工藤亜里沙と女子会

僕はトレーニングルームに来ていた。

無重力空間に出る船外作業員にとっては必要な時間だった。筋力の低下で動けなくなったり、骨からカルシウムが放出され骨折しやすくなる。

しかし女子会をするからって追い出すのは間違っていると思う。

「何か納得がいかないと言う顔ですね」

「船外作業要員が開いた時間に筋トレをするのは分かっています。それに夜に女性と男性と一緒にいる恐怖も分かるつもりです。でも艦長の言い方は理不尽だと思います」

「じゃぁ聞いてみますか?現在私は工藤亜里沙の試験官でもあります。彼女の行動を知る必要があります」

そう言うとビショップ先生は壁に設置された端末に向かい受話器を取り上げる。

「綾音君、会話が工藤さんに聞こえない様にお願いします。ブリッジの画像および音声データを送ってくれますか?音声データはスピーカーモードでお願いします」

「どうしてですか?」

「私は工藤さんの試験官ですから。艦長としての資質を見極める必要があります」

「分かりました」

「相沢君。心を揺らす事無く頑張ってください。まずは腹筋から始めましょう」

「はい」

「そろそろ本題に入りましょうか?ねぇ艦長?艦長は相沢君の事どう思っているの?」

「えっ?それは使い捨てのごみよ」

「酷いよ、艦長」

「それは言い過ぎじゃない?」

「そう言う紗枝と光帆はどうなのよ」

「普通の感じよね」

「良い人だと思うけど」

「二人とも甘いわよ。船外作業要員は使い捨て。そう割り切らないと辛いわよ。もしかしたら戦闘中に船外活動を命じないといけないかもしれない。突然のスペースデブリで宇宙服が破れて死ぬかもしれない。そんな状況に順平を送り出さないといけないのなら初めから好きになってはいけないのよ。それに人として好意を持たれてる人に危険な命令を出して恨まれるぐらいななら人として嫌だし、艦長としても人としても嫌われている方が良いのよ。光保は順平と話す機会が多いから気を付けておきなさい。辛いけどね」

工藤亜里沙の話を聞いて僕はがく然とした。確かに船外作業要員は宇宙服だけを頼りに真空の宇宙空間で命がけの作業を行う。嫌っていた方が危険な命令を出しやすい。理には適っている。

「艦長。辛いと言う事はもう好意を持っていると言う事じゃないの?」

「艦長、好きなんだ」

「そんな事ねーし」

「そう言う光帆はどうなのよ?」

「まだ少ししか話していないけど、どう言う好きかは分からないけど素敵な人だと思う。綾音ちゃんはどうかな?」

「アンドロイドの私に対しても優しくしてくださる方で勇気を持った方だと思います。信頼しています」

がく然とした気持ちは薄れて気恥しくなってきた。

光帆さんの甘い声と綾音さんの優しい声が脳にこだまする。

女性に好意を持たれたのは初めてだ。

工藤亜里沙に何かしたかな?

「光帆は艦長に胸で勝てるけど、綾音ちゃんがライバルだと厳しいわね」

紗枝さんどういう意味ですか?

僕は心の中で突っ込んだ。

「その話をする?私は普通の大きさよ。ウェストは勝っているわ」

「順平さんはそんなところで人を判断しません」

「光帆と不毛な争いをすると言う事は好きなの?」

「女性として一般的な反応よ。紗枝、過ぎた話を蒸し返さないで」

トレーニングにならない。

女子会は僕の話題で盛り上がり、僕は恥ずかしさに耐えながら筋トレをすることになるのだった。                                                               続く  

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