第7話  私がいっち番嫌いなタイプの人間

前にも書いたけれど、基本的に、飲酒されているお客様は断らなければならない。


しかし、現実は多少酔っていても施術している。


深夜なんか、皆で飲んだ後、複数で来るお客様もいる。


ただ、1つ言えるのは、オープンスペースなので、他のお客様の迷惑にならなければ、という条件がつく。


その日の夜は忙しく、施術者が8人いたけれど、ほとんど全員施術していた。


残っていたのは、Sさんだけだった。


Sさんは、入ったばかりの新人さんで、30代の男性。


見るからに穏やかそうな人だった。


私は入り口に一番近いベッドで施術していた。


「いらっしゃいませ!」


中年の夫婦が来店された。


残っていたSさんが対応した。


「二人いけるる~かっ!」


明らかに、ら行の呂律が回ってないし、声のボリュームもおかしい。


断るかどうかの判断が微妙な客だった。


二人同時だと、30分後になってしまう。


「あ~ん、30分待たなあかんのか!」


またしても、声のボリュームがおかしい。


始まる前から、こんな調子だったら、施術中もいちいち文句を言いそうなのは想像がつく。


これは断らなければいけないレベルだなと思った。


ただ、この手の客は断り方が難しい。


案の定、施術中のKさん(この店を実質仕切ってる人)に呼ばれた。


やはり断るよう言われていた。


不安そうな顔をするSさん。


(頑張って、Sさん!)


私は心の中で応援した。


「あ~ん!さっき30分後にいける言うたやないか!」


(やっぱりな・・・)


案の定、ゴネだした。


「そうよ!さっきアンタ、30分後できる言うたやない!」


女も一緒になって言い出した。


(できの悪い女やの~)


私は心の中で思った。


ウチの嫁さんだったら、絶対に言わないだろうと思った。


普通、旦那なり彼氏の手綱締めるんが、できる女だなぁと私は思う。


私は、いつ助け船を出しに行こうかとタイミングを計っていた。


ただ、助け船を出しに行くと、すぐには終わりそうにはなかったので、今、施術中のお客様に迷惑がかかってしまう。


しかし、次の瞬間、男が発した言葉で私のスイッチが入ってしまった。


「お~こらっ!暴れたろうかっ!」


その男は、Sさんの顔に自分の顔を近づけながら凄んで言った。


「ピッ!」


「〇〇さん、ちょっとスミマセン。」


考えるより、体が勝手に反応して、タイマーを止め、自分が施術していたお客様に断りを入れた。


私は、Sさんと男の間に割って入った。


「お客さん、申し訳ありません、当店は飲酒されているお客様はお断りしていますので。」


言葉の文句は丁寧だけれど、声色はというと・・・。


「お前、ええ加減にせえよ!」


という勢いで言った。


威勢よく立ち上がって、Sさんに文句を言っていた男。


私の威圧的なオーラを感じたのか、目を逸らして椅子に座った。


「お客さん、申し訳ありません、当店は飲酒されているお客様はお断りしていますので。」


もう一度、男の顔を見据えて言った。


男から先ほどの勢いはなくなっていた。


もう少し面倒臭い展開になるかと思っていた私は、少々拍子抜けした。


「そこの人が30分後にいける言うたや・・・」


できの悪い女が、横からちゃちゃを入れてきた。


「お客さん、申し訳ありません、当店は飲酒されているお客様はお断りしていますので。」


私は、できの悪いバカ女が言い終わるのを待たずに、被せて男を見据えて言った。


普段、接客する時は、お客様の目線よりも下になるよう、しゃがんで対応する。


しかし、こんな客はお客様とは言えない。


私は立ったまま、威圧するように見下ろして、対応した。


私は、パッと見、イカつく見えるらしい。


この顔のお陰で、よけいな争い事をせずに生きてこれた。


両親には、本当に感謝している。


「こ、こんな店二度と来るか!」


男は案外、あっさりと引いた。


普段も、この手の客はいるけれど、この客は特に酷かった。


私は、こういう明らかに立場の弱い人間に、逆らえないからと高圧的な態度をする人間を見ると虫酸がはしる。


そんな胸糞悪い夜だった。




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