工藤亜里沙の発進指示
「これより、出航を行いたいと思います。光保、学園の管制室にドック内に人がいないか確かめるのと警報を出してくれる様に頼んで。一応通信はスピーカーモードにしてね」
「通信系アプリはこれだから、管制室を押して、よし、管制室聞こえますか?」
「はい。こちら管制室」
「OTO0、綾音の発進許可を求めます。そのためのドック内の避難指示を出していただけますか?」
「了解」
別にエンジンをふかす訳でも、突然空気を減圧する訳でも無いけど、エアロックの内側の扉を開くと、もうエアロックの外側の壁を挟んで宇宙空間だ。安全確認に越した事は無い。
かすかにだが、外部のエアロックに向けて船台を移動する事を表すブザー音がブリッジに無いにも聞こえる。
「全作業員は安全区域まで待避してください。繰り返します、安全区域まで待避してください」
管制室の声が聞こえる。
別に作業員はいないんだけど、これはお約束事だった。
「光帆、生体反応のスキャンを管制室に依頼してちょうだい」
「はい、艦長。管制室聞こえますか?ドック内の生体反応のスキャンをお願いします」
「了解です。スキャン開始します。しばらくお待ちください」
「了解です」
未だに生体反応のスキャンの仕方は分からないのだけど、赤外線反応と胴体センサーの組み合わせの様な気がする。
「スキャン完了。作業員はいません」
「光帆、エアロックの内側の扉を開くように要請して」
「管制室、エアロックの内側扉の解放をお願いします」
「了解開放します」
このやり取りを聞いていると僕のテンションが上がってきた。
発進シーンは男のロマンだと思う。乗組員としての初めての出航だし。
ドック内の扉が開いていくのが見える。
「解放完了」
「光帆、開放を完了したと船台のエアロックに移動したい事を伝えて」
「解放の確認をしました。船台の移動をお願いします」
「了解しました。船台の移動を行います」
どうん。
船を載せた船台が移動を始める。
船が動いていくの分かる。緊張感とも興奮ともとれる感情が湧き上がってくる。
「みんなシートベルトつけて。それからきちんとついているかシートベルトの確認は良い?」
僕はシートベルトを着用すると、たるみが無いかとかチェックした。
「紗枝から順次報告して」
横目でちらりと紗枝さんを見る。操縦手席と火器管制手席は正面に向かって隣同士になっている。
シートベルトが胸に食い込む。何を見ているんだ僕は!これが光帆さんならどうなるんだろう?気になるけど見れない。
「シートベルトには異常はありません」
僕の番だ。
「同じくありません」
「シートベルトに異常はりません」
「こちら管制室、船台のエアロック内の移動を確認。内側扉の閉鎖と船台の人工重力の停止をしてよろしいですか?」
「艦長、どうしますか?」
「停止をして欲しい事を伝えて」
「エアロックの閉鎖と人工重力の停止をお願いします」
「了解です。椅子から移動しない様にしてくださいね。慣性力で動く事になりますから」
「はい。ありがとうございます」
「人工重力停止。エアロック内側ドアの閉鎖を確認しました。エアロック内の減圧を開始します」
「艦長?」
「減圧をしても良いですか?」
「減圧を許可して」
「減圧をお願いします」
「管制室了解しました」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「減圧終了、エアロックの外側扉を開いても良いですか?」
「光帆、エアロック開放と船台の加速開始を要請して」
船も人口流力を停止している。どんな事故が発生するか分からないからだ。船台にも人工重力は発生していない。船台が加速して得られる慣性力で発進が行われる。
船台の後ろにはストッパー兼船を押し出すための板状の頑丈な物体がついている。
「綾音ランディングギアを収納して」
「外側扉の解放を確認しました」
「ランディングギア収納」
「光帆、テンカウントから加速の準備を要請して」
「もうですか?」
「そうよ」
「船台加速をテンカウント後に要請します」
「管制室了解。テンカウントを開始します」
10・・・いよいよだ。
9・・・緊張が高ぶる。
8・・・もう後には引けない。
7・・・発進までの時間を永遠に感じる。
6・・・あと六秒だ。腹をくくらないと。
5・・・何も考えられない。
4・・・あと少し。
3・・・シートの手すりを掴む。
2・・・発進への期待が高まる。
1・・・歯を食いしばった。
0・・・船台加速開始と言う声が聞こえた。
リニアカタパルトで船台事、船は押し出された。
事故防止の為に速度はそれほど早くない。
船台は発進口の途中で止まり、そのまま船台から得た慣性力で船は押し出された。
僕の初めての乗組員としての航海が始まったのだ。
続く
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