第43話ゴルキチ編 王より
難易度10「アビスデーモン」は戦う為には若干面倒な仕様になっている。かつてゴルキチは「妖魔の森」で木を伐採することでボスを出していたが、「アビスデーモン」の住むアビスも「妖魔の森」と同じでボスを出すためには工程が必要になる。
アビスは円形の空間になっており、岩でゴツゴツした地面に切り立った崖、空は茜色に染まり、崖の外は溶岩らしき赤色の池が見える。
アビスへ行くには、奈落の穴にある門を潜るだけというお手軽さではある。アビスには雑魚モンスターが所狭しと大量に沸いており、百匹の雑魚モンスターを倒すとようやく「アビスデーモン」が出現するのだ。
「アビスデーモン」は「堕落した馬王」などの森林ボスと同じく、誰でも挑むことができるが挑めるのは一回限りになっている。
そのため森林ボスでは横取りが横行しているが、こと「アビスデーモン」に関しては雑魚モンスターが出現するエリアと「アビスデーモン」の出現するエリアは同じため横取りはまず起こらない。
竜二はゴルキチでログインし、「奈落の穴」まで移動するとアビスへと降り立つ。
他のプレイヤーはいなかったので、大量に湧いているレッサーデーモンという人間大のモンスターをちぎっては投げちぎっては投げしていく。
レッサーデーモンは全身が赤色の短い体毛の生えた悪魔で、頭から生えた二本の触覚、黒い細長い尻尾、背中から生えたコウモリに似た赤い翼が特徴のモンスターだ。特にこれといった強さはなく、一般的な雑魚モンスターと変わらない。
ゴルキチくらいになると、特にダメージを受けることなく順調にレッサーデーモンを駆逐していく。
ちょうど百匹を倒すと、残っているレッサーデーモンは全て消え去り、フィールド中央に六芒星を模写した光が出現し難易度10「アビスデーモン」が顕現する。
「見せて貰おうか!アビスの強さとやらを!」
誰も見てないのをいい事に調子に乗ったゴルキチはアビスデーモンに向けてカッコいいセリフを発言した後、変な決めポーズを行う。
ボスエリアに突入するゴルキチ。待ち構えるアビスデーモン。
レッサーデーモンを倍くらいの大きさにしたアビスデーモンは、悪魔の王たる風格を持ってゴルキチを抑揚に睨みつける。
ゴルキチも負けじとアビスデーモンを睨む。
お互いに睨み合いジリジリと視線が交差する!
ゴルキチはクロスボウをつがえ、アビスデーモンを仰ぎ見る。アビスデーモンはニヤリといやらしい笑みを浮かべたとゴルキチが感じた瞬間、奴はゴルキチの前から消失する。
後ろだ!
ゴルキチの戦闘補助AIは正確にアビスデーモンの位置を捉えていたが、彼の認識が少し遅れてしまう。
後ろを振り向く間も無く、アビスデーモンから周囲全体に及ぶ衝撃波が発射され、ゴルキチは吹き飛ばされる。
起き上がったところに、追い打ちの鋭い爪が飛び、あえなくゴルキチは倒されてしまった。
カッコつけた割に瞬殺されたゴルキチは、その場でこうべを垂れた。
流石に遠距離武器潰しと言われるだけに、戦闘補助AIの補助があっても勝つのはなかなか難しい。練習モードの勝率は三割を切る。
ゴルキチの戦闘補助AIは単なるリベールの劣化だと思うところだが、一概にそうでは無い。ソロなら完全にリベールに劣るが、ソロ以外では戦闘補助AIとゴルキチの操作のほうが勝ることもある。いずれそういった場面も出るかもしれない。
この勝率で毎回百の雑魚を倒すのはキツイか。リベールを出そうと考えたゴルキチであったが、理由はどうしようかと思案する。
ちょうどいいネタがあった。前回王命で「天空王のスープレシピ」を取得したリベールは、コックのゴルキチに料理を作ってもらい、王に天空王のスープを献上したことにしよう。
安易な考えであったが、彼の中では素晴らしいアイデア扱いになっている。
少し考えることがあるので、ゴルキチはログインさせたまま、リベールもログインさせ、リベールを「奈落の穴」手前まで移動させる。
まずはゴルキチでレッサーデーモンを百匹倒すか!と意気込んだところ、水を差す全体チャットが入る。
<王都郊外の砦に死霊騎士が二体出現した。王の騎士よ!王の臣民よ!王の戦士よ!死霊騎士を打ち倒せ!これは王命である!>
王都が実装された時より王命は予想していた竜二ではあったが、なんか恣意的なものを感じる。リベールのログインを待っていたんじゃないかと。
リベールのロールプレイを考慮するとログインしているならあれだよなあ。やっぱなあ。竜二は頭を抱える。
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[鬼畜王より王命来た!]少女騎士リベール その231ぺったん
<スペック>
名前:リベール
性別:女
職業:ベルセルク
特徴:身長低め、茶髪アップに黒目の怜悧な顔、ぺったん
装備:武器 レア度9常闇の斧 レア度8 竜鱗の軽鎧(薄い赤色)、海龍皮のスカート(青)、龍燐のスカートガード(薄い赤)
出没場所:王命が来たぞ! 死霊騎士だ!
872.名無しのドラゴン
運営wwwリベールたん余りログインしないけどいるのかwww
874.名無しのジャッカル
王都実装したから予想はしていたがwww鬼畜王は相変わらず鬼畜www
875.名無しのバスター
リベールたんの王は王都の王様とは限らないぞ!
877.名無しの魔法少女
>>875
確かに。リベールさん、王都が実装される前から王命だったしね。
879.ぺったんマスター
取り敢えず、砦まで行くか!
882.名無しのジャッカル
しかし、難易度8を二体って初じゃないか?分断しないとキツそうだわ。
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砦はジルコニアから王都に向かう途中にある。王都実装前は砦の扉は閉鎖されており、衛兵が「準備中」と教えてくれるようになっていた。
今ここに多数のプレイヤーが集合し中には「死霊騎士」に挑む者もいて、すでに討伐した者さえ混じっていた。
しかし、討伐した者も事が終わってからも砦から移動しない。少しの期待である人物を待っていたからだ。見学に来たプレイヤーたちも同じく移動せず同じ気持ちで待機していた。
「来たぞ!」
群衆の誰かがシャウトチャットを飛ばす。
「リベール!」
「騎士リベール!」
「王命をこなせ!」
皆待っていたあの人がやって来た。そう少女騎士リベールだ。彼女は大歓声を送られるも表情一つ変えず静かに凛とした佇まいで砦に歩を進める。
群衆は割れ、道が開く。
リベールはその道を静かに進む。
「王命を果たしに。騎士リベール参上いたしました」
砦の衛兵へ敬礼の構えを取りつつリベールは一言静かにそう発言する。
「騎士リベール殿。お待ちしておりました」
衛兵の発言に、群衆はどよめきをあげる。衛兵は単なるNPCであり、通常会話のやり取りは不可能であるのだが、受け答えをしていたということは中に運営さんが入っている。
運営がNPCを喋らせたことに群衆はどよめいていたのだ。
「敵は死霊騎士二体。いくらリベール殿とはいえ同時に二体......誰か共の者を付けたほうがよろしいのではないですか?」
衛兵はノリノリでさらにリベールへチャットを飛ばす。
「いえ、私一人で打倒して見せます。私の勇姿とくと見守っていていただけますよう」
この言葉を最後に、リベールは「死霊騎士」へ向き合い、ボスエリアに消えていった。
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