綾音さんとポスター
ポスターの題材に綾音さんを取り上げて、綾音さんがセーフモードに入ったのなら理由を聞かなければならない。同じ事を繰り返してはいけないからだ。
「綾音さん、どうしてセーフモードに入ったのかな?」
「お恥ずかしい話ですが、感情プログラムの恥ずかしさのパラメーターが、最大値を超えて、感情処理プログラムがエラーを起こしてセーフモードになったのだと思います」
「やっぱりポスターの絵柄を船体と綾音さんをモデルにするのは恥ずかしいかな?」
「そうです。ポスターです」
綾音さんはそう言って数秒固まる。
またセーフモードに入ったのかな?
声をかけた方が良いのかな?
「綾音さん大丈夫かな?」
「はい。大丈夫です。感情を処理するためのアプリケーションを立ち上げました。どうしても私の画像をポスターにしたいのですか?」
「そうしたいと思っているよ」
「私の画像を使った方がクラブの為になりますか?」
「綾音さんはかわいい良いから大丈夫だよ」
「順平さんは意地悪です。立場の弱いアンドロイドをいじめるのはパワハラです」
「いじめてないよ。船体の画像だけでもだめかな?」
「船体の方が恥ずかしいです。痛んでいる所も多いですし、学内SNSの掲示板に乗せる3Dモデルでエンジンの噴射口を見られたら恥ずかし過ぎます。プライバシーの侵害です。痛んで変色しているエンジンの噴射口を人に見せるなんてできません」
僕は綾音さんを船でアンドロイドと再確認するのだった。
人と恥ずかし方がずれている。
「ダメかな?クラブに入りたい人は綾音さんが、どんな船か分からないと入部申請をしにくいのじゃないかな?どんな船か分からないと不安だと思うよ。それに綾音さんの船体は強くて恰好良いからみんな安心すると思うよ。
「私は格好良いですか?」
「相当格好いいと思うよ」
「えへへ、格好良いのですね。元は軍艦ですからね。かっこいい私を見て入部したい人がいるかもしれないのなら仕方ないですね。クラブの為にも船体と私の画像データを使ってください。エンジン回りの汚れだけは修正してくださいね。格好良くお願いします♪」
なぜだろう?
かわいいがダメで格好良いの方が納得しやすいのかな?
軍艦だった時の誇りが残っていて、格好良いとか強いとかの方が納得しやすいのだろうか?綾音さんが喜んでくれているならそれはそれで良いだろう。
「じゅあ修正するね」
そう言って僕はタブレット端末で作業を始める。
数分後、作業を終え、綾音さんに話しかけた。
「じゃぁ仕上がりを見たいから、プリンターは設置されていないかな?」
「私が建造されてから一度も使っていませんけど、ありますよ。汎用オペレーター席についています。今プリンターのソフト立ち上げますね。ブリッジ内は電波の使用は禁じられていますから、有線で接続していください。建造時から一度も使っていませんから、インクが固まっているかもしれまん」
「かなり古いプリンターなんだね」
「古いですか?」
機嫌良く、会話していたはずなのに急に綾音さんは不機嫌になる。声が低い。
「確かに建造時から一度も使っていませんが、古いは言い過ぎです」
声が低い。完全に怒っている。
プリンターの話だと思ったのに。
プリンターが古い?
建造時から取り替えていない?
=綾音さんの建造時とプリンターの古さは一緒。
綾音さんも古い。
そう受け止められても仕方ない。
綾音さんが古いと言った事になる。
これは失敗だ。
ラノベ《古典》の展開でもそれは無い。
僕の知識と経験でどう乗り越える。
「すいません。必要のない発言でした」
「別に古いと思っていてもかまいませんよ。船外作業中とか必要な作業の時以外は順平さんに対して無口になるだけですからね」
「別に悪意があった訳じゃない。許してくれないかな?」
「だめです。順平さんは船に対して優しくありません」
「綾音さんはかわいくて強くてとてもかわいいと思いますよ。現代でも通じるよ。完成された本物の実用美を兼ねなえているよ」
「いけいけですか?」
21世紀でも死語だろう。分かる僕もどうかと思うけど。
「ぴちぴちだよ」
やっぱり20世紀に使われた言葉で返してみる。
「仕方ありませんね。船外作業要員の方とは仲良くしないといけませんしね。印刷を開始します。それにしてもアンドロイドに下手に出る人はいませんよ。アンドロイドに対して高圧的な人が多いですよ」
「綾音さんは船で僕は綾音さんを修理する船外作業要員だからね。仲良くしたいと思っているよ」
「私が戦場にいても、爆発や放電の危険があっても修理してくれるのですか?」
そこまで覚悟した事は無かった。
だけど
だけど・・・
綾音さんとまだいない部員が乗るこの船を守れるなら、そうする事も悪くないと思った。
軽すぎる発言かもしれないけど綾音さんに話してみよう。今ある自然の感情だから。
「必ず船外活動を行って修理してみせるよ」
「ありがとうございます。でも本当に危険な時は逃げてくださいね。順平さん」
そう言って悲しそうに微笑む綾音さんだった。
続く
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