第9話 愛すべきキャラクターKさん<1>
「おう!今、いけるか!」
「おう!今、忙しいか!」
店の電話に出ると、開口一番に、いつもこう言ってくるKさん。
だからと言って、ヤカラではない。
最初は、どんなヤカラが来るんだろうと思っていた。
「いらっしゃいませ!」
ライオンのたてがみのような髪型、爬虫類の皮の柄の雪駄。
色黒で眼光は鋭い。
背丈はそんなに高くない。
でも、なんとなく回りを威圧するオーラをはなっている。
雪駄を脱ぎ、椅子にドカッと座った。
私たちも、一瞬身構えた。
「ご予約のお客様でしょうか?」
対応したスタッフを、皆で心配していた次の瞬間。
「予約していたKです~!お願いしま~す!」
急にニコッとして、頭をペコッと下げた。
先程の、回りを威圧するオーラからの変わりように、心配していたスタッフたちも、思わず微笑んだ。
そして、また眼光鋭く回りを見回す。
「コースは60分で間違いないでしょうか?」
「はい~!お願いしま~す!」
また、ニコッとして、頭をペコッと下げた。
そのやりとりを聞いていた回りのスタッフは、もう、微笑みどころの笑いですまなくなった。
Kさんが回りを威圧して、眼光鋭く見回すのと、ニコッとして、ペコッと頭を下げるその繰り返しが、出来の良いコントを見ているようだった。
また、Kさんのニコッと笑った笑顔がなんとも憎めない。
それから、Kさんは月に2度ほど来られるリピーターになった。
Kさんは指名しないので、だいたいのスタッフが施術していた。
来店の電話、来店してからの態度。
もう判で押したように、毎回同じなんだけれど、何故だか笑ってしまう。
やっぱり、その人間が持つキャラクターなんだろうなと思う。
同じダジャレを言っても、しょーもない!と思うのが、この人が言うとなんかオモロイみたいな感じ。
Kさんは、いつも60分の、足つぼとマッサージの半々のセットを選択する。
私も何度か施術した。
そうすると、他のお客様には絶対にそんな話し方しないけれど、Kさんとの掛け合いを楽しむようになってきた。
「え~また、エレジーさんか~!帰ろうかな~!」
「あ、そうですか。お客様お帰りで~す!出口はそちらです!」
「おい!帰らすなよ!居させてよ~!」
「まったく、ワガママなお客さんだ。」
「おい!俺、お客様やぞ!」
と、まぁ、いつもこんな調子だ。
ある時、私がKさんの足ツボをしていた時。
「イテテテっ!エレジーさん、そこ何の場所?」
足ツボには、それぞれ体の臓器などと関係している場所が決まっている。
「ここですか?ここは・・・誠に言いにくいんですけど、睾丸です。(笑)」
「こ・う・が・ん?なんや、それ?」
「あ、玉金です。(笑)」
「玉金?ワシ、悪い遊びしてへんで!」
「Kさん、別に性病ちゃいますよ。(笑)」
と、いつも笑いながら楽しく施術できるKさんは、私だけでなく、他のスタッフにも人気がある。
何度か施術しているうちに、いろんな話をするようになった。
Kさんは独身で独り暮らし。
1度も結婚したことないとの事。
話も面白いし、外見もイカつくて、男の私から見ても女性がいても不思議ではない。
そして、何故、指名をしないかというと、指名した事によって、先々、気まずくなったらイヤだと言うことらしい。
確かに、ずっと指名してくれた人が他のスタッフに変わったりして、気まずくなる事はある。
でも、それはお客様の自由。
自分よりも、他のスタッフの技術が良かったという事だ。
とにかく、そういう煩わしさがイヤで、Kさんは指名しないらしい。
それと、驚いた事に、私と同じ歳だった。
「え~!Kさん、僕と歳同じなんですか?僕はてっきり老け・・・いや、貫禄があるから、年上かと思って・・・。」
「あ!今、老けてるって、言おうとしたやろ!」
そんな調子で、なんか仕事してるって感じは全然しなかった。
でも、しばらくすると、私も指名のお客様が増え始め、フリーで来店されるKさんを施術できなくなってきた。
稼ぐ為には、しょうがないんだけれど、なんか、それが寂しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます