第6話 キン肉マン
その日は遅番だった私。
夜の10時くらいに珍客が来店された。
その日は結構忙しく、スタッフのほとんどお客さんがついていた。
私ともう一人空いていたけれど、30分後に予約が入っていた。
しかも、12時くらいまで予約でパンパンに埋まっていた。
飛び込みのお客さんは、お断りしなければならなかった。
すると、1台の車が店の入口に横付けされた。
私が1番目だったので、対応しなければならなかった。
車は、助手席から一人の男性を降ろし走り去った。
私が入口の所に立ち、男性が入ってくるのを待っていた。
・・・何か様子がおかしい。
ガラス越しに見える男性。
くの字に体を折り曲げたまま、ジッとしている。
しばらくして、くの字の状態のまま店内に入ってきた。
「あーーろ、ろくじゅっぷん・・・あーーも、もんでくれ、くれますか?」
目の焦点が定まらず、完全にいっちまった顔になっていた。
酔っ払い、しかも泥酔していた。
店の規則で、本当は飲酒しているお客さんはお断りしなければならなかった。
しかし、現実はなかなか断りづらく、少々酒が入っていても施術していた。
だけど、このお客さんは、そのレベルではなかった。
2本の足で立つのがやっとというくらい泥酔していた。
まぁどっちにしても、予約が一杯なので、断らなければならなかった。
なので、変に「飲酒されているお客様は・・・」と断って絡まれるより、「本日は予約が一杯なので・・・」 と断る方がややこしくならないだろうと思った。
「・・・ですので、申し訳ごさいません。」
絡まれないように、丁重にお断りした。
「あ~ん・・・ダメなのか!」
あまり下手にでるのも、しゃくだった私は、少しドスを効かして答えた。
「はい、申し訳ごさいません。」
すると、そのお客さんは顔を上げ、私を見た。
私も、そのお客さんを見据え、さらにドスを効かして言った。
「申し訳ごさいません。本日は予約が一杯ですので。」
お客さんは、私の顔ではなく、体をしばらく見つめていた。
「お、俺は・・・あ、アンタみたいな筋肉マンに揉んで欲しかったんだよ~。」
「申し訳ごさいません。」
なんか筋肉マンと言われたのが、少しおもしろかったので、笑みを浮かべながら言った。
周りのスタッフもやりとりを聞いて、チラチラこちらを見ていた。
「お、俺は・・・き、筋肉マンに・・・おい!筋肉マ~ン!」
何故か私は、この酔っ払いに「筋肉マン」と認識されてしまったらしい。
「き、筋肉マンに・・・おい!筋肉マ~ン!」
そう言い残して、結局、そのお客さんは帰って行った。
もう、ゆでたまご先生作のキン肉マンみたく呼ばれて、オモシロくて仕方なかった。
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