二十~二十一
二十
「あんた何してんだ?」路地裏で火を焚く男に白は話しかけた。「死体を焼いてんのか?」「正解だけどオレが殺したわけじゃあねえし証拠隠滅でもねえよ」ゴーグルをかけた男が答えた。「どっちでもいいけど」白は言った、「じき
「最近の世相は人間が自然を失った結果だ。人造肉なんざ食ってるからお天道様が顔を隠すんだとオレは思うがね」「まあこちらの感想もご同様だがしみったれたワンルームで暮らしてる身じゃあ焼肉なんて奢侈品と言わざるを得ないな」「オレは帝都に住んでたんだがそのころ釣りを趣味としててありとあらゆる川を回ったが一匹も釣れなかった。そうとうにオレのテクニックが乏しいんでなきゃ全部死滅してんだ。そんな地で人間的生活を営むことができるだろうかいや無理だ」「ならこちらに来たのは間違いだったかもな、ここはガキどもやギャングがチャカ持って商売敵を撃ち殺すって方式のハンティングは盛んだけど。あとはケチな賞金稼ぎとか
烏が飛んでる、三本足の烏だ。男は拳銃を出してそいつを撃とうとしたが命中せず、銃声で住民が通報してサイレンにまた追われるはめとなった。「あんた何考えてる? 市街地でぶっ放すとは豪気ってか奔放ってか酔狂だな」「畜生、そこらのガキどもがドンパチやってても寝てる警察がなんでオレにはこんだけ敏感だ?」「市民の安眠を守ろうと今日から決意を新たにしたか、じゃなきゃあんたが必要な手順を踏んでなかったからかな」「一杯飲みてえ気分だ」「ご同様だ」二人は立体交差に併設された繁華街に向かって錆付いた螺旋階段を登っていく。
二十一
「そんで相棒、計画のほうはどうなってる?」「なんの計画だ?」ゴーグルの男は軽快な調子でソーダ割りの
天井付近の配管の合間を蝶が四匹飛んでいる。ほかの客が吸う煙草の煙でそいつらはかすんで見える。床をバッタが跳ねているのを白は目撃した。この街は幻視の蝶を抜きにしても虫が多すぎる。誰かが毎日放ってるのではないかって疑うくらい。隣の席じゃ労働者が飲んでてこれから首都まで電車で旅立つらしかった。人工太陽建造計画に参加するとのことだが極めて面白くなさそうな顔をしていたしそれも当然だ。それをどうやって作るのかという情報はないに等しくあるいは、作るという計画だけが存在して具体的な工程とか材料とか建築方法なんてのがありもしないのかも知れなかった。幻影の太陽をこしらえるためにスポンサーが付き金は飛び交ってるし労働者が集まってるがいつできるのか。蝶のようにひらひらと計画は舞っている。街中でくだを巻いてる少年少女やクビを切られた労働者の与太話以上のものは必要ないのかもしれない。実行されない計画のほうが価値があって実際に実行されちゃ皆、本当は困るのかも。
白はミストラル・ビールを三杯飲んで、だけど水で薄めてるっぽくて実質一杯半くらいだったけど、店を出て件の古本屋へ行くとそこが燃えていた。空が赤かった。燃える本のページは空中を舞いその間を灰色の蝶が飛んでいた。
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