第45話ゴルキチ編 番外 運営

 ドラゴンバスターオンラインの運営は、運用部門と開発部門に分かれている。同時接続数最大四万人を誇る、国内でも最大手クラスの接続ユーザーを抱えるドラゴンバスターオンライン運営は、社内に多くの人材を抱えているのだ。

 運用部門は、ユーザーからの問い合わせやプレイヤーが地形にハマって脱出出来なくなったなど、ユーザー対応を行う部門である。

 普段はゲームマスターとしてドラゴンバスターオンラインに潜り、不正プレイヤーの発見やユーザー間のトラブルを解決するなど二十四時間体制での勤務となる。


 運用部門のもう一つの重要な役割は、公式サイトと公式掲示板の管理だ。公式サイトにはユーザーのプレイ日記などのブログやウェブサイトのリンクが含まれており、定期的に問題あるユーザーウェブサイトに警告を発したりする必要が出てくる。

 ユーザーブログのチェックはなかなか大変な作業で、運営批判ならば特に問題がないのだが、ユーザーによる他のユーザーへに人格攻撃などは問題になるので、日夜チェックが欠かせない。

 さすがに、公式サイトよりリンクが無いウェブサイトについてはチェック外ではあったが。


 今運営が注目しているウェブサイトは二つある。一つはドラゴンバスターオンライン攻略WIKIと言われるウェブサイトで、ユーザーが作成したウェブサイトでは最大のアクセス数を誇る。ここにはユーザーが調査したあらゆる攻略方法が記載されている。

 もう一つは個人ブログになるが、ゲーム内有名プレイヤーを紹介していくブログだ。どちらのウェブサイトも今のユーザーが何を求めているのかを把握するのに役立っている。


 ドラゴンバスターオンラインでは、最初から場所は作られているものの、実装されていない地域がいくつかある。

 そのうちの一つ「王都」をようやく実装した運営は、次の大型イベントに向けて急ピッチで開発を進めている。

 それはもう深夜にも及ぶ連日作業で開発していた。開発部門の社員は目が血走り、近寄りがたい雰囲気を出していたので運営部門の社員は近寄ることが出来なかった。



 ビクビクしながら開発部門を通りすぎる運営部門の社員......運営部門は開発部門の奥に座席があるため、鬼気迫る開発部門前を通り抜けなければならないのだ。


「ちょっと、君!」


 開発部門の長髪の男が、運用部門の若い社員を呼び止める。


「な、何でしょうか?」


 ビクッっと怯えたように立ち止まる運用部門の若手社員。


「いい話がある。課長を呼んでくれないか?」


 長髪の男はキーボードを打つ手を止めず、若手社員へ顔も向けず、ディスプレイを凝視したままぶっきらぼうにそう言った。

 目が血走っていて非常に恐ろしい。

 「これは断ってはいけない」と瞬時に理解した若手社員は、自部門の課長を呼びに小走りで駆けていった。



「課長。突発イベントやらないか?」


 駆けつけた課長にも目もくれず、長髪の男は話を振る。

 突発イベントとは、予告なしのゲリライベントのことだ。


「和田君。何か作成したのかね?」


 この忙しい中突発イベント用の開発までしていたことに、課長は驚きを隠せない。


「なあに、次回大型イベントの応用ですよ。一度試しておきたいんですよね」


 長髪の男――和田が言うには、次回大型イベントに向けて、ボス二体同時にプレイヤーが対応できるか、見ておきたいとのことだった。

 現状ボス二体同時は、難易度5以下のボスに限られるが実装されている。しかし、次回大型イベントでは高難易度ボス二体同時の可能性も高く、プレイヤーが全く戦えないようでは、イベントが不評に終わるかもしれない。

 運用部門課長からすれば、ありがたい話で準備してくれるなら、是非実施したい提案である。


「和田君、よくそこまで作りこんだね。いつ突発イベントは実施できるのかね?」


 課長の言葉に和田は不気味な低い笑い声をあげる。課長に付き添った若手社員の顔が青ざめる。


「いつ? 今から実施できる。ククク。私を舐めてもらっては困る。実施開始の合図は私から指示を出そう」


 クククはないだろうと課長は思うものの、触れてはいけない空気を感じ、何も和田に言えなかった。


「了解。ならば指示を待とう。内容を先に教えて置いてくれ」


「了解です。課長。内容は簡単なことですよ。死霊騎士二体同時。これです。出現場所はお任せします」


「ほう。死霊騎士二体か、ちょうど試すにはよいボスだね。飛び道具もないし」


 課長は納得し、自席に戻る。若手社員も課長の後を追うようにビクビクしつつも戻っていった。



「ククク。どうせ試すなら、最高峰のプレイヤーにも参加してもらおうじゃないか......」


 和田はあるプレイヤーのログイン状態をチェックする。現状ログインはしていないことが分かった和田は、静かにあるプレイヤーのログインを待つ。


「ふふふ。リベールたん。君がログインするのを待っているよ......」


 和田は長髪を不気味にかきあげると、暗い笑みを浮かべる。



<今から突発イベントをスタートさせてください。イベント内容はお任せします>


 和田からのメールを受けた課長は、和田から話を聞いた時に、どのようなイベント内容にするか運用部門社員と共に練っていた。ちょうど案が完成した時に和田からのメールだ。


「よし、突発イベント開始するぞ。渡辺君。頼むよ。サポートに木村君が入ってくれ」


 課長は三十歳くらいの社員に指示を出し、先ほどの若手社員をサポートを付けることにした。こうして突発イベントは開始されたのだ。

 


 イベントがはじまりしばらくすると、プレイヤー達が一斉にあるプレイヤーを確認するとやたら盛り上がる。


「リベール!」

「リベール!」


 何だこの人気は! 運用部門渡辺は驚愕していると、和田からメールが入る。


<リベールというプレイヤーはユーザーに大人気のプレイヤーだ。騎士ロールプレイをしているから付き合ってやってくれ。盛り上がるぞ>


 運用渡辺は、和田のメールを参考に場を盛り上げることに注視する。リベールというプレイヤーがNPC衛兵前まで来ると、群衆の熱気も物凄いことになっていた。

 これは、合わせないと! と運用渡辺は頑張って衛兵ロールプレイを行う。


 結果イベントは大盛況に終わり、課長からお褒めの言葉をもらった運用渡辺は、和田に感謝するのだった。



「和田さん、ありがとうございました! お陰様で突発イベント大成功でしたよ」


 イベント終了後和田の元へ駆けつけた運用渡辺は感謝の言葉を述べる。


「なあに、次からも頼むよ。渡辺くん......ククク」


 運用渡辺は和田の不気味な笑いをこれまで何度も聞いているが未だ慣れない。引きつった笑顔を浮かべ、渡辺は和田に、


「またアドバイスありましたらぜひご教授ください!」


 と社会人らしく和田に伝え、自席に戻った。



「ククク......さて、大型イベント用のアップデートプログラム......バグ取りするか」


 和田は再びキーボードを一心不乱に叩くのだった。

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