誘惑

「相沢君。ねえってば相沢君」

僕は入学式を終え、少しできた休み時間の間に古典の小説ラノベを読んでいた。地球の古書店にしか置いてなくて、インターネットで注文した本だ。地球に行って買うのも、宅配で配送料も払うのもかなり高い。宇宙空間と言う所は物理的な距離が広いから運送コストがかかりすぎるのだ。そんな事を考えながら、読み古した古典ラノベを読んでいるのだった。僕にとって至福の時間だった。初めての入学式も楽しかったし。それを邪魔をしてくる少女がいる。人目もあるので対応しなければならない。そう思い小説を閉じた。

「どうしたのか?工藤さん」

「あなたって、船外作業員2級と空間ボルト締め工法三種とケーブル接続工法三種を持っているって本当?」

何か期待をする目で見てくる。

「本当だよ」

「はったりじゃないわよね」

「じゃあ携帯端末生徒手帳で情報交換する?」

僕は工藤さんが痛い女の子だと言う事を忘れて舞い上がっていた。一日で女の子と連絡先を交換できるはずが無いからだ。古典ラノベでもこんなおいしい展開は見た事無い。宇宙空間でいろいろな資格を必要とされるし、学園からの情報の発信を一元的に管理するために携帯端末を渡されている。そこには個人情報も含まれている。いろいろな資格の管理を分かりやすくするためだ。もちろん携帯端末としての機能も持っている。僕は胸ポケットから携帯端末を取り出すと短距離赤外線通信のアプリを立ち上げた。古臭い確立された技術だけど、学園の電子機器に短距離の赤外線なら影響を与えないし、技術が確立しているから故障する事も無い。古い技術だけど使える物は使うと言う僕達の常識だった。

彼女も携帯端末生徒手帳を取り出した。

携帯端末生徒手帳をお互いに近づける。

「データの送受信を行うよ」

「良いわよ」

三十秒ぐらいで通信が終わる。

彼女は自分の携帯端末生徒手帳を見ている。

「あなたは最高よ。良い人材が手に入ったわ」

悦に入って満面の笑みを浮かべていた。

「放課後、第一番ドックに来なさい。良い事を教えてあげるわ」

良い事ってなんだ。僕は期待と言う名の下心がわいてくる。

そう言うと工藤沙里差は自分の席に戻るのだった。

何が待っているのだろう。チャイムが鳴る。次に授業は実用英会話の授業だった。

ノートへの書き写しも返答も全て英語で行われる。宇宙空間ではどんな国籍の人と話すか分からない。その時に意思を確認するために必須技能だった。気を引き締めないとと頭で思うのだけど、授業に向けての気合が入らない僕だった。

                                 続く

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