扉越しの会話

エアロックを解放し、固定の確認を終えた僕はゆっくりと進んでいった。重力制御が切れているために、磁力靴を床に押し当てる様に歩く。

数分もしないうちにブリッジに入るために設置されている気密扉についた。構造上エアロック構造にはなっていない。パスコードを打ち込もうとして気づく。

中から開けてもらえば良いんじゃないかと。

僕は通話を選択して艦内無線で琴音さんに話しかけた。

「琴音さん、気密扉を開けてくれませんか?」

「艦長を必ず救ってくれると約束するなら?」

「もちろん、艦長も琴音さんも救い出すよ」

「いいえ、船体も無い、記憶もないヒト型インターフェイスに意味はありますか?私は残ります」

「琴音が降りないなら、私も艦長の最終脱出義務を侵すわけにはいきません」

「船体はまた取戻しにこれます。記憶は新しい物を作ったり、経験できたりできるよ。それに岩崎さんを助けたくは無いのかな?三原則に反しないかな?」

そう言いながら僕はハードディスクドライブを出していた。

「それを言われるとツラいです。弱いモノいじめをしてヒドい人です、開けます」

気密扉を開くと、そこには小さな宇宙服を着た人と普通サイズの宇宙服を着た人がいた。

「僕は相沢順平です。琴音さんこれを」

艦長席で僕の方を向いているのが岩崎さんなのだろう。

太陽光と電磁波から守るヘルメットのバイザーに遮られて表情は見えない。

「琴音さん。このフォーマット済みのハードディスクに琴音さんの記憶を移し帰るのに何分かかるかな?ハイパーUSBケーブルも持ってきたいよ」

はっとしたかのように声が高鳴る琴音さんだった。

「15分です」

やはり表情が見えない岩崎さんに聞いてみる。

「岩崎さん、残り酸素残量は?」

「初めての会話が実務的な会話なんてモテないわよ。ふふ30分です。それと再循環系が15分よ」

琴音さんが自分のデータと移すために宇宙服からUSBケーブルを引き出し、制御盤に取り付け、それからハードディスクを取り付けるのを確認すると岩崎さんに話しかけた。

「緊急脱出の脱出タイムは?」

「お姉さんとの会話楽しくないかな?最速で7分よ」

何かとてもうれしそうな声が聞こえる。

「それでは余裕がありますね。これで脱出できますね」

「本当に強引なんだから?お姉さん困るわ」

妙にうれしそうに答えられた。

「武装商船は海賊みたいなものですよね?海賊は海賊らしく力尽くで奪っていくとか何かの古典で読んだことがあります。所でなぜ僕の年齢を知っているのですか?じゃないとお姉さんとは呼べないはずでは?」

「どんな人が多助に来るかは重要じゃない。それは琴音が綾音さんに順平君のデータを送ってもらったからよ。データより頑固で強情なのね」

順平君と呼ばれるとなぜか恥ずかしい。

「本当は理不尽な理由で人が死ぬのが見たくないだけです。そこは宇宙生活者としても船外活動要員2級の有資格者の宣誓と義務が許しません」

「それじゃ私は海賊に掠われるのね。お姉さんと琴音の事もよろしくね。海賊さん♪」

危機的状況だけど妙に楽しい会話が続く。楽しい会話は時が立つのは早いものだ。

「コピー終わりました」

僕たちの脱出が始まる。

                                   続く



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