第42話ゴルキチ編 覚醒
竜二は練習モードを使い、戦闘補助AIの調整を行っていたが最初は上手くいかなかった。動作が長い分リベール的なアプローチではどうしても攻撃に当たるうえに、下手をするとAIが導き出すショートカットキーが存在しないということまであった。
試した回数は二桁では効かなくなり三桁も中盤に差し掛かる頃、何となくだがグルードに操作を見せてもらった時のような、発想の転換が必要だと感じるようになってくる。
モンスターの動きは完全に読める。ショートカットキーを押すことも問題ない。しかし回避不可能攻撃不可能な状態に追い詰められる。
読めているのに詰む。この状況にハマってからもう数百回も試行錯誤を行っているのだが、進まない。
竜二は一旦休憩を入れるため、コーヒーを準備する。コーヒーを飲みながら、竜二はリベールの動きを再度トレースしてみる。
リベールの動作は攻防一体だ。攻撃モーションでボスの攻撃を回避し、斬りつける。精密な動作とボスとの位置関係、体勢までも含め計算することで可能になる動作である。しかし、ゴルキチのようにショートカットを使った長い動作となると途中で詰んでしまう。
動作が長い分、可能なショートカットキーが無くなってしまうのだ。
「どうしたの?兄さん?さっきから唸ってるけど」
ちょうど家に帰宅した響也が兄の百面相を見て怪訝そうな表情をしている。
「あ、ああ。ショートカットの研究してたんだけど行き詰ってさ」
百面相を見られバツが悪そうに答える竜二に、弟もうーんと真剣に考え始める。
「グルードはさ、攻撃を未然に潰してしまう戦い方だったけど俺には合わなさそうなんで、攻撃を回避しつつと思ってんだけどね」
竜二が現状を響也に伝えると、響也はなにか思いついた様子だ。
「あ、兄さん。確か弓だっけ。回避しつつやるんじゃなくてさ、リロードできるくらい安全な位置を常に確保すればどうかな?」
その発想はなかった!なるほど。竜二の使っているヘビークロスボウは連射することはできない。一発打つごとに矢をセットするリロードを行わないと次が発射できないのだ。また、リロードにはそれなりに時間がかかる。とはいえ一秒には満たないが。
リロード可能なほど安全マージンを稼げば、長い動作のショートカットといえども追い詰められることは無くなるだろう。当初の発想より討伐まで時間がかかるだろうが安全性は格段に高まるはずだ。
「なるほど!その発想は無かった。いけるかもしれない!」
竜二は響也に礼を言うと、自室に急いで戻っていく。ヤレヤレといった感じで肩を竦める響也だった。
響也のヒントは求めていた発想の転換だった。リベールで使う位置情報AIの意識がやはり離れていなかったようで、はやく倒すことを念頭に置いていたのがいけなかった。
ショートカットキーは動作に時間がかかるのだから、それ以上の安全マージンを取ればいいだけのこと。
モンスターの動きは予想可能だから、安全マージンをとることは比較的簡単なはずだ。移動用のショートカットを少し増やし、組み込んでみよう。
繰り返すこと三桁。ついに竜二は突破口を見つける。ようやく戦闘補助AIの基本設計が出来た竜二。あとはボス個別ごとにファイルを追加していくだけだ。ここまで来るとリベールのマクロとやることは同じになる。
戦闘補助AIはリベールで使用している位置情報AIに比べると、極端に動作が軽かった。さらに、安全マージンを確保という設計のため、パーティでも操作することが可能になる。
パーティメンバーの武器と体型を入れておけば、他のプレイヤーによるボスの誘引も含めて計算することが可能であった。
これは、安全マージンの確保に特化したため出来たことだ。この戦闘補助AIとリベールで使用している操作用マクロを組みあせても動かすことが可能だ。もしリベールを使うならショートカットはより短く、複雑にしてもよい。
現状戦闘補助AIを使用できるのは、難易度10「黄金獅子」と難易度10「アビスデーモン」の二種類のみになる。
「黄金獅子」はかつてソロで苦労の末に倒したボスで、「アビスデーモン」は特殊なエリアのボスである。一度行ってみたいと思っていたものの、結局行かなかったボスモンスターだった。
ものは試しと、ゴルキチでログインし、さっそく「黄金獅子」を狩ってみると、十回戦って勝てたのは七回。実力的には傭兵に一枚劣るレベルといったところだ。
ここまで戦えるのならゴルキチとしては大満足の出来になる。当時必死になってやった勝率が三割をきっていたのだから。
戦闘補助AIは次に押すべきショートカットを示してはくれるが、押せる範囲のショートカットではやはり不足していたし、二つ以上のショートカットキーを案内された時にはどちらか戸惑っている間にやられたこともあった。このあたりはプレイヤーの腕次第なのだろう。
竜二が新しい戦闘方法を模索している間でも、メイリン・イチゴ・グルードらがログインし暇なときにはギルドで作成できる「アジト」について話し合いは行われていた。
しゅてるんが数に入っていないのは、ゴルキチがいるときでいない時がなかったから「いつでもいる」という意味で、カウントする必要がなかっただけに過ぎない。
竜二はゴルキチでログインし「黄金獅子」を狩っているとギルドチャットで呼びかけが入ったので、ゴルキチのギルド「王国教習所」の「アジト」予定地まで移動することにした。
予定地まで着くと既に全員揃っていて「アジト」について意見を交わしていた。「アジト」の基本設計は石造りの砦風にしようということで意見は一致しているものの、それ以外は全く白紙の状態だった。
実のところ、内装はともかく外観を上手く設計できるメンバーが居ないのが進まない原因ではあった。
ゴルキチは設計自体やったことがなく、センスの無さは自分で自覚している。グルードもゴルキチと似たようなものだった。
イチゴとメイリンは凝った内装なら可能ではあるが、石造りの無骨な外観となると難しい。もしこのまま何ともならなかったら、しゅてるんに頼むことはできるが、彼女が作成するとドラキュラ城のようなホラーかつゴシックな感じになると彼女自らそう言っていたので、できれば頼みたくないところだ。
「あ、リベールさんの家を作ったときのさ、あの人に頼めないかな?」
ゴルキチは以前リベールの家建築時に訪れたツリーハウスに住む家専プレイヤーをふと思い出す。
「ああ!いいかもしれない。私フレンド登録してるから聞いてみるね」
メイリンはゴルキチの言葉を受けて思い出したようだ。なんとフレンド登録までしていた様子。
家専プレイヤーとは、家をデザインするためだけにドラゴンバスターオンラインで遊んでいるプレイヤーで、家の建築できる数が決まっているので大概の家専プレイヤーは家を建築することに飢えている。
広い土地が利用できる「アジト」の建築となると胸が高まるだろうことは容易に想像できる。
予想通り、メイリンがツリーハウスのプレイヤーに連絡を取ると二つ返事で了承の意が返ってきた。
今回の資材集めはリベールの家を建築した時と同様、自分たちで建築資材を集めることで全員の意見は一致する。
買ってきたものより自分たちで集めたほうが達成感と連帯感でてよいというのが全員の意見であった。
資材のうち幾つかは難易度10ボスを倒す必要のあるものまであり、グルードが全部集めることを皆に意見したが、ゴルキチも一部手伝うことを申し出て、二人で手分けして集めることになる。
鉱石と石はメイリンとイチゴが。残りのボス素材や木材などはしゅてるんが集めることとなった。
ゴルキチが討伐するボスは難易度10「アビスデーモン」の翼であった。
翌日ゴルキチは難易度10「アビスデーモン」へと向かうことになる。
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