ポスターと部長

綾音さんのさみしい笑顔を見ていると僕は改めて決意をする。

なぜ綾音さんが悲しいか分からないけど。

さみしい理由を気が引けて聞けなかった。

だけど・・・

綾音さんを助けたい。

何かを言わなければならない。

だけど言葉が見つからない。

二人を気まずい空気が包み込む。

さっき決意したばかりじゃないか?

だったらもう一度その決意を言葉として述べればいいじゃないか。

「綾音さん。僕はどんな事があっても危険な船外活動があっても、このブリッジに戻ってくるよ。船外活動要員だからね」

「順平さんありがとうございます」

「そろそろ印刷をしよう」

「そうですね。印刷をしてきますね」

綾音さんはまだ納得していない様だった。空気がやはり気まずい。

綾音さんは静かにタブレット端末を汎用オペレーター席に持っていき、有線で接続する。

それでいくつかの操作をすると、プリンターを使うアプリを立ち上げた様だった。

フィーン

ガシャ。

ガシャーン。

ガシャーン

プリンターの大きな音が響き渡る。

「えっ」

綾音さんはびっくりした様な声を上げる。

「初めて使う機能なので、プリンターの作動業況を掴めませんでした。こんな音がするなんてびっくりです」

綾音さんは悩まし気に右手をほほに当て、首をかしげるのだった。

でも綾音さんとプリンターのおかげで気まずい空気は破られた。

僕は決意をすると同時に優しい気持ちになる。

「綾音さん」

「はい」

「僕は必ず帰ってくるから」

「どういう事ですか?」

「僕は船外活動要員だから必ずブリッジに戻ってくるよ。約束するよ」

「順平さんありがとうございます」

フィーン

また違ったプリンターの音がする。

「気にしないでね。僕の仕事だからね。印刷が終わったのかな?」

「そうですね。終わりましたね。どんな感じか見てみましょう」

そう言って綾音さんはプリンターから用紙を取り出して、僕に渡してくれた。

ありがちな構図だけど、悪くない。綾音さんもかわいく映っている。

はっきり言って盗作くさいけど、いくつも似たような画像がある。

悪くない。

でも綾音さんは恥ずかしそうだ。

「恥ずかしいです」

「綾音さんはかわいいし、格好が良いから大丈夫だよ」

ゴン。

ゴン。

ブリッジの入り口に設けられたエアロックを叩く音がする。

びっくりして僕達は入り口の方を見るのだった。

「順平の機械フェチ。何アンドロイドと盛り上がっているのよ。美少女艦長が帰って来たのよ。それに気づかないなんてどうかしているわ」

それは痛い。頑丈な扉を叩くのも痛いし、自分を美少女と言うのも痛い。

ラノベ《ラノベ》でもそう言う事を言うキャラクターは少ないはずだ。

だけど機械フェチってなんだ?

僕は機械フェチじゃ無い。

だけどそれを口にすると綾音さんが傷つく。

反論をしようと工藤亜里沙を見ていた。

工藤亜里沙は偉そうに艦長席に座る。

「順平、ポスターを見せなさい」

「あぁ」

むかつくので普通に返答を返せなかった。

仕方なくポスターを工藤亜里沙に渡す。

「これまた定番のかわいいポスターね」

「私は格好良くないです?強そうじゃないですか?」

「綾音はかわいい方ね」

「順平さん、私をだましたのですか?か弱いアンドロイドをだましてひどいです」

「綾音さんは強そうだと思ったよ」

「順平そうかしら。アンドロイドの綾音を見て、平甲板板型とか独特なシルエットとか思わなかったかしら?」

「順平さん、本当ですか?私をそんな目で見ていたいんですか?」

「見ていないよ。言いたくないけど、平甲板型なのに独特なシルエットをしているのは工藤さんの方だよ。綾音さんのアンドロイドはかわいいし、船は相当強く格好良く思うよ」

「このナイスバディな私を捕まえて平甲板型で独特なシルエットですって!」

「オーナー。現実と向き合いましょう。順平さん。それはセクハラに当たりますけど、真実を述べてくださってありがとうございます」

「綾音まで。人を馬鹿にするのにもほどがあるわ。まぁ良いわ。順平、ところで3Dポスターはどうなったのかしら?」

「今見せる」

そう言って僕はタブレット工藤亜里沙に見せた。

「なかなか出来が良いじゃない」

そう言うと工藤亜里沙は端末生徒手帳を出し、タブレットと有線で接続してデータを移すのだった。

「順平。良くやったわ。これからポスター掲載の許可を生徒会にもらってくるわ」

そう言うとブリッジからポスターの用紙を持ってブリッジを後にする工藤亜里沙だった。

僕たちはあっけにとられていた。

                                   続く

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