第11話 愛すべきキャラクターkさん<3>

「ワシな、ずっと肉体労働しかした事がないんよ。」


いつになく真剣な表情のKさん。


「退院してから、軽めの仕事させてもらってたけど、やっぱりムリやなって・・・。だから・・・田舎帰ろうと思ってな・・・。」


なんか、寂しそうなKさんの顔を見るのが悲しくなってきた私。


「だから・・・この店来るのも、今日が最後やねん。最後してもらうんがエレジーさんで良かったよ。」


「あ、ありがとうございます・・・。」


こんな心の準備もなく、Kさんを施術するのが最後だなんて・・・。


とりあえず、次の予約もあったので、感傷的な気持ちを切り替えて、いつもの60分コースを始めた。


Kさんは、いつも施術する人間にいろんな事を質問してくる。


だから、この店のスタッフのだいたいの事は知っている。


でも、いざ自分の事となると、多くを語らない。


でも、この日はいつもと違った。


「エレジーさん、俺な、仕事終わって、車でコンビニ寄って、缶ビール買って駐車場で飲むんや。」


「え?なんでなんすか?家帰って、ゆっくり飲んだらいいじゃないっすか?」


「家帰っても1人やろ。だから、なんか帰りたくないねん・・・。」


普段接している時の明るいKさん。


でも、私たちが知らないKさんの心の闇を垣間見た気がした。


Kさんの田舎は、遠く遠く北にある県だった。


「あ、エレジーさん、今日は顔もマッサージしてくれる?」


いつも、「おう!おまかせで頼むわ!」というKさん。


Kさんがリクエストしたのは初めてだった。


そういえば、顔がむくんでいた。


「はい、わかりました。」


私は深く詮索しなかった。


最初は、シリアスなトーンで話していたんだけど、途中からは、いつものバカ話しで笑いあっていた。


しかし、無情にも時間は刻々と過ぎていく。


いつも過ごしている同じ時間じゃないように、あっという間に60分がきてしまった。


「今まで楽しかったよ!ありがとう!」


話しを聞いていた、回りの施術中のスタッフも、Kさんにお辞儀をしていた。


「こちらこそ、いつもご来店して下さって、ありがとうございました!Kさん、田舎帰っても、お元気で!」



Kさんはいつも、店を出て、背中を向けたままで、右手でバイバイする。


今日もいつもと変わらずに、こちらを向かずに右手を振っていた。


私は、感傷的な気持ちになり、Kさんの後ろ姿をしばらく見つめていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「あーーーっ!ごめーーーんっ、Kさん!顔するん忘れてたーーーっ!」


まぁ・・・また、縁があれば再会するだろうし、しなくても、Kさんとの思い出は、私の心の片隅に残って、たまに、宝箱のように開けて、私の心を暖めてくれる事だろう。


人生ってやつは、こうやって出会いと別れを繰り返して歳取っていくんだろうなぁと、考えさせてくれたKさんだった。





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