六~八
六
酒場の女はやはり
七
スーツケースを運ぶべき場所が分かりづらかったので端末の地図機能を使おうとしても自分の位置が変な場所に表示されたり、指定された住所が存在しなかったりした。この手の勝手に増築改造を繰り返してるスラム街の集合住宅にはありがちなことだ。そこら辺の人に聞こうと占い師の婆さんに尋ねると、「お主には死相が出ておる」と言われた。
「それは困るよ。そんでその部屋はどこにあるのかな、この上? 下か?」「呪いがかかっておるのじゃ」「俺は住所を聞きたいだけだよ。階段が変な風になってて往生してるんだ」その歪な巨大アパートの階段は一気に二階ぶん上がったり下がったり、と言うか各階の高さがちぐはぐだし変な所に通じているエレベーターもあるし、誰かが尋ねてくるのを避けるためにわざと分かりづらくしているとしか思えないし死相が出てるとか言われるし。「あと三日の命じゃ」「このままだと部屋に行く前に死んじまうよ、辿り着くまでに三日どころか一週間はかかりそうだし」「呪いを避けるためにこの人形を買うのじゃ」「道を教えてくれたら買うよ……」というやり取りの結果七〇〇圓で木彫りの人形を買って部屋への行き方を教わった。
部屋に入ると汚れたスーツの男たちが五人ほどいて葉巻を吸っていた、ビジネスマンか何かのつもりか、スーツケースを渡すと「決行日はいつだ?」と聞かれた。「何だって?」「決行日はいつなんだ? 二日後か、三日後か?」白は「三日後だ」と答えた。「そういうことか? あの婆さんはあんたらの仲間か? ひょっとしてこれもか」木彫りの人形を男に示すが興味なさげに「帰れ」と言われた。「西側の警備は午前二時に手薄になるからその隙に……車両を五台正面に……」邪魔しちゃ悪いのでまた迷いながら白は帰った。
八
なんどか夕蓮のところに品物を運ぶ用があった。生体コンピュータとやらの組み立て、開発をしているということだった。クラゲの飼育部屋から奥にはあまり入る機会がなかったが、ある日呼んでも夕蓮が出てこず、奥に行くとその部屋はひどい有様で、やたらと狭い中コードと大量のモニター、機械類と冷凍食品の空き容器が大量に転がってた。奥のほうにもドアがあって、そっちは生臭く入る気にはなれなかった。当の夕蓮はモニターの前にぶっ倒れており何かの病気か薬物中毒みたいだった。救急車を呼んだらまずい気がしたのでまず凪に電話した。いつもそうだけどこのときも彼女はひどく不機嫌そうだった。「何?」「夕蓮がぶっ倒れてる。
夕蓮は凪と違って青霊家所属ってわけじゃなくフリーランスのクラッカーで、携帯端末のロンダリングが主な仕事のようだった。
都合一ヶ月半くらい凪の下で働いたが給料は安いし、いろいろな場所に行かなきゃいけないのがしんどくなってきてある日「辞めます」と言った。訪ねた場所のことは全部忘れろというやんわりとした指示だけで、すんなりやめることができた。凪が纏っていた蝶は日々減って、辞めるころにはいなくなって常に彼女の三白眼が睨みを利かせるようになっていた。宿を出るとまた雨が降ってきて白は地下街へ逃げ込んだ。
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