当直時間

筋トレを終えて、食事をして、仮眠を取った後僕はブリッジに向かった。

10時から9時までの実労働時間9時間のブラックな作業時間だ。

オートクルージングモードだから僕のできる事は少ない。

工藤亜里沙を起こして、起きてこない場合は緊急時に綾音さんの要請を承認するだけだった。

責任重大だけど頑張ろう。

綾音さんとビショップ先生もいる。

他力本願とはこの事かな?

ブリッジから女子会独特のハイテンションな声が聞こえる。

まだ僕の話題で盛り上がっているのだろうか?

ブリッジの前のドアにたどり着く。

僕は女子会を邪魔するのもまずいと思って、ひらっきぱなしのドアを軽くノックした。

こんこん。

「順平何をしに来たのよ」

工藤亜里沙の一声は理不尽なものだった。

「当直時間の交代だよ」

「あぁそうね。来るのが遅いわよ。みんあ女子会は終わりよ。綾、後は頼んだわよ」

理不尽だ。そんな思いにかられながらブリッジに入りにくくて立っていた。

紗枝さんは立ち上がり、ドアの側にいる僕の方に向かってきた。

「まぁこんな所ね。相沢君よろしくね」

軽く僕の方を叩く。

「お姉ちゃん良いなぁ。眠たいだろうけど頑張ってね」

何がいいだろう?

「応援ありがとう。光帆さん、紗枝さん」

「何かあったら艦長の私をすぐに起こしなさいよ」

「分かっている。起きてこいよ」

みんなが出て行ったのを確認すると僕は火器管制手席に座った。

マニュアルでも読んでおこう

「相沢君は勉強熱心ですね」

ビショップ先生がブリッジに入ってきた。

指導教官だから来るのは当然の事だったけど、忘れてた。

「レーザー砲は船に固定されていますから、操縦手と密接な連携が必要です。火器管制手はレーザー砲の発射タイミングが重要となります。本当は訓練をしたいのですが航海中ですし、相沢君は当直ですからね。訓練をして注意力をそらす訳にはいきません」

「ブラック企業だな」

ぽつりとそんな言葉が出た。

「許してください。順平さん。艦長は船外作業員だったお父様を海賊の襲撃時に亡くされています。それ以来船外作業員の方に心を閉ざしているんです」

「それはどう言う事?」

「5年前の事です。私とビショップ先生とお父様と艦長で輸送業務を行っていました。その時、救難信号を出している船を見つけました。救助の為に近づき、お父様が宇宙服に着替え、状況確認の為に乗り込むと人質に取られました。船と亜里沙さんを渡せば、助けてやると言われたのですが、お父様は艦長命令として逃げろと言われました。すると海賊たちは見せしめと言う事でお父様をバトルアックスで殴り殺しました。その映像は付近を航行する宇宙船に放送されました。だからあのような悲しい思いをしたくないから順平さんには亜里沙さんは強く当たりますし、私も順平さんを強く守りたいと思います。だから危ない事はしないでくださいね」

綾音さんは寂しそうに微笑んだ。

船外活動要員として活動するのは荷物の積み込みだけじゃない。

船が故障した時も船外活動をしなければいけない。それはこのクラブに入って決意した事だ。

僕は火器管制手席を立ちあがり綾音の方に向かうと、綾音さんの側に行く。

そのまま人差し指で綾音さんの額とを人差し指でつついた。

「何をするんですか?」

「船が故障したら、みんなみんなが助からない。もちろん僕も。船外活動は帰ってくるまでが船外活動だから生きて帰ってくるよ。勇気が出るか分からないけど」

僕そう言うと微笑んだ。

「やっぱり順平さんは変で素敵な男の子なんですね。船外活動要員の方は嫌がって逃げていくのに残りたいって変ですよ」

綾音さんも優しい笑顔を浮かべる。

「綾音さんとの約束だしね」

「そうでした約束でした。約束した事も亜里沙さんのお父様の事も秘密にしてくれますか?亜里沙さんのトラウマになっています」

「秘密にする。これも約束するよ」

「ありがとうございます。当直任務に戻りましょう」

「そうだね。頑張ろう」

僕はそう言うと柿實瀬主席に戻っていつか打つかもしれないレーザー砲のマニュアルを読み込むのだった。

                                続く

  

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