16 10100フレグランス
「おはようざいます、柴田さん!」
「うん、おやすみ」
「寝ぼけないでください! いま朝の10時ですよ!」
「俺の日曜に朝はねえ」
「ボニー&クライドみたいなセリフ言ってないで、ほら窓を開けて外を見てください! あっぱれな晴天ですよ!」
「
「完全に深夜のくだらないことで笑いが止まらないテンションですね……」
「そりゃ寝てないからな」
「マジですか」
「よって寝る」
「はあ……私退屈なんですけどね」
俺はベッドに寝転がり、布団をかぶる。
そこへ覆いかぶさるように近づいて来るエレクトラ。
「寝起きで目もぱっちりなんですけど」
「──神って寝るの?」
「そりゃ寝ますよ」
「へえ……」
「とはいえ神ですからね。スタンバイモードに近いといいますか、現れを隠して
「設定厨、乙……」
「だから設定ではなく、律ですよ」
「ああ、ドラム担当の……」
「怒られますよ」
「……」
「柴田さん?」
「……」
「寝ちゃいました? 柴田さん? もう寝ちゃいましたか? ねえ、柴田さーん?」
「……」
「朝ご飯食べました?
「……」
「昨日の夜もカンパンで私の口の中はパッサパサなんですけど、なにか飲み物を頂けないでしょうか? そうですねえ、フルーティなのが所望です! ストロベリー果肉たっぷりなヨーグルトドリンクとかがいいかもです、柴田さん?」
「……」
「柴田さぁーん……寝ちゃったんですか~? エレクトラは暇なんですよ~。お腹もすきました~。ウィートのブレッドに生ハムとマスカルポーネ、玉ねぎ抜きピーマンたっぷりのサンドイッチがいいです! あ、ドレッシングはバジルソースで、柴田さ~ん」
「……」
「寝るなー! 寝たら死ぬぞ~い! なんちゃって、ふふふ」
「……」
「あ、柴田さんが起きたらすぐ買いにいけるように近隣のサ◯ウェイの店舗調べておきますねっ! でも、なんでサ◯ウェイってすごく美味しいのに店舗が微妙に駅から遠いんでしょうか。私が思いますに」
「うっるるるぅぅぅせえええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇえええええ!!!!!!!!!!!!!!」
寝れてたまるか!!!
「お前、耳元でべちゃくちゃべちゃくちゃうるせえんだよ! 一人でよくそこまで喋れるな! ぼっちか! ぼっちの必須スキル習得済みか!」
「あはっ、ボッチバタさんがそれいいますかぁ?」
「あっちいけ! しっしっ!」
あれ。
「お前、なんでここにいんの?」
「うふっうふふっ」
まて、ここ俺の部屋だよな?
エレクトラの
俺は慌ててカーテンをめくる。
外には見慣れた春の町並み。晴天だ。
ベッドの横にはゴスロリ美少女。間違いがなければエレクトラだ。幻? 悪夢?
「俺、ついに頭やられたのか……」
「『ついに』ではなく『さらに』では?」
「うるせえ!」
俺は脚をびっと伸ばしてエレクトラを蹴る。
が、それはスカッと空を切る。
「……は?」
「がぁーはっはっは! 女神
「何だ、その昔のアニメタイトルみたいなの」
あと笑い方が女神じゃない。
「ふっふふー、柴田さん。いえ、ボッチバタさん」
「言い換えんな」
「見てください、ルック・アット・ディス!」
エレクトラの幻?がするりと差し出したスマホには、数字が表示されている。
20、だな……。
「え!
「そうです、あはははは! そうなんですよ、柴獅子さん! いや、田虎さん!」
「方広寺鐘銘事件! 外堀埋められちゃうね! ──じゃなくて、え、まじで20か? 目がやられた? ビタミンBある?」
「なにを大仰に驚いているんですか? 柴田さんが昨日寝食を忘れて頑張ってくれたおかげですよね?」
「しまったあ……」
昨日のこと。
帰宅した俺は低視聴回数ユー◯ューバーに応援コメントを始めた。
そこで俺はいくつかの実験をした。
まず、「がんばってください!」とか「次が楽しみです!」とか適当かつ無責任な応援コメントの末尾に、「歩きスマホに気をつけましょう」「眼精疲労にはビタミンBがおすすめです」という文言と、ありったけの「便利なショートカットキー」を詰めて書き込んだ。それで無差別絨毯爆撃。
次に自分でアップロードした10秒の無意味な動画に捨てアカウントで100回同じコメント。続いて10秒動画を10個作成して100回コメント、さらにその動画を適当に作ったブログに貼り付けて、コメント欄に同じ文面をぺたぺた投稿。そんなことを朝まで続けた。
エレクトラは退屈したのか、早々に自分の世界へ引っ込んだのでランクが上がったのかとか確認のしようがなかった。
「まさか全部カウントされたのか?」
「どうやらそのようですね」
「……お前んとこのシステムガバガバ!!! ザルというか穴に枠がついてるレベルだな! ドーナツでもそこまで何でも通さねえよ!」
「いやあ、私もビックリしました」
昨日の苦労は何だったんだ……。
あんなに魂削りながらやって1ポイント、適当にコピペした自作自演で数千ポイントとか! おい、神どうなってんの!?
「もっとも。ポイント減衰があるのかランク20以上は上がらないようですけど」
「なるほど、しっかりしてるね!」
そこまで甘くないか。
しかし、これでエレクトラのランクダウン問題は多少解決した。チートっぽいのでいずれ修正されるかもしれないが。
「それで。そのホログラムみたいなのはランクが上がった結果ってことなのか?」
「ですねえ。データ量が膨大なのであまり使えないのですが、柴田さんに喜んでもらいたくてつい出ちゃったんですよ。でへへへへ」
だから笑い方。
「スマホのやり取りだけでもうるせえのに……」
「なに言ってるんですか! 超絶美少女を間近で見れて──ちちちちょっと、なに下から覗き込んでるんですか!!!!」
ローアングラーな俺に気づいて、エレクトラが慌ててスカートを抑える。3Dモデルがあったら下から覗くもの。それが真理。
「お前着替えとかあるの?」
「っな! 神衣が汚れるはずもなく、私は穢れなき女神ですよ!
「パンツ換えないとかお前まじかよ……」
「
バチっとエレクトラの指先から青い光が飛ぶ。
「痛ってえ!」
どうやら静電気レベルの攻撃も身につけたらしい。
「ふん! よく考えたら出会い頭に顔を舐められたり、裸を期待されたり、私が非実在系美少女だから良かったようなものの、普通ならお縄ですよ! もう! 冠が曲がったので
頬をぷっくぷくに膨らませてツンと後ろを向くと、びゃーっとエレクトラの姿が消える。
「お前のお子様パンツなんてアスファルト並に興味ないわ」
「ピガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「うるせえええ!!!!」
スマホのスピーカーから甲高いハウリング音が最大音量で発せられる。俺はスマホをミュートにして、じんじんする耳を押さえる。
「ふむ……」
ホログラムっぽい実体化?に静電気攻撃、スマホのハウリング攻撃など、
ランクが上ったらさらに実体化するのだろうか。あのギャンギャンうるさいのが。
「それはかなりうざい」
俺はベッドに座って窓の外を眺める。眠い。
いい天気だな。洗濯日和だ。
机の上には、品のいいピンクのハンカチが置いてある。昨日、眉村
「はあ……」
死にたくなるので記憶の井戸にぐっと蓋をして、俺はハンカチをつかむと部屋を出た。
「さり気なく匂い嗅ぎました?」
「嗅いでねーし!」
いい匂いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます