番外編「真夜中の叫び声」

それは真夜中の12時頃に体験した事だった。


この時ほど俺は眠れなかった時の事を知らない・・。


「師走の奴、俺見る度に小言言いやがって・・。」

睦月は部屋の隅っこに布団を敷きながらぶつぶつと言った。

「お前が何もしないから言うんだろ?」

如月は何か機械をいじりながら言った。

睦月は動きを止めて如月が何をしているのか見た。

だが、この位置からでは何をしているのかまでは見えなかった。

「うるせぇな・・・。」

そう言って布団の中に潜り込んで目を閉じた。

今日はそれ程疲れていなかったので直ぐには寝つけなかった。

次第に眠くなり始めた頃、布団の外で軽快な音楽が聞こえてきた。

睦月は眉間に皺を寄せて寝返りを何度もうった。

しかし、その軽快な音楽のせいで中々寝付く事が出来なかった。

本当は飛び起きてその音楽をやめさせたかったが面倒臭くてそんな気になれなかった。

しかし、その軽快な音楽と共に誰かの話し声が聞こえてきた。

この家には如月と睦月しか住んでいない・・・。

如月と俺が話し合っているのなら納得がいく。

でも、その話し相手の俺は布団の中に居て話せる状態ではない・・・。

「やったー!」

突然、如月のそんな大きな声が聞こえてきた。

その時はちょうど夢と現実世界を行ったり来たりしているときだった。

しかし、そんな大きな声のせいで完全に目が覚めてしまった。

睦月は被っていた布団を蹴り飛ばして如月のもとへ駆け寄った。

「こんな夜中にうるせぇ!!」

「あ、睦月!!まだ起きてたのか?」

何故か元気そうに如月は答えた。

よく見ると如月はコントローラーを手に握りしめ、テレビの前に座っていた。

「こんな夜中に何してんだよ!!」

「何って、乙女恋愛ゲームだよ。」

如月は普通に答えた。

「恋愛ゲーム?」

首を傾げながら睦月は言った。

「そ、ゲーム。やっと記念すべき一人目の彼女ができたんだよ。」

崩れきった顔で如月は画面を見ながら言った。

「ほら、お前も見てみろよ。」

そう言って如月は顎で画面を指した。

睦月は如月を押し抜ける様に画面を見つめた。

そこには可愛らしい女子高生が頬を赤く染めて立っていた。

正直可愛いと思った。

しかし、ここまでで終わってくれればそれで良かった。

いきなり、画面から可愛らしい女子高生が消えた。

二人は画面を凝視した。

「兄貴!!俺達一生ついてきます!!」

画面から女子高生の姿は消え、代わりに何故かおじさん顔の不良が現れた。

「た、田中君!!」

何処からか先程の女子高生の声が聞こえる。

「お前誰だよ!!兄さんは俺達のカリスマ的存在だぜ?その兄さんを奪うっていうなら俺達を倒していけ!!」

そして、何故か不良と女子高生の戦闘画面に切り替わった。

力の差は歴然としていて、女子高生は不良達に負けてしまった。

そして、女子高生は清純派設定だったのにスケバンになってしまった。

「俺達、兄貴の為ならなんだってしますから!!」

画面が突然真っ暗になった。

何故切れたのかと思い、機械に視線を向けるとコンセントのところに如月の手があった。

如月の顔をゆっくりと見た。

目は笑っていなかった。

「朝まで付き合え・・・。」

隣にはいつの間にか酒瓶が置いてあった。

最初断ろうとしたが有無を言わさない顔で如月はすがってきた。

「あんまりじゃないのかあれって!!一体何ゲーなんだよ!!」

「引っ付くな!!汚いだろ!!」

そう言って如月を引き離そうとしたが無駄だった。

その時、ゲームのパッケージが目に入った。

パッケージには‘恋愛戦闘ゲーム”と書かれていた。

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