第41話ゴルキチ編 手がかり
ギルド申請をした翌日、昨晩寝る前にグルードの操作を響也に見せてもらった竜二は、どうしたものか思案に暮れていた。
ドラゴンバスターではプレイヤーの操作を補助するためにショートカットキーという機能が準備されている。
ショートカットキーは任意のアクションを三つまで組み合わせて登録することができる機能になるが、生産職人や採取にはよく使われるものの戦闘で使うことは一般的ではない。
例えば、鉱山で鉱石を掘る場合には「岩を掘る為のツルハシを持つ」「ツルハシを岩に向けて振るう」「出てきた鉱石を拾う」と、鉱石を手に入れるまで三つの動作が必要になる。
これをショートカットキーに登録しておけば、プレイヤーは一つキーを押すだけで鉱石を拾うことができる。
戦闘ではゲームパットというキャラクターを動かす専用のコントローラーを使うプレイヤーがほとんどになる。
ゲームパットは自由に動作を割り当てることが出来るが、多くは左手でアナログコントローラーというキャラクターを移動させるジョイスティックのようなものでキャラクターを動かし、右手で六から八のボタンにそれぞれアクションを割り振る。例えば「しゃがむ」「ジャンプ」といったものだ。
こうして基本動作をアナログコントローラーのボタンに割り振ることによって有り体に言えば、DSなどで操作するのと同じ感覚でプレイすることが可能だ。
ドラゴンバスターオンラインはアクション性が高いので、特にキャラクターの移動においてキーボードで操作することは困難であるため、ゲームパットでの操作が普通になっている。
グルードは左手でゲームパットを持ちキャラクターを操作。右手はキーボードのショートカットを押すスタイルでボスと戦闘していた。
こうすれば、ゲームパットでは基本の一動作のみのボタンが限界であるところ、キーボードのショートカットを使うため登録可能な動作が格段に増える。
キーボードを使うことでショートカットを巧みに利用し、グルードはボス狩りをしていたというわけだ。
なら、竜二も同じように考えなかったのかというとそんなわけはない。
登録できるボタンが増えることは、キャラクター操作で有利になることは明らかだ。そのため、竜二ももちろんショートカットキーをキーボード登録して戦闘はしてみた。しかし、ゲームパットのみを使うよりパフォーマンスが落ちたのだ。
戦闘を行うには通常の基本動作さえ登録していれば支障はなかったし、二アクションを組み合わせると、確かに一つのキーを押すだけで動作してくれるものの、キャラクターの動作時間が長くなり竜二にはかえってやりずらくなってしまった。
しかし、グルードの操作を見た竜二考えは過去と異なる。キーボードを使った方が必ずパフォーマンスは上がると確信していた。
グルードの動作を例にすると、「盾を構え」て、「前に盾を突き出した」後、「盾を横に振るう」という三アクションを組み合わせた動作があった。
この動作はそれぞれの動作について、ボタンを押す間隔をズラすことでタイミングを計りながら繰り出すことが一般的だ。
しかしグルードはそうしない。ショートカットに登録することで、三つの動作が出るタイミングが一定になる。手動であればタイミングを見ることが出来るが毎回同じタイミングとはならない。
グルードは三アクションという長い動作を一つの動作として扱い、同じタイミングで出ることを利点とし逆にパフォーマンス向上に繋げていた。
この発想は竜二には衝撃的であった。リベールのマクロはこの逆の発想で成り立っている。
動作を可能な限り細分化し、ボタンを押すタイミングを含めミリ秒単位で管理する。極限までに切り詰めた最小アクションの繰り返し。これがリベールのマクロだ。
そのため正確かつ緻密な操作が要求され、人力ではどのキーを押すか指示されてもとてもじゃないが追いつかなかった。
それゆえ竜二は、キーの判断を行うマクロとキーを押すマクロを使い自動操作していたのだ。
グルードのように、長い動作を一つのものとして捉えれば手動操作が可能かもしれない。
こうして、竜二の操作技術は覚醒の時を迎えることになる。
ドラゴンバスターオンラインでは、キャラクター、モンスターを問わず位置情報を調べることが出来る。
これはフィールドにハマり脱出出来なくなったり、ボスモンスターがありえない位置にいた時など運営に報告する必要がある際に使われる情報だ。もちろんプレイヤー同士でもお互いの場所を知らせる為に使うことも出来る。
竜二が構築したリベールのマクロは、大まかに分けて二種類ある。一つは竜二が「情報収集AI」と呼んでいるもの。もう一つは「操作マクロ」になる。
情報収集AIはモンスターと自分の位置情報を収集し、モンスターと自分の現在の体勢――「しゃがんでいる」や「剣を振りかぶっている」など――の情報を収集する。
次にモンスターのアクションをミリ単位――フレーム単位で観測し、モンスターがどのアクションを取るのかを予測する。
モンスターのアクションは動作が始まるまで、どのアクションが来るのかランダムではあるが、動作が始まるとどのアクションか判明する。
通常ある程度動くまで判断は付かないが、ミリ単位ーーフレーム単位で観測することにより、目で見るより遥かに早くモンスターがどのアクションを取ったのか判明する。
「位置情報」「体勢情報」「モンスターのアクション」の三つが揃うと、ダメージを受けないことはもちろんのこと、最適な操作を計算し、操作情報を操作マクロに送信することができる。これが位置情報AIの仕組みになる。
竜二がマクロを作成する際の肝は、この位置情報AIである。このAIは「モンスターと自キャラクターの位置関係」「お互いの体勢」「モンスターのアクション」によってパターンが分かれるため膨大な研究が必要になってくるのだ。
比較的簡単なのは、モンスターがどのアクションを取ったのかの観測である。フレーム単位で動作を見比べれば良いだけだ。
今竜二は情報操作AIを改造し、ゴルキチ用の「戦闘補助AI」を作成しようとしていた。
ゴルキチの操作の想定では、ショートカットで二か三の動作を組み合わせるため一つの動作時間は長い。
しかし、戦闘補助AIを使うことで最適な動作を計算することは出来る。また、戦闘補助AIは安全にダメージを受けない方向を指示し、最適なショートカットは何かを表示することにする。
動作が長いため、戦闘補助AIが竜二に示すショートカットが二つ以上の可能性も多々あるが、ここは竜二の判断に委ねられる。
まずは職業を何にするかだな。竜二はドラゴンバスターオンラインの公式サイトにアクセスし、それぞれの武器が何を出来るのかチェックし始める。
探したのはなるべく攻撃モーションが少なく、攻撃チャンスは少なくなると思うので一撃が大きい武器。この二つを意識して探したところ、クロスボウが最適と判断した。
遠距離攻撃出来る武器は、大まかに弓と魔法がある。魔法は最適距離が無く、当たればダメージが一定の変わりに威力が弓より低い。
弓は最適距離という制限があり、威力の最も強い距離が決まっている。そのため、近すぎても、遠すぎても威力が減衰する。
弓のカテゴリーにある武器は三種類。「スリング」「ロングボウ」「クロスボウ」だ。クロスボウは矢を番えるのに一番時間がかかる変わりに威力が最も高い。
クロスボウを扱える職業は、全ての弓が扱えるアーチャーをはじめ幾つかあるが、竜二が選んだのはアーティレリー。
この職業はクロスボウしか扱うことが出来ない変わりに、一撃の威力が更にアップする。
クロスボウの動作は非常に単純で、矢を番える「リロード」、狙いを定める「エイム」、矢を放つ動作の三種類しかない。
エイムは正確に弱点を狙うために画面がモンスターの拡大画面になり、矢を放った時の予想命中位置が表示されるもので、必ず使わなければならないものではないが、非常に便利な機能となっている。
竜二は早速ドラゴンバスターオンラインにゴルキチでログインし、アーティレリーに転職させる。
ゴルキチは弓を手持ちの素材で作れるものを選んだ後、防具も手持ちの皮鎧にしようと思ったが、練習モードだし見た目重視で今の世紀末コックファッションのままにすることにした。
こうして、竜二の新たな研究が始まるのだった。
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