-Phase.03- いろいろな人と仲良くなろう!

17 毒炎氷雷モーニング

「おう」

「よ」


 月曜の朝。

 また憂鬱な平日の始まりだ。

 しかも決まって最後の休みの夜ってのは寝るのが嫌でグダグダした結果、だいたいが寝不足である。


「スリップダメージってのは盲点だったなあ……」


 頭は重く、身体はだるい。

しかしながら、昨日の夜はある意味とても充実していた。

 俺のやっているVRMMORPGでこのあいだイベントが始まった。そのボスというのが厄介で、短時間で2体を同時撃破しないとクリアにならないのだが。


 すでに超廃人の集まるトップギルドが、ボスを撃破したという情報は入っていた。

 その攻略動画も上がっていたが、それは大量の高級アイテムを投入し、超レア装備と神業めいた連携でもって倒すという正攻法だった。


 その動画が公開され炎上が収まったかといえば、さらに大きくなった。そこまでしてやっとクリアというのは、一般プレイヤーには希望より絶望のほうが大きかったというわけだ。


 うちのギルドでもそんな真似ができるはずなく、別の攻略法を考えた結果、編み出したのがスリップダメージ戦法。


 ボス2体を10秒以内に同時撃破しないといけないのだが、通常だと1体のHPを削るにはだいたい20分かかる。つまり1体を20分かけて瀕死状態にして、2体目を瀕死状態にした頃には、1体目が回復してまたそちらを削り直して調整して、さらに2体目を……と管理がやたら面倒くさい。ので、同時に削っていこうという戦略だ。


 そこで防御主体で動きつつ、確実に一定量の数値を出し、なおかつHPの自然回復を止めてしまうスリップダメージを使ったらということを言い出したのが、男衾だ。


 スリップダメージというのは、毒とか炎上のように、少量だが決まった時間決まった量のダメージを与え続ける状態異常のこと。

 この種の状態異常をとっかえひっかえ、ひたすらかけ続ける。かけたあとはただ防御で見守る。

 幸いにもボス2体とも同じステータスなので、同じ状態異常攻撃をすれば同じように状態異常になることは確認できた。


 というわけで、俺のタンクが2体を引きつけつつ、各種状態異常を与える武器を2本ずつ揃え、アタッカー二人で合わせながらボスを殴って毒やら炎上やら凍結やらで削り続けること6時間半。


 ……ついに撃破した!


 クリアリザルトを見る限り、俺たちのパーティは全サーバーで4番目のクリアだった。

 ちなみにトップギルドのタイムは55分。

 周回するには効率が絶望的に悪い。


「おはようございます」


 校門では、今朝もいん華子はなこが数人の女子生徒を引き連れて挨拶運動をしている。相も変わらずの人気ぶりだが、あれだけ人だかりができて暴徒化しないってのもうちの学校のお上品さゆえなんだろうか。


「さーせん」

「さー」


 俺と男衾は群がる生徒の中をチョップでかき分けていく。

 とりあえず1限目の古文と3限目の世界史の授業は寝よう。で、昼休みも寝て、午後の体育は無理だから美術で寝るか。


「あ、待ってください」


 できるだけ睡眠を取って戦いに備えなければいかん。

 ボスを撃破したと言っても、もっと速くできるはずだ。

 ギルドのメンバーを入れ替えながら練習して、より効率的な周回方法を見つけ出さないことにはレアアイテムのドロップも望み薄だしな。


「待って」


 それとできるだけ考えないようにしてるんだが。

 眉村和まゆむらやまとにハンカチ返さないといけない……。

 昨日、洗濯してきっちりアイロンも掛けてきた。もちろん柔軟剤は無香料だ。

 やっぱり返さないとだよな。

 気が重い……。


「柴田君!」

「はい?」


 誰だよ、こんな人だかりで呼び止めるやつは。

 俺が振り返ると、その場に居合わせた生徒すべての顔がこちらを向いていた。どの顔も「なにが起こっているんだろう」というようなポカンとした顔。


「放課後、生徒会室に来ていただけませんか?」


 そのマヌケな集団の中でただ一人、にっこりと微笑んでいたのは院華子だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る