第12話 地下格闘家Sさん<1>

Sさんは、マッサージ店がオープンしてからずっと来てくれているお客様だった。


最初は、ヤカラっぽく来店したから、私や同僚も「ん?」って思ったけれど、意外と、と言ったら失礼だけど、礼儀正しく、私たちの間でも好意的に思っていた。


私自身も、何度かSさんを施術していた。


その中で、Sさんがキックボクシングをしているという話から、私も元ボクサーという事で話をするようになった。


Sさんは、ストリートファイトは幾度となく経験しているけれど、地下格闘技のイベントに出場するのは初めてだった。


私はつたないながらも、プロで12戦、ボクシングの聖地後楽園ホールを主戦場に戦ってきた経験から、少しアドバイスさせてもらったりした。


そんな私の話でも、興味深そうに聞いてくれるSさんに、私も好感をもっていた。


そんな中、試合の3週間ほど前、Sさんが来店した。


すると、様子がおかしい。


聞くと、練習中に左の肋骨を痛めたらしい。


パンチを打つと痛むらしい。


もしかしたら、ヒビが入っているかもと思ったが、筋肉を補強するキネシオテープを貼ったらどうかと思った。


今は持ってないので、後日テープを持ってきて貼る約束をした。


Sさんは、5日後に約束通り来店した。


テープを貼っても、まだ若干、痛むらしい。


試合日まで、あと僅か。


私がSさんを施術し終わり、次のお客様が入っていたけれど、パンチのコンビネーションなど、熱く語り合っていた。


試合はプロではないから、10オンスのグローブだった。


それでも、左の肋骨に良いのをもらえばアウトだろう。


かつての自分のある試合と重なり、熱くなってしまった。


私は必ず試合を見に行くと約束した。


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