第三話 なお深い闇の中で
「重ねて七掛け、千代の松葉が竜脈よ、猛きその気を我が身へ宿せ」
朗々と、和歌を詠むように、青年の言葉は夜に響く。
「黄泉より出でて我が従者とならん――」
言葉と同時に取り出すのは、ひとまとめにされた、紙束。
「承前、連唱――」
唱えながら、赤光とともに束は解け、一枚一枚が独立した意志を持つように、舞い始める。
それは、符。
物理法則を無視し、術者の意思のままに踊り散るそれは、拓人たちを取り囲むように地に降りる。
符はその場で地面を蝕むように文字と紋章を広げ、描かれた召喚陣から這い出るように姿を表すのは、
「鬼……!」
繁華街でファビアに襲いかかってきたものよりはるかに大きい、人間大のほどの鬼の式神。
周囲を囲んだ呪符、一枚一枚からそれは這い出し、
「囲まれる!?」
(いけない!)
続いて姿を現す、鬼、鬼、鬼。
包囲網を張るように大量の鬼が這い出してくる。
(ダメ! 逃げて!)
「くっそ……!」
左腕でファビアを抱え上げ、一目散に走りだす。
だが、逃げた先、召喚陣から這い出した鬼が立ちふさがり、
「どけぇえええええ!!」
拳を振りかぶる動きとともに拓人が反射的に呼び出した術は、
〈ブレイズハンド:コード・ドライブ〉
拳の先に星霊力が収束。
強化された身体から放たれる打撃と同時に星霊力を前面に放射し――
「っ!? 威力が出ねぇ!」
しかし敵は衝撃に吹っ飛ぶのみ。対象の消去まで至らない。
想像していた威力の半分も出ていない。
(拓人の演算速度では、ASDなしでの高速展開は十分な出力が出せない)
「なんだよASDって!? ……っんの!」
〈コード・ドライブ〉
会話をしながらも前進。
次々立ちはだかる鬼の群れに、拓人は再度同じ術をぶち込む。
変わらず敵は吹っ飛ぶだけ。だが、取り憑かれるよりはマシと割り切り、次々に拳をぶち込んでいく。
(ASD、アストラルドライバーは武装と一体化した補助演算システム。術式の展開時間の短縮を行う装備)
「アストラルドライバー……あの大砲か! じゃあいますぐ出してくれよ!」
(ダメ。ASDの構築には大量の星霊力を消費する。敵の攻略法が見つからない以上、無駄にはできない)
「ッ――!」
それは、拓人にも理解はできた。
何か突破口が見つかった時に、必要な余力が残っていなければ、その対処もできなくなる。
「でも、温存して負けたら――」
(逃げるだけなら可能。身体強化を全開、慣性・重力制御を適切に行えば――)
「はいはい了解!!」
〈ブレイズレッグ:コード・ドライブ〉
理屈臭い説明を遮り、眼前の鬼へ蹴り。
数体まとまって現れたところに向かって吹き飛ばし、まとめて将棋倒しにする。
一気に前面が開くが、追うように呪符が飛び、逃げ道を塞ぐように三体続けて鬼の式神が呼び出される。
……どんだけ呼び出せんだよ!!
「ったく、やってらんねー!」
〈コード・ドライブ〉
さらに右前面を塞ぐ鬼に拳と星霊力をぶち込み殴り飛ばし、続けて中央の鬼に蹴り。
〈パワーセル内、星霊力残量71%〉
命綱とも言えるエネルギーがさらに減る。
だがその連撃で、右前面が開け、
(包囲を抜けた!)
「一気に振り切る!」
追加で飛ばされる召喚の符は、ひらけた空間を埋めるにはとても足りない。
包囲にはとても及ばない数をかわしながら、鬼の群れから一気に距離を開ける。
「ッ――逃すか! 発起――」
その青年の声にわずか遅れて、拓人とファビアは力の波打ちを感じる。
「何だ!?」
(――術式!)
「土竜牙、急々如律令!」
前方の大地から、猛烈な勢いで岩盤が壁のように突き出した。
「うぉわ!?」
八メートルはくだらない岩壁に前面をぐるりと囲むように塞がれ、思わず足を止める拓人。
続けて背後に三体の鬼が新たに出現。
「挟まれた!? じゃあ、飛び越――」
上を仰げば、拓人たちに覆いかぶさるよう、手前向きに斜角が付けられていた。
飛び越えるには、もっと後ろへ下がらなければならない。
「――手の込んだことを!」
(突破する!)
即断。ファビアは拓人の腕の中で前方、岩壁に向かって手を伸ばし、
「Call! Be activated, the 2nd circuit――」
聞き取れるかどうか、という早口で唱え上げるのは詠唱。
「Drive the Code, Water lance en-9Ft!」
術式の起動を宣言し終えた、瞬間。
ファビアの手から、水で織り上げられた豪槍が放たれる。
直撃の轟音とともに、水槍は三メートル近い大穴を岩盤にぶち抜いた。
「助かる!――ったぁ!」
〈コード・ドライブ〉
背後から来る鬼に、術式をのせた蹴りをかまし、一気に穴を抜け、
追うように鬼も穴を抜けてくる。
「なぁ、ファビア。あの穴って――」
塞いだら利用できないか、と言う前に岩壁は消失。
再び、後方から押し寄せる鬼の群れが視界に入る。
(何?)
「いや、なんでもない」
そう簡単にはいかないか、と脚を進め、一気に距離を取ろうとした、その時。
(――そっちはだめ!)
「なんだ!?」
ファビアの警句とともに、拓人は反射的に足を止める。
前を見ればそこには、眼前に見えない……いや、拓人にもうっすら感じる『壁』のようなもの。
(それは敵が張った結界。そこから先へは行けない)
「壊したりとかは――」
(無理。エネルギーが足りない)
「だーもう!」
どこまで行ってもエネルギー。
魔力の元が絶たれては、魔術師は何も出来ない。
(でも、書き換えるくらいなら――)
言いながらファビアは、拓人の腕から飛び降り、見えない『壁』に手を触れる。
わずかに接触面が青白い光を放ち、
(うん。可能。時間さえあれば何とかできる)
「時間か……どれくらいだ?」
背後からは鬼の群れが追い付いてきたのを感じながら拓人は問う。
(およそ3分40秒)
「早……くもないか。厄介な長さだな……」
約四分間、敵の手からファビアを守り切らねばならない。
(お願いできる?)
問いながら、ファビアは壁から離れ、再び拓人の身体にしがみついてきた。
「……壁に触ってなくていいのかよ」
(アクセスは確立した。改竄処理はこの結界内にいる限り継続可能)
「そりゃ便利なことで――」
だが、勝機はより現実的に見えた、と拓人は己を奮起させる。
……逃げまわるだけなら、カップ麺と四十秒程度……!
「じゃあやろうぜ。あんの野郎の度肝を抜いてやろうじゃねーか」
(うん。じゃあ、これを――)
「Call. Be activated, the 5th circuit」
ファビアは再び透き通るその声で呪文を唱える。
「Load the object-Astral driver Type2」
言葉とともに喚び出した、それは、
〈接続。マスターユニットよりアストラルドライバー・タイプ2を受領しました〉
それは、拓人が最初に触れた銃砲と共通するデザインを持つものの、はるかに小さな姿。
蒼い光を放ちながら、持ち手から短く伸びる銃身。
手のひらでコンパクトにL字を誇るその姿は、
「拳銃……こんなのもあったのか」
(速射重視のタイプ。一撃の威力は低いけど、星霊力の消費も少ない)
「了解。節約しながら時間まで凌げばいいんだな?」
(ん。任せる)
言いながらファビアは再び拓人の左腕の中に収まる。
守るべき重みに、改めて気を引き締めて拓人は前を見る。
「さて、こっから残り時間を逃げ切るには――」
眼前には、壁を背後にした拓人たちを取り囲むように扇状に展開した鬼たち。
前進とともに確実に包囲網を狭めてきている。
〈脅威対象認識。バレットショット。術式装填〉
〈戦術提案:右翼からの包囲網の突破〉
「ま、そうなるよな……」
このままここで持ちこたえるには少し数が多すぎ、そして時間は長すぎる。
敵陣を引っ掻き回しながら、捕まらないように突破、逃走を図るしかない。
……じゃあ。
「行くか!」
*
「であああああ!」
〈コード・ドライブ〉
押し寄せる式神の群れ、その右翼に星霊力の弾丸を撃ち込みながら突っ込む。
一体を一撃、ほぼぎりぎりのエネルギーかつ正確な射撃で立て続けに屠っていく。
撃ちながらさらに前進。
敵の波に乱れが出たところを見計らい、
〈バラックショット――コード・ドライブ〉
星霊力の弾丸を拡散させ面制圧を可能にする術。
銃を腰だめに構え、撃ち出すのは散弾。前方の三体をまとめて片付け、
同時に、
「跳ぶぞ!」
(ん)
開いた空間を踏み台に、空へ跳び出した。
……奴らは、空は飛べないはず――
商店街での戦闘からの推測を元に、一気に振り切るべく採ったその行動は、しかし、
「天に鳴る神、裂く光、邪たる魑魅を薙ぎ祓え――」
瞬間に聞こえるのは、術を詠みあげる声。
力の収束を感じた先にいるのは、術師の青年。
……直接狙ってきやがった――!?
「天鳴雷閃――急々如律令!」
結びの一句とともにその手から放たれるのは雷撃。
慣性で空へ跳びだした拓人には、回避の手段はない。
「やば――」
自らの判断ミスに、拓人は一瞬で血の気が引くが、
(大丈夫)
「へ?」
〈自動障壁。耐自然精霊式障壁展開〉
直撃の直前、迸った雷撃が不可視の障壁に激突し、手前で弾ける。
「うお!?」
だが、殺しきれなかった衝撃で吹っ飛ばされ、スタンド席に落下。
直前で慣性保護が発動し、最低限の衝撃をは消されていたもの、頭を揺さぶられるような衝撃に拓人の意識はわずかにクラ付く。
「っつー……大丈夫かファビア?」
(問題ない)
対するファビアは平然としたもの。
それに僅かな安堵を覚えながら、拓人はすぐに起き上がり、
「解析かなんかが終わるまで後どれくらいだ?」
(推定179秒)
「くそ、地味に長げぇな――とにかく急いでくれよ!」
(了解)
すぐに押し寄せてくる式神の群れに正確な射撃を撃ち込みつ、左腕でファビアを抱き上げ、さらに距離をとる。
観客席の中にも次々と喚び出される式神。
そして、
「天鳴雷閃――急々如律令!!」
「ッ!?」
続けて放たれる雷撃。横っ飛びに避け、着弾にスタンド席がはじけ飛ぶ。
だが、回避した先には待ち構えたように喚び出された、式神。
「しまっ――!」
……ミスった!
あの敵に取り憑かれれば最後。
自分も出会った時のファビアのように身動きがとれなくなる――
解っていても、ゼロコンマの世界での判断が拓人には出来なかった。
故に、
〈緊急自己保存システム作動〉
生存本能に星天術式回路が反応した。
言葉と同時、拓人自身の意識が薄れ、視界がグレーにぼやける。
手足の感覚が薄れ、代わりに運動支援システムが瞬時に肉体の制御権をハッキング。
システムが脳の待機領域を強引に活性化させ、通常では発動不可能な、大規模な術式演算が可能となる。
そして、コンマ五秒に満たない一瞬でシステムが選択したのは、
〈ドライブ-ベクトルアクセラレーション〉
真下、コンクリートの足元へ推進力となる術式をぶつけ、その反動で強引に宙へ跳びだした。
〈マスターユニットへ支援を要請〉
〈Accept the request. Drive-Gravity control〉
ファビアの支援を受け、直後に急降下。
勢いのまま直下の式神三体へ、
〈バレット・ショット〉
落下速度をものともしない正確な照準で、弾丸を三発。過たず直撃させ屠る。
〈深刻な脅威を回避。緊急自己保存システムを終了します〉
激突に近い着地と同時にアナウンス。拓人は意識と全身の制御を取り戻した。
直後、反動のように全身の痛みを感じて咳き込む。
「げほっごほっ……何だ、今の!?」
(生命保存のため、肉体の限界をある程度無視して安全を確保する緊急回避システム。多用は推奨されない)
「……だろうな!」
強烈なGのかかるむちゃくちゃな跳躍、意識が薄れかかるほどの強烈かつ高速の術式処理。
助かったとはいえ三年ぐらい寿命が縮んだような一瞬だった。
「承前、連唱――急々如律令!!」
回避できると予想しなかったであろう青年は、しかし僅かな間をおいて追撃を放つ。
三度目の閃光。だが、とっさに放たれたであろう一撃では回避はたやすい。
跳躍とともに雷撃をかわし、
「ッ! ……いい加減ここはマズイか!」
高所であるゆえ、下の群れはここへ上がってくるのに手間取っているようだったが、それ以上にここはいい的だ。
判断と同時、プラチック製の客席を足場に跳ぶ。
二段飛ばしの要領でスタンド席を駆け上がり、その勢いに乗って最後段の席から背後の壁を飛び越えた。
建物の裏へ着地。スタンド席を盾にするように、敵の直接攻撃は逃れたものの、
「……ってこっちもかよ!」
着地から間をおかず、囲むように三方から新たな鬼が召喚される。
わずかに迷って、左手に現れた鬼を撃ち、そちら側へ走る。
だが、瞬間。
「――八俣が一首、地を這い呑むは火焔のごとし――」
スタンド越しに響く呪文。
「何を!?」
(火属性の古典術――!)
「火焔蛇、急急如律令!」
言葉が結ばれ、圧力のような力の波を感じる。
ややあって、
「……げっ!」
正面に蛇の形を模した、巨大な炎の塊が現れた。
グラウンドからスタンドを迂回してきたのだ。
木々を呑み込み炎上させながら殺到する炎。
回避しようにも、拓人たちの後ろ、そして右にはさらに数を増やした鬼の式神の群れ。
スタンド側の左手にも追ってきた群れの本隊がいる。
「挟み撃ちかよ!」
……さっきみたいに防御障壁でどうにか、と思うも、
(止まったらダメ!)
思念と並列して少女の声。
「Call! Be activated, the 2nd circuit――」
謳うように唱えるそれは、
「Drive the Code, Water lance!」
水槍。
岩壁を打ち貫いたものと同じ術式が、炎へ向かって撃ち放たれた。
蛇と槍は正面から激突し、水蒸気爆発とともに両者は対消滅する。
「すげ……」
(後ろから来る! 走って!)
「あ、ああ!」
水蒸気のもやの中へ突っ込み、そのまま直進。
一気に歩を進め林の中へ飛び込んだ。
*
「捲けた、か?」
(召喚術が追ってこないことから。そう推測できる。ただ、結界空間も狭く、ジャミングも長くは持たない。すぐに見つかると思う)
先ほどの術式同士の激突と、その水蒸気へジャミング効果を付与したことでどうにか霊的探知を捲いた二人。
すこしばかり気が抜けた拓人は、
「っつ……」
鈍い痛みと、強い疲労感を感じ、たまらず膝をついた。
(拓人?)
「ああ、いや……見つかるまでちょっと休んでいいか?」
(構わない。ただ、見つかったらすぐに動けるようにして)
「解ってる……」
ファビアの許可を取り、拓人は息を整えながら目を閉じる。
……さすがに、キツイな……
星霊力を節約しなければならない現状も相まって、無茶な戦闘に拓人の身体の自己修復や調整機能が追い付いていないのだ。
ここまでの戦闘だけでも、元々身体を鍛えていたわけでもない拓人には相当な負担。
アドレナリンでごまかしていただけで、ダメージは確実に溜まっていた。
……何とか、もう少し動けるように……
抑制していた回復術式を活性化させ、少しばかり体の痛みや重さが消える。
消費したエネルギーの残りに意識を向ければ、
〈星霊力残量37%〉
戦闘開始直後に残っていた75%の半分を割ろうとしている。
「あと何秒だ?」
(104秒。解析プロセスは問題ない)
「まだか……」
2分は切ったが、それでも短くは感じない。
「ッ敵!?」
目の前に紋様が浮かび、三体の鬼が姿を現す。
即座に三体続けて速射で片付けるが、続けて六体分の紋様が浮かび、
「……おちおち休憩もできねぇのか!」
距離を取りながら出現直後に潰していくが、召喚紋様は加速度的に増えていく。
移動先を塞ぐように配置されていく鬼を、必要最低限の個体のみ撃破しながら逃げ回る。
だが、今までを超える速度で鬼は展開されていき、
「反則だろこれは! さっきまではこんなに――」
(おそらく、自力移動で追いつけなくなった個体を回収し、再展開していると推定)
「んなのアリかよ!!」
(術式の回収と再展開にはおそらく相当の時間が必要。こちらを発見後、すぐに攻撃をしかけずに準備を整えていたものと――)
「卑怯だぞ畜生!!」
脚力で振り切ったはずの個体が順次至近へ再展開され、包囲網は柔軟に組み直されていく。
撃ち潰していく分も新規に補充されているようで、包囲網は一向に緩まない。
星霊力はみるみる減っていき、
「残り30パー切ったぞ! あと何秒だ!?」
(推定32秒)
……間に合ってくれよ!
目算で召喚陣の少ない空間へ光弾を撃ち込んでいき、開いた空間へ身を滑り込ませるように走って行き、
「……掛かったな!」
瞬間、拓人は自分が誘い込まれたことに気づいた。
視線の先には男の姿。そしてその周囲で六つの符が均等な間隔を取り、それを繋ぐように紋様が踊っていた。
あからさまに大規模と分かる術式。
それは、その場で拓人を待ち受けていたということで、
「――うねりて来たれ、水龍神! 急急如律令!!」
言葉が結ばれ、宙に描かれた紋様から激流のごとく大量の水が吹き出した。
そしてそれは瞬時に龍の形を取り、一直線に拓人たちに向かって突っ込んでくる。
……しまった!?
〈緊急自己保存システム――〉
回避できない、その恐怖に再びシステムが反応するが、
……ッ!!
アナウンスと同時に、とっさに先の感覚を思い出す。
自分が自分でなくなり、無茶苦茶に動かされる恐怖。
それに、
〈発動停止。――契約者が処理を中断しました〉
システムは忠実に反応し、動作を停止する。
……しまっ――
そして、拓人は己の弱さに絶句する。
この危機状態でこそ、使わねばならない機能であったのに。
そして、その間は致命的。もはや回避は望めず、
「Extract the Code!」
故にファビアは唱えた。
悠長な通常詠唱ではなく、より星霊力を消費する高速展開。
だが、必要だと躊躇なく放ったそれは、
「Forest of sanctuary!」
大木。
間一髪で龍の前に立ちふさがったのは、天を衝く勢いで地を裂き立ち顕現した木々の壁。
そこへ龍は真正面から激突する。
(ッ――!!)
激流は轟音とともに飛沫を散らし、しかし勢いは衰えない。むしろ龍の牙が木々を噛み砕かんとばかりに防壁を削り取っていく。
ファビアの星霊力だけではとても防壁の維持は叶わず、拓人のパワーセルからも星霊力が供給されていく。
〈星霊力残量21%、20%、19%……〉
みるみる勢いで削られていく残量。
……持ちこたえてくれ――!
祈るような思いで拓人は念じる。だが、それを裏切るように、
「叢雲来たる天の下――」
「!?」
更なる呪文を唱える声が聞こえる。
……これだけの術を使っておきながら、まだ何かやる気なのか!?
「奇しき蛇の御業を以って、薙ぎたる御霊はここに在り――」
早口で唱えられる呪言は、幾重にも重ねられた術符が剣の形を取りながら朗じられ、
「絶剣“叢雲”――急々如律令!!」
草を薙ぎ、火を払った神剣の名を以って結ばれた。
若葉色の眩い輝きとともに、術符で織られた剣が光を放ち、
「絶ち斬れ!!」
振るわれた瞬間、緑光が空間を薙いだ。
拓人達を守っていた木々は真一文字に斬り飛ばされ、
(まさか――)
……防壁が!?
蒼光となって消える木々を超え、龍神が拓人たちを呑み込まんと殺到する。
「ッ防御を――」
〈耐自然精霊式防御展開〉
寸前で不可視の壁が自動展開。
星霊力の障壁が激流を受け止めるも、
〈星霊力残量11%、9%、7%……〉
先ほどの倍近い勢いで星霊力が吹っ飛んでいき、
〈1%――回路保護のため自閉モードへ移行します〉
間もなく、盾は消失した。
……そんな
遮るものがなくなった瞬間、激流は拓人たちを呑み込み、
身体もろとも、拓人の意識は一瞬で流されていった。
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