十八~十九

 十八


 雑貨屋の店員の仕事にありついた。白は髭を剃らず愛想も悪いが、この街の住民はそんなこと気にしない、まともに釣りが返ってくるってだけで御の字って有様だ。店で売ってるのは埃をかぶった菓子類と祖父の代からあるんじゃないかってくらい古臭いパッケージの飲料、雪なんざろくに降らないのに雪掻き用のスコップ、錆びた缶詰などだった。客は恐ろしく少なくずっと白は本を読んでるかさもなきゃ寝ていた。店主は百年前は既にそうだったかのようなよぼよぼの婆さんで、耳がひどく遠いので馬鹿でかい声で叫ばなくては応答がもらえなかった。店内は薄暗くて蜘蛛がやたらめったら多かった。ある日、いつものようにまどろんでいるとやかましいエンジンの音がして表に出ると作業服の男達と重機、本日解体の予定とのことで白が婆さんに電話してどうなってんのか確かめようとしてるともう解体が始まって失職した。


   十九


 レコード店の仕事は雑貨屋に毛が生えたような客数で気楽だったけどたまに来る少数の客がイカれててその話に付き合うのがダルかった。顔面にタトゥーを入れた若いのが白に対して大昔からのマブダチみたいに薬物の使用暦とかこれからの使用予定とかを話してきてこっちの手に錠剤を握らせたりする。お勧めのレコードとか聞かれてもよく知らないので適当なところから抜き取ったのを名盤として売ったりしていた。ある時万引きをした少年を見つけて警察に突き出そうとしたらそいつは泣き出し、いきなり服を脱ぎだして土下座し勘弁してくれてと懇願した。白がそれにも構わず警察を呼ぶとそいつは暴れだして運悪く店内にいた他の客に殴りかかって表に出て大騒ぎ、駆け付けた警察に拘束されたが店の被害が白のせいにされてクビになった。

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