47 恥辱バニーガールズ
「よーし、つぎこれイってみよう!」
俺が渡したタータンチェックのアイドルコスチュームを着て、
「可愛い……けど……スカート短くないですか?」
「いや、公式が出してる衣装だから健全だぞ!」
公式が出せば膝上30センチの超ミニスカートでも健全!
間違いない。
「おまぁ……! これ消費者庁指導前の……ランダムカラーのガチャレアじゃん……」
驚いたバニャが俺を見て、不安そうな顔をする。
「あははー、そうだっけぇ?」
「フルセットで二着も……いくら使ったんや……」
「いやー、クジ運いいからなぁ俺!」
真っ赤な嘘。
上下にリボンとブーツ、ヘアアクセサリと揃えるのに5万は軽く使ってる。
その先は考えたくないので、ただ無になって回し続けた記憶だけある。
「あと髪形だけど……和は47番のカラー3、バニャは71番カラー1な」
俺がレア髪形変更チケットを渡すと、またバニャが
「これ……αテスター向けの限定記念品……RMTで2万すっぞ……」
ブツブツと変な目つきになりながらレアチケットを凝視する。
お供えパワーの資金を稼ぐためには、バイトなんかよりゲーム内のレアアイテムを売りさばくのが一番いいことは分かっているが、それだけはゲーマーとしてできなかった。RMTが横行するゲームはそれだけ人気があるともいえるが、金銭トラブルで荒れることも多い。
「あの……」
言われるままに髪形を変更した和は、ずっとスカートを手で押さえてモジモジしている。
金髪ツインテールに赤いタータンチェックのアイドル衣装でそういう顔されると、危険な香りがするな……。
「……うっは! ネバネバ、たまんね~!」
「きゃあ!」
プラチナヘアーにサイドポニー、青いタータンチェック衣装のバニャが涎たらしながら和に抱き着く。その動きだけで結構きわどい。
「はいはい、はじめるぞー!」
プロデューサーよろしく俺は手をパンパンと叩くと、二人が踊り出す。
音楽がポップスなんで動きもまあまあ激しい。
「や……ちょっと……!」
「おめー! この振付はダメだろぉ~!!」
「はーい! 笑顔! 笑顔! スマイル忘れてるよぉ~~!」
二人はしきりにスカートを気にしているが、実はそっちじゃないんだなあ。
このゲーム、特別な人体エンジンを使っているので、下着を装着しても胸が現実じゃありえないぐらい揺れる。あとシャツの丈が短くてヘソチラしっぱなし。ワキチラのあるノースリーブと迷ったが、警戒されすぎないようこっちにした。
「これは……いいですよ! いいですね! 私の
エレクトラが両のこぶしを握って震える。
「そうだろう、そうだろうて」
二人が見えないよう防御するのは計算済み。
そこまでトータルで予測してのチラリズムである。見えそうで見えない。でももしかしたらコマ送りで見えるかも!?
そのイデアの世界でこそ、人は幸せになれるのである!
「……もういや……」
「コロスコロスコロス……」
踊り終わって座り込む二人に、俺は次の衣装を渡す。
「まあまあまあ! これで最後だから、な? 頼むよ! これで終わり! ラスト! もう少し! 俺を助けて! 一緒にギルドを救おう! ね?」
「はぁ……」
「お前……なんか変な仕事してんじゃねぇ~の……?」
「お願い! これっきりだから! ちょっとだけ! ちょっとだけ、ね? 嫌だったらすぐ止めるから、一生のお願い! 和、な? 俺がやましい気持ちじゃないって、信じてくれるよな?」
「は、はぁ……」
「バニャ、和はああ言ってるよ? な、お前がOKしてくれれば、これで済むんだよ? お前しだいだよ? お前が決めるんだよ? 互いの時間大切にしよ?」
「ちっ、わ~ったよ」
「じゃ、よろしくー!」
二人が衣装を交換。
「……っ!」
「……はぁっ!?」
和は気づくと顔を真っ赤にしてすぐしゃがみこんだ。
バニャも顔を赤らめて前かがみに胸を押さえる。
ウサ耳もネクタイも網目タイツもカフスも揃った、バニーガールのフルセット衣装である。
これも高かったんだぞー。買った月なんて、昼飯が空気と水道水だったんだからな。
「じゃ、いってみよう!」
「せ、先輩っ!」
「ダメに決まってんだろぉ~!!!」
猛烈な抗議にたじろぐ俺ではない。
「……あのさあ。ミニスカの次にそれより露出の少ない衣装なんて渡すわけないでしょ。二人ともまさか分かってなかったなんて、お子様みたいなこと言わないよねぇ~? キミタチ、なにしにここまで来たの~?」
俺はわざとらしく首をかしげる。
「柴田さん、かつてないぐらいゲス顔ですね……」
さっきまで大興奮だったエレクトラまで引いてる。
いや、セクシーだけど公式だからね!?
公式、健全、楽しいダンス!
二人のウサギちゃんが俺をすごい顔でにらみつける。
俺はその殺人光線から目を逸らすと、モーションを開始。
「えぇっ!?」
「なんで勝手にぃ~!?」
二人が強制的に踊り出す。
ちょっとセクシーなやつ。ポールダンスとかも参考にしている。
「俺、パーティリーダーだから。リーダーがPTタブでシンクロモーション押せば、メンバーが同じように踊るの知らなかった?」
「ううぅ~~……」
「てめー! あとで覚えてろよぉ!」
「今を生きる主義だから、俺」
これの難点は俺も一緒になってセクシーダンス踊っちゃうところ。
まあ、カメラは第三者視点で固定してるから問題ない。
「柴田さん、外道ですね。柴田鬼畜とかに改名されては?」
「でもお前、喜んでない?」
「そりゃ~、もう! 自分の手を汚さないで得る獲物ほど美味しいものはありませんよ? でへへへへ」
「どっちが外道なんだか……」
誘うような腰つきと胸の揺れに顔を赤らめながら、こっちを恨みがましい目で見つめる二人。
バニーコスは水着装備判定なので、オプションの水滴も付けておいた。
それが二人の身体を伝って流れ落ち、髪を濡らす。
ついでに屋敷の気候設定も冬に変えてあるので、二人の吐く息が白く描写される。
それが合わさるとあたかも上気した身体に汗が流れ、興奮で思わず漏れる吐息のように見える。
「こんな……の……イヤ……」
「おまぇ……ぜった……い……ゆるさねぇ……」
さらにダンスは激しくなり、二人の身体の火照りも増す。
流れ落ちる水滴は二人のエナメルハイヒールの足元に水たまりを作った。
「は……やく……おわ……ってぇ……」
「くっ……なげぇ……ん……だ……よぉ……」
泣きそうな、すがるような目で見つめてくる和と、唇を噛みしめて俺を殺さんばかりに睨んでくるバニャ。
背徳的な気分で背筋がぞくぞくする。
NPCじゃ、この表情はとうてい出せない。
やはり生は違うな。
これは芸術だ。
「……ポチっと」
つい俺は誘惑に負けて、音楽と踊りをリピートしてしまう。
「そ……んなっ……」
「お……ま……えぇぇ~~……」
また最初からだと気づいて、二人は絶望的な顔になった。
二人の身体が動くたび髪の先からしずくが散り、黒レザーのバニースーツは水滴で妖しく光る。羞恥心で興奮状態の脳波がVRにフィードバックされ、二人の呼吸も浅く早く激しくなる。
「あ、もう……もう、だめぇっ!!!」
「あっ……んっ……ああああっ!!!」
和とバニャが限界を超え、喉をそらして悲鳴を上げた。
ようやく曲が終わり、ふたりは崩れるように倒れ込む。
「はぁはぁはぁ………」
「けほっ……けほっ……」
二人とも何も言えず、肩で荒い息をしている。
「ブラボー!!! いやぁ~よかったよ! 二人とも! 感動したっ!」
ぐったりする二人に拍手する俺。
俺の言葉に、ゆらりと二人の背中から殺気が立ち上った。
「…………先輩。お話があります」
「ブチ殺す…! 死んでも殺す…! 生き返ったらまた殺して殺すっ…!!!」
激怒し、嚇怒し、憤怒する二人のバニー。
ああ、ここまできたなら俺も男だ。覚悟を決める。地獄の底まで行ってやるぜ……。
「あのぉ、あと一つ念のため持ってきた衣装あるんすけど、どうっすかね?」
俺が差し出すも、二人は瞳孔の開いた瞳で俺を凝視して目線を逸らさない。
「こ、怖いから二人ともまばたきして?」
「……まずどんなのか、説明してください」
「あ、ははは。ただの水着だよ? 可愛いやつ。プールサイドで、どう?」
「さっさとぉ~どんなのか~説明しろよ、おらぁ~!」
「……エナメルでちょっとお姉さんポイ感じ?」
「それ胸元とわき腹にめちゃめちゃエグイ切り込み入ってて、ハイレグTバックのやつだろぉ。……クズだな、おめぇ」
「………最低」
うわぁ、ゴミを見る目だー。
でも、俺は逃げない!
男だから!
「や、俺も女キャラだし、同じ格好で踊るよ? 踊るよ? 女子会だよ?」
「でも中身は先輩ですよね?」
「ド変態がっ」
あ、ダメだ。
やっぱ逃げよう!
「あははぁ、じゃまたの機会にしよっか? 二人ともいい思い出になったね! じゃ、撤収ってことで!」
「あ、ちょっと! 録画したの消しなさいっ!!!」
「またんかい、わるぇえええ~~~!!!」
このあと捕まって滅茶苦茶怒られた。
しばらく口も聞いてくれなかった。
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