの銃をクルクル回す。
こちらは八双を崩さない。
再び摺り足で間合いを調整する。
構わず、キョウヤは喋り続けた。
「だからな、こっちも奥の手ってな」
そう言いながら背中に左手を回す。
その手に握られたものを見て思わずギョッとする。
キョウヤが左手で背中から引き抜いたものは二挺目の拳銃だった!
ドゥンッ
空かさず左手で発砲。
わたしは放たれた銃弾を『西瓜割』の刀身で払い落とすとさらに下がり、キョウヤとの間合いを取り直した。
キョウヤが両手に持った拳銃をお手玉のように宙に投げ、左と右の銃を交換する。
「こういうのをな、ボーダーシフトっつーんだよ……小僧、リロードしとけ」
たっくんに左手の銃と皮の小袋を無造作に放る。
「……う、うん」
嫌そうに拳銃を握ると、たっくんは一緒に飛んできた小袋から大きな銃弾を一個ずつ摘み出しながらコルトSAAの再装填を始めた。
たっくんの小さな背中を目の隅に見ながら、内心わたしは蒼白になっていた。
これは、まずい。
相手が弾切れを起こさないのではキョウヤの方が遥かに有利だ。
ファニング・ショットを続けられたら早晩弾が当たってしまう!
「仕込んでおいてよかったぜえ。これで当分の間、弾切れはしねえ。……死んでもらうぜ、姉ちゃん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます