聖夜爺・エピローグ
🎅
ホ~ホ~ホ~
ワシは雲のソリに乗り、光のトナカイに乗ってクリスマスの夜空を駆ける。
ホ~ホ~ホ~
ワシは聖夜爺。サンタクロースのそっくりさん。
クリスマスの日に子供たちにプレゼントを届けるのを仕事にしている。
ワシはデパートから飛び立つと八光町の子供たちにプレゼントを配って回った。今や大半の子供たちは裕福だ。みんながいろんなプレゼントを受け取っている。
それでも全員じゃない。プレゼントが当たらない子供もやはりいるのだ。
だが残念ながらワシは本物のサンタクロースではない。
だから彼らに物のプレゼントを配ることはできない。
だからワシは愛と夢を子供たちに届ける。
「キミは愛されているんだよ」
「キミの夢はきっと叶うよ」
そういう思いを胸にそっと灯してまわる。子供たちは夢の中でそれを受け取る。
今はその帰り道。今年も子供たちにプレゼントを届けることができた。
おや? ワシは八光町から七ツ闇町に向かうバスに気付く。
そのバスの中から、一人の貧しい子供のいる気配を感じ取る。
今年のプレゼントも最後の一つ。これは彼に上げることにしよう。
🌸
ああ、私は幸せだ。
私の目の前にはごちそうが並んでいる。
どれもこれも話でしか聞いたことのないようなものばかり。
和食、洋食、中華と揃っている。
私はまず寿司をつまむ。脂ののった大トロ。ふわりといい香りのウニ。上品な味のイクラ。甘くとろけるボタンエビ。それからウナギの白焼きを少し、これははじめて食べた。たまらないなぁ。
今度は中華だ。とろけそうなフカヒレのスープ。何の味だかわからないが、うまいのだけは分かる。それから北京ダック、香ばしくてパリパリの食感がいい。燕の巣というのもあるが、これは後回し。あまりおいしそうに見えないから。
さてさてメインはこれから。結構いろいろ食べたけれど、ペース配分は完璧だ。鉄板の上ではジュウジュウとステーキが音を立てている。こんなに分厚いのは初めて見る。しかもステーキにはなにか乗ってる。ひょっとしてこれがフォアグラ?
味の予想が全くつかないが、とにかく合わせて食べてみる。
「……なんなんですか、これは……」
知らない間に私は泣いていた。
美味すぎて泣いていた。
しかもまだまだごちそうはある。
山盛りになったカニ、七輪で焼かれている松茸、ローストポークもあるし、まだロブスターも食べていない。
だが慌てることはない……まずはこのカニから……
🌸
「……せんせ、せんせ! 起きてください!」
私はカニに手を伸ばしているところだった。
だが私が伸ばした手の先にはなにもなかった。厳密にはクロコがいるだけだった。その胸に真珠のネックレスが揺れている。
「まさか……夢オチ?」
「先生、何言ってるんですか?」
「いや、だからごちそうが……いや、ここは?」
クロコは深くため息をつく。
「ここはバスの中です。デパートから帰る途中です。先生、たぶん聖夜爺に夢をプレゼントされたんですよ」
「え? あなたの言う意味がよく分かりませんが」
クロコはまたため息をつく。
「さっきの先生、かっこよかったのになぁ……あたしの方は夢が壊された気分ですよ。だいたいご馳走を食べるのが夢だなんて……」
🎅
ワシはそんな二人のやり取りに耳を澄ます。
いや、あそこにいたのがあの二人だったとは思わなかった。
あの気配からして、てっきり子供だと思っていたのだ。貧しくて、それでも純粋で、そしてあんなにもご馳走を求めていたから。
それにしても最後の最後にして、いい大人にクリスマスプレゼントを渡してしまうとは。
じゃがまぁそれも一興。
何といっても今年はホワイトクリスマス、彼らはトナカイもソリもしっかりと治してくれたのだ。
「これぞまさに『雪駆け(ゆきがけ)の駄賃』といったところかのぅ」
ホ~ホ~ホ~
第五夜『聖夜爺』 終わり
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