十六

   十六


 珍しく晴れた日だが、それでも分厚い雲とスモッグと街の負の側面が放つ要素、月からの塵のせいで太陽は半死の有り様、これでは政府当局と財閥群が人工太陽の建造に着手し明り取りのみならず宗教的象徴としての光を求めるのも無理からぬことだ。環状線の線路に近い大通りの傍、半地下の湿った下宿に転がり込んだあと白はまたぞろ徘徊を続け終日空を見ていたりペットショップの鳥獣を見たりしていて家に帰って灯りを点けずに音を消したニュースを肴に安酒を飲んだりしていた。何事かをわめく男がいてそいつが表の駐車場やらバス停でぶらついているのを見た後蝶の数がにわかに増えた。そのあとで赤い豹柄の服の少女と出くわすことも多かった。

「問題は不満の話で」下宿の廊下で彼女は言った、「何が不満かもわかっていないことも多くてじゃなきゃ蜥蜴とか鼠とかの話ね」「あの男はそれで怒ってるわけか? 君もその愚痴に苦しめられてるって話か?」「あの男? 誰の話をしてるか知らないけど私は黒羽コクウの集会の話をしてんの。脳内インプラントの拒絶反応による幻覚症状とか身内の人体発火による突然死や雨を呪いって思い込む症状とか労働上の不満を話す会だよ。ただそれが吐き出して開放感を味わうとか具体的な対処について話すんじゃなくただ不満を話すことだけが目的になったらもっと病気が悪化するのは明白でしょう」「言霊の話なわけ」「そうまあ、私は解呪について熟練してるからそれは全部解決できるんだけど誰も渋って金を出さないのはご愛嬌というか宝の持ち腐れだよ。黒点に関連付けられた呪法で昨今は太陽風が届かないからご無沙汰だけど」「金持ちを顧客にしたらいいんじゃないか」「あいつらはすでにお抱えの太陽術士がいるよ。そいつらの効力が証明されたのも大きくて帝都じゃ職にはありつけないからこっちに来たんだけどここは死体の上に座ってるように縁起が悪いね」「俺もそう思うんだ」

 少女が虫の死体から羽を毟り取ってマッチで焼くのを肴にして白は飲んだ。

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