第5話  ピンチはチャンス!

その日は早番でオープンから出勤していた。


順番が4番目だった私は、店舗の接客は3番目までのスタッフに任せて、休憩室でのんびり新聞を読んでいた。


しばらくすると、お客様が入ってこられて、応対した女性スタッフと談笑している声が聞こえた。


「エレジーさんっ!」


10分ほどして、応対していた女性スタッフが血相を変えて休憩室に入ってきた。


話を聞くと、最初はいい雰囲気で施術をしていたんだけど、途中で急に文句を言い出したらしい。


私以外は3人とも女性だったので、対応に不安を感じ男の私に回ってきた。


「お客様、私が代わりに施術させて頂きます。」


私も13年のキャリアがあるので、まぁ誠意を尽くしてアカンかったら、しゃーないと毅然とした態度で施術を始めた。


「アンタ、うまいな。」


5分ほどして、お客様が私に言ってくれた。


機嫌が良くなったのか、90分コースだったお客様はずっと喋りっぱなしだった。


私も一緒になって話していたので、いつもなら回数を右と左を同じだけやっているんだけど、回数が分からなくなってしまうほどだった。


聞けば、そのお客様は60代の方で、自分で会社を起こし40数年経ち、今は会長職をのんびりとやっているそうだ。


「おたくの名刺くれるか?」


施術が終わると、お客様は私に言った。


私は奥から自分の名刺を1枚持ってきてお客様にお渡しした。


「もっとないんか?ワシの知り合いにも紹介したいから。」


今までもたまに思っていたんだけど、ピンチだなって思える状況が、実はチャンスと表裏一体だと思う。


現役の頃、ピンチだなという状況が1発のパンチで、いい状況に変わった経験が少なからずある。


「お前も気に入らん!わしゃ帰る!」


あるいはそんな結果になっていたかもしれない。


そうなったらそうなったでしゃーない。


人生って結局はなるようにしかならない。


そうやって、開き直りというか諦めも必要じゃないかと思った出来事でした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る