第二話 ソード・プレイ
2−1
剣術の修行は楽しかった。
「それ、ほれ、もっと打ち込んでおいで」
長い木刀を構えたお師様がわたしをけしかける。
「えい、えい、やー」
脇腹、頭、手首、足首。
一生懸命打ち込んでいるのに、長い木刀で全部いなされてしまう。
やがてこちらの力が尽きた。
「……はあ、はあ」
肩で息をするわたしの胸をお師様が軽く木刀で小突く。
「ほれ、これで主は死んでもうた。もっとこう、楽に打ち込む方法を考えてごらん。刀の重さを使ってみい。刀の行きたい方向に力を使えばもっと楽に打ち込めるはずじゃ。刀に逆らってはいかん……そもそもじゃ」
お師様はわたしの顎に木刀の切っ先を当ててわたしを上向かせた。
「その、えい、やら、やー、やらいう気合はどうしたものかな」
「……ダメ、なの?」
「駄目とは言わんが、力が入るとはとても思えん。声なんて出さなくてもいい。気合は勝手に口元から漏れる。……見ておれ」
お師様は木刀を正眼に構えた。
にわかに顔つきが険しくなる。
お師様はゆっくりと木刀を頭上に振り上げると、一気に振り下ろした。
「フンッ」
そのまま、沈めた身体を伸ばすようにして振り下ろした木刀を下から斬り上げる。
ブンッ
お師様の剣圧がわたしの左右を駆け抜ける。
頬が切れそうな剣圧。
衝撃波はそのまま地面を走ると、背後の茂みの笹の葉をかすかに揺らした。
「腹に力を入れるのじゃ。臍下丹田、主のへその下に力を込めて振り下ろす。本当に力がこもっていたら声を出す余裕なんてないはずじゃよ。……さあ、もう一回やってごらん」
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
「今日は居合をやってみようかの」
お師様は縁側にあぐらをかくと、いつものように木刀を構えたわたしに言った。
「有栖、その木刀を腰の帯に差し込んでごらん」
「こ、こう?」
「そう。そして腰を落とす。両足は大きく開く。左手を添えて、右手はしっかりと木刀を握る」
お師様は縁側に座ったまま、竹の杖で指示してわたしの姿勢を少し直した。
「抜刀一閃。居合に二の太刀はない。だからこの一刀にすべてを乗せる」
縁側で刀を抜く仕草をしてみせる。
左手の親指で鯉口を切り、抜いた刀を下から斬り上げる。
「この一刀が重要じゃ。斬り上げた刀でもう一太刀浴びせることもできようが、初太刀を躱されたら当たりはせん。さ、やってごらん」
「う、うん」
両足を開き、腰を落としたまま正面を睨む。
「フンッ」
抜いた木刀が頭上で泳ぎ、かろうじて振り下ろした二の太刀はへれへれと地面を叩くに留まった。
「まあ、最初はそんなものかも知れんのう。これからしばらくはいつもの鍛錬以外にこの鍛錬も毎日するように。そこの」──と、お師様はわたしの正面の笹の茂みを杖で示した──「葉が動くようになるまで毎日鍛錬しなさい。葉が動くようになったらまた見てやろう」
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