-Phase.04- 学校の人気者になろう!
25 週三レピュテーション
「エレクトラ、どうなった?」
「いやー、けっこう凄いことなってますね~。柴田さんの読み、ドンピシャです!」
「……かなりヤバめ?」
「ヤバみですよ~。スクショ送っときますねー」
放課後。
俺はホームルームが終わると同時に教室を飛び出した。ダッシュで昇降口を抜け、校門から駅へ向かう。
幸いにもホームルームが短かったせいで、通学路を歩く生徒はまばら。
改札を走り抜け、折よく到着した電車に駆け込んだ。
加速するモーター音を聞きながら、俺はドア横でスマホを確認する。
午前の休み時間に俺と
『男迎えに来たウケル』
『くらっ 葬式か!』
『あいつ2年しょ』
『
『勘違いストーカー』
『ブスとお似合い』
『キモが2匹に増えた』
こいつらぁああああ!!!
まとめて往復ビンタしてやりてえッ!
いや違う!
縛り上げて、絵筆であちこち撫で回す拷問にかけてやりてぇ!
「脳内とはいえ、変態行為はほどほどにしてくださいねー」
「はっ! 思わず口に出てた」
メッセージのスクショが次々と出てくるが、どれもこれもひたすら悪口雑言、陰口叩き。絶対に和には見せられないような酷いのもある。
「これ何人参加してるんだよ!? 10や20じゃ利かないだろ」
「会話してるのは50弱、見ているのは200といったところでしょうか。柴田さんと和さんの画像は、他の複数グループにも拡散してるようです」
「コミュニティ怖すぎぃ! コミこわ!」
「ミジンコの知らない大海ですねー」
「知りたくなかったわ、こんなもの!」
あらためて眉村尊の人気っぷりと、取り巻きのクソっぷりが光ってる。
「あ、追加ですよ。どうします?」
「こいやー!」
「追い悪口入りまーす!」
エレクトラのつぶやきとともに、新着画像受信!
さーて、どんな凶器が出てくるのかな~? タップタップ!
『尊様キレたw』
『いま探してる』
『どこ?』
『2P』
はえーよ! はえーって!
いずれ来るだろうとは思ったが、尊くん驚きの俊足だね!
どんだけ妹のこと愛してしまってるんだよ、あいつ!
念のためさっさと逃げといてよかったわ。
『尊様いない どこ』
『ドゲザいなかったから、ブスのクラス行った』
あ、やべ。
俺は慌てて和にメッセージを送る。
『眉村が俺のこと聞いてくる、適当にごまかして』
『どうしたんですか?』
『会ってるのチクられた』
『わかりました』
『しつこかったら俺に電話するよう言って』
『大丈夫です!』
黒猫がフンスと鼻息を出すスタンプがくっついている。
「なんだか頼もしいですねえ~? ニヤニヤ」
「ニヤニヤすんな、マンガか」
和の中でなにかが良い方に変わってくれるといいんだけどな。俺がどうやっても根本は和の心の話だから。
「ああ、忘れてた。俺の
「どれどれ、見てみましょう。……おぉ~、33ですよ! 一気に10はあがりましたね!」
「エグすぎて笑うしかねえ……」
「もしかして、柴田さん。これ狙ってました?」
「予想外に眉村の反応が早いけどな」
俺が人気者になるなんて、はなから無理な話だ。
ボッチコミュ障がいきなり誰からも好かれるなんてチートは存在しないし、もしそんなものがあったら、それこそ世界はクソゲーだ。
才能があったり、心優しかったり、努力した人が報われないってことになる。そんなものはゲームですらない。
俺は、主人公にはなれない。
だから
毎日毎日、ハズレしかないのが分かっていて、クジを引かされているような気分だった。結果がわかってるのに、期待だけ持たされてやっぱりハズレでため息をつく。このクジはゴミだと、いじけた不満を言うくせに、自分でクジ箱をかき混ぜすらしない。
だからモブがお似合いだ。
それでも有名になる手はある。
悪名を上げればいい。
「レベル100との差を早く縮めるには、これしかないだろ」
「たしかにそうですけど……」
「なんだよ、お前。悪魔の契約させといて、いまさらノリ悪いじゃねーか」
「私は女神です! 不敬ですよ! ──たしかにレベルがどんどん上がるのはいいことですが、これは劇薬みたいなものです。くれぐれも無茶はしないでください。それに柴田さんだって正攻法で上げることもできるんですよ?」
「まあ、俺もそれは考えたけどな。ユー◯ューバーになれば人気出て金も稼げるし」
「高校生にもなって夢が残念すぎます!」
「夢は見るもんじゃない、叶えるものだ!」
「叶わないものは見ているだけにしてください!」
「いい子ぶりやがって……」
「私は常識
「だから、ここへ来たんだよ」
☆★☆★
俺は繁華街の駅で降りた。「歩きスマホはやめましょう活動」をした駅だ。
東口を出て陸橋を渡り、商店街の信号を右に曲がって細い道に入れば左手にブルーの看板が見える。
看板はオシャレなデザインで「ソロプレイヤー」と書かれている。
やべえ、緊張してきた……。
ドアを開け、店内に入る。
カウンターには店員がいた。
高校の制服の上に店のエプロンをつけた女子高生である。
バッチリメイクに美容室でカラーリングしているであろう派手な髪。街中を歩いていたら、男どもが振り返るレベルの美少女だ。
ただし………。
「おぉ~、タイガーじゃ~ん! めっずらしいなぁ~、どした~ん?」
滑舌がおかしくて、声がめっちゃアニメ。ロリっていうか、高いっていうか、小動物っぽいっていうか。
「すいませーん! すいませーん! 誰かいますかー?」
「おい、無視すんな~! うお~い! おら~!」
俺の目の前でピョンコピョンコ跳ねて手を振る。
「誰かいませんかー? すいませーん!」
「おい、ぼけかすこらぁ~っ! バニャだぞ~? バニャいるぞ~?」
「ん? ……ああ、なんだバニャいたの? ウザかったから無意識に無視してたわ」
「おかしぃ~だろ? お前おかしぃって! 世界が滅んでもバニャ無視すんなよ!」
「あー、ウゼえ……」
「またウザいつったぁあ~! おめぇ~のがウゼ~しぃ! ウザウザウザウウザウザ!」
「すいませーん! 誰かいませんかー? おたくの九官鳥、逃げてますよ~!」
「九官鳥ちゃうわ! 愛され美少女だわ! 目ん玉ほじくるぞ!」
「いいから、お父さんかお母さん呼んできてくれる?」
「留守番してるお嬢ちゃんじゃね~し! バニャは17歳だしぃ! お前と同いだろ~が、うすらぼけなす!」
「あれー? そうだっけ?」
「そうだっつの。覚えとけよ、まったくあほめが」
このうるさいのがバニャこと、
俺のやってるVRMMORPGのギルメンで、ジョブは
「ん~で、なにするん? ヒトカラ? ネトゲ? 割腹?」
「最後おかしいだろ」
「ん」
バニャはレジのバーコードリーダーを掴み、キラキラネイルの指をわきわきする。
「おまえ、それセクハラだぞ……」
「はぁ~?」
「その手つき、それで俺のナニを揉むつもりだ……!」
「揉まねぇ~から! 会員カードだせって手だろがぁ! バカか!」
「今日は利用しに来たんじゃねえよ」
「な~ん? 冷やかしかぁ~。しゃあない、ダベっか」
「いや、それ」
俺が指さすと、バニャは自分の後ろを振り返る。
「バイト募集!」と張り紙がある。
「えっ? おまっ、ちょまじぃ? ここで働くん!?」
俺は無言でカバンから履歴書を出し、バンとカウンターに叩きつける。
「えぇ~っ、マジガチのヤバもんじゃ~ん! お前働くの? ここでぇ? ウケる」
きゃらきゃら笑い出すバニャ。
声がうるせえ……。
「だから偉い人呼べや!」
「あ~、いまテンチョいないわ~。履歴書あずかっとくし、置いてけよ」
「おまえに俺の運命を託すのは嫌なんだが?」
「あたし、ここのバイトリーダーだかんな?」
「サーセン」
高二で普通ありえないが、たしかにこいつは昼間のバイトリーダーである。
大学生っぽい店員がこいつに敬語使ったり、たまにカウンターでシフト表とにらめっこしてるの見たことがある。
まあ、こいつコミュ力くそ高いからなあ。
ヘラヘラしてるけど面倒見良いし、なんつっても小学生の頃からこのネカフェに入り浸っていた常連で、ほとんどオーナーの孫状態。
「ちゃんと紹介してやっからぁ~」
「えー……。お前の知り合いとか思われると、今後俺のイメージ悪くなるだろ」
「うるるせぇ~! はよ! はよ! わたせって!」
「わかったよ……」
俺は渋々、履歴書を渡す。
それをじーっと眺めるバニャ。
「ん~で週何入りたいん?」
「まず2,3回?」
「あ~ね。5時9時でいける?」
「いけるけどよ……」
「あたしと同じ時間に入って、仕事覚えりゃいいだろ」
「いや、なに面接してんの、おまえ!?」
「だぁ~って、うちのテンチョ夜勤だしぃ。タイガーと会わねえじゃん」
「副店長とかは?」
「フクテンなんかいねぇ~って。人件費かかっから」
「大丈夫か、この店……」
「なぁ~、趣味のとこの読書と映画鑑賞とゲームって、エロちぃやつ?」
「なわけあるか!」
だいたい当たってる。
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