二人の会話
僕は黙々と腕立て伏せをしている。重力制御下で腕立て伏せをしているから体に負担が来る。
綾音さんはじっと見守っていてくれる。
「29.30」
「はい。3セット目の腕立て伏せは終わりです。少し休憩しましょう。終わったら、腹筋を30回、3セットとスクワット30回、3セットをして終わりにしましょう」
「それだけで良いの?」
「はい。短時間の船外活動でしたし、船外活動の終わった後の興奮と疲労時の筋力トレーニングは危険ですから、筋肉を痛める原因となります。筋力トレーニングが終わればストレッチをしましょう」
「そうだね」
「順平さん。ごめんなさい。さっき言いそびれました」
「私が持っとしっかりしていれば、戦闘下での船外活動と言う危険な行為をしなくても済んだのに」
「綾音さんを修理するのは約束だから。それに船外活動をしないと綾音さんが壊されてみんな死ぬか酷い目にあっていたかもしれないしね。それに出航前点検を最後までしっかりするべきと意見を言わなかった僕にも責任はあるから。綾音さんは艦長に従っただけだから。でもまた同じ事はしたくないし、デキるとも思わないけど」
「やっぱり順平さんは不思議な人です。普通の船外作業要員の方たちは危険なときは虚勢を張ったり、自慢したり、誰かを責めて船外活動を行わないのが普通だと思いますよ」
「僕は船外作業員になりたいから。どんな危険な目でもみんなを助ける事ができる船外作業要員が目標で、それにあの時はああするしか無かったから」
そこで綾音さんと僕の目が合った。
妙に恥ずかしい。
綾音さんも何か恥ずかしそうにうつむいた。
僕は照れ隠しに言葉を発した。音になっていればいいのになと思う。
「そろそろ腹筋をしよう」
「そうですね。足を押さえます」
僕は黙々と腹筋を始める。
綾音さんは僕の足を掴み、じっと僕を見つめている。
ちょっと恥ずかしい。
腹筋に集中しないといけない。
少しして腹筋が終わる。
「順平さん。お疲れ様です。後はスクワットとストレッチだけですね」
「そうだね」
「どうして順平さんは優しいんですか?」
「へっ?僕は優しく無いよ。内心いろいろ思った事はあるよ。でも悪い人にはなりたくないから。やっぱりいい人でいたいと思わないかな?」
「私はプログラムされた感情で動いていますから、人間の方の感情は分かりかねます」
そう言うと綾音さんは少しさみしそうに微笑んだ。
「ごめんね」
「順平さんは悪くありません。それに本当に悪い人は命をかけて船外活動を行う事はできませんよ。いろいろな船外活動要員を見てきた私が言うのですから間違いありません」
恥ずかしくなってきた。
「そろそろスクワットするね」
「話をごまかさないでください」
「よく見ていてね」
そう言ってスクワットを始める。
「1」
仕方が無いと言う表情を浮かべて綾音さんは僕を見つめてくれる。
やっぱりちょっと恥ずかしい。
僕は雑念を振り払う様にスクワットをしている。
集中。
そんな雑念を抱いてしまった。
「順平さん。終わりですよ」
綾音さんの声ではっとする。
「教えてくれてありがとう」
笑顔で答える。
「順平さんはずるい人です」
「何がずるいのかな?」
「なんでもないです」
「さぁストレッチをしましょう」
僕はストレッチを始める。
お互いに発する事は無かった。
船外作業要員の筋トレは大切な事だからだ。
いろいろなストレッチをして今日の筋トレも終わる。
「監督してくれてありがとう。綾音さん」
「これくらいの事はいつでも言ってくださいね。それと艦長からの命令です。今日はシャワーを浴びて部屋に戻ってゆっくり休んでください。私も疲労が一番の敵だと思います。現時刻から10時間休んでんください。寝ても良いそうです」
「シャワー使っていいの?」
「はい。シャワーを使ってください。疲れをとってくださいね。私は自動クルージングモードで学園まで戻る時の運行をしないといけませんのでブリッジに戻ります。本当に今日はありがとうございました」
ぺこりと綾音さんは頭を下げて出ていった。
僕は選外作業要員質に備え付けてある簡易シャワーに向かって歩いていった。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます