第39話ゴルキチ編 王都
ドラゴンバスターオンラインのイベント告知が来ているというので、竜二は自宅に帰るとさっそく公式サイトを覗いてみた。
・巨大モミの木育成イベント
来たるクリスマスに向けて、巨大モミの木育成イベントを開催いたします。
各種ボスモンスターが肥料を出します。また、周囲の木を伐採したり、水遣りしたり、肥料を撒いたりと皆さんでモミの木を成長させて下さい!
同時に来たるクリスマスへ向けて、モミの木の装飾品受付ボックスも準備しております。
こちらの装飾品は運営で選定させていただき、クリスマスイベント開始時にモミの木に飾らせていただきます。
・王都実装
お待たせしました!ようやく王都コンツノープルが実装されます!
外観は1400年ごろのある帝都をモデルにしております。王都周辺にはギルドのアジトを建設出来るエリアを設けます。
このエリアは後日イベントの対象エリアになりますので、貴重品を置かないよう注意喚起いたします。
※王都は本日の臨時メンテナンス後に実装されます。
ハロウィン以降の運営は本気過ぎて怖い。鬼気迫るものがあるな......。モミの木イベントは楽しそうだし、王都は見に行って見たい。竜二は今後のアップデートに思いを馳せる。
ただ、とある帝都って名前からしてバレバレじゃないのか?突っ込んではいけないところなのだろうか......特に著作権もあるものではないし問題はないのだろうけど。
ドラゴンバスターオンラインの臨時アップデートが終了するまでまだしばらく時間があったため、おやつでも食べようとリビングの冷蔵庫を漁っていると、弟も同じことを考えたのかキッチンまでやって来た。
弟は昨日衝撃の事実を竜二に伝えて来たのだ。なんとあのグルードさんが弟だった!
これを聞いたときは余りにビックリして夜にも関わらず叫んでしまった......今思い出すと赤面を隠すことができない竜二ではあるが、グルードが響也となると彼の操作するところを見ることができる。
響也なら隣の部屋だし、都合もつけやすい。と、竜二は驚きはしたものの、弟がグルードだったことはラッキーと思っていた。これが引退前の黒歴史竜二ならそうはならなかっただろうが......
「プリンが一つ、ゼリーが一つ、バナナが一本。さてどれにする?」
キッチンに降りてきた弟に、竜二は物色の結果を伝えると、弟はどれでもいいと返してきた。むしろ特に食べ物は要らない様子だ。
「なら俺はプリンをもらう。きちんとプッチンさせるからな」
呆れた顔で兄を見る響也に、竜二は少し恥ずかしくなってしまう。だって、プッチンプリンはプッチンしないといけないじゃないか。なんでそんな目で見るんだよ......
「あ、響也。今晩か明日にでもどんな感じで操作してるか見せてくれないか?」
「もちろん。もう受験も終わったし、いつでもいいよ」
響也は先月大学推薦入試に合格したため、卒業するまで暇なのだ。社会人の兄よりは時間を持っているので、兄に時間を合わすことは容易だろう。最もこの弟のことだから、スケジュールに多少無理をしてでも兄に合わせると推測されるが。
「メンテ明けたら、俺は王都に一度行ってみるよ」
竜二は弟に伝え、プッチンプリン用の皿を準備し始めるのだった。弟はそこまでどっぷりドラゴンバスターをやりこまないので気が向いたらログインするだろうと竜二は考えていた。
プッチンプリンを食べ皿を洗い終わる頃、ドラゴンバスターの臨時メンテナンスも終了していたのだった。
臨時メンテナンス完了のメッセージと同時に、竜二はゴルキチでログインする。さて王都はどうなっているのか。
これまで王都のエリア自体は存在した。ジルコニアの街から内陸に設定上馬で二日ほど進んだところに、王都があるとされている。
王都があるエリアは近くまで来ると関所のような砦があり、砦の門は閉じられていて、門の前に立つ二人の門番が「準備中」であることを教えてくれたのだ。
ゴルキチはジルコニアに移動すると、徒歩で王都に続く関所を目指す。ゴルキチは徒歩だが、馬に乗っていたり、トロオドンやデイノニクスといった羽毛の生えた鳥のような恐竜に乗るものたち......と関所を目指す人はゴルキチのような徒歩以外にも様々で、多くの騎乗生物がゴルキチの目にとまる。
ドラゴンバスターオンラインでは多くの騎乗できる生物が準備されており、昆虫・恐竜・馬・海馬など多岐に渡る。人気があるのは二足歩行の恐竜トロオドンや虎あたりだ。
竜二は、羽毛恐竜デイノニクスを手に入れたいと考えており、機会があれば調教師の人から売ってもらえればなあと思っていた。
デイノニクスは頑丈そうな足と短い腕を持つ二足歩行の恐竜であるが、全身から鳥と同じ羽毛が生えている。口には牙が生え揃い食性は雑食。人気の理由はカラーバリエーションだ。デイノニクスのカラーは全部で12種類もある。
基本三色は手に入れやすいが残りの九色はレアカラーとなっており出現させて捕獲するには非常に手間がかかる。
こういった騎乗用の生物や荷物の運べる生物を使役するためには、野生のこれら生物を捕獲してくる必要がある。残念なことに捕獲可能な職業は「テイマー」のみになっている。
テイマーは他のゲームなどではモンスターを使役して戦わせることができるが、ドラゴンバスターオンラインのボスは使役モンスターで戦わせることはできないため、テイマーといえども本人が戦う必要があった。
そのためテイマーは非戦闘職扱いになっている。レアカラーのデイノニクスといったモンスターを捕獲するには大変な今期が必要で、希望のカラーが出るまでデイノニクスならデイノニクスをひたすら倒す必要があるため、レアカラーのモンスターは非常に高値で取引されている。
通り過ぎていくデイノニクスを見つつ、テイマーもいいなあと思っていると王都までたどり着くゴルキチ。王都は既に人が集まってきており王都内の散策を進めているプレイヤーも多い。
王都は円形に街が広がり、周囲は高い城壁に囲まれている。城壁の外側にはアジト建設地区があり、アジトも王都を守る壁となる造りだ。
王都中央には壮麗な王城がありモザイクを駆使したビザンツ風建築となっている。王城は堀に囲まれており、入るためには跳ね橋を渡る必要がある。現在は跳ね橋が上がっており王城に入ることはできない。おそらく実装されていないから跳ね橋が上がっているものと予想される。
王都の建物の中で王城以外に一際目立つものは、アヤソフィアと呼ばれる教会風建物だ。もう何というか現実世界にあるアヤソフィアの丸パクリのこの建物だが、現在あるアヤソフィアとかなりデザインが異なる。
現在のアヤソフィアは教会ではなくモスク風なのだが、こちらはモスクに改装される前のいアヤソフィアのデザインになっている。そのためドラゴンバスターでのアヤソフィアは教会風なのだ。
建物の高さは王城に匹敵する勇壮かつ優美。その雄大かつ繊細な作りはゲームの中とはいえはじめて見るものは必ず感嘆のため息をつくほどの建物になっている。
王都に入ると、王城とアヤソフィアは必ず目に入るようになっている。この二つの建物のみ高さが段違いのためである。
ゴルキチは王都の外観を街の入口からひとしきり眺めた後、いよいよ王都に入ろうと歩を進める。
<ゴルキチ、今どこにいる?>
ゴルキチの歩を止めたのはジャッカルからのメッセージだった。餌の目の前で取り上げをくらった犬のような気分であったが、先にメールを返すことにするゴルキチ。
<今王都に来ているよ。これから中に入ろうかと>
<そうか、探索してからでもいいから城壁外のアジト建築地区に来てくれるか?>
今ちょうど外だし、先に行くか。王都は後からでも見れるしなあ。ゴルキチは「今王都外だからすぐ行ける」と返信すると、ジャッカルから「すぐ行くから待ってくれ」と返信がきた。
ほんの数十秒でジャッカルは王都入口まで到着し、ゴルキチに手を振る。
「よお。ゴルキチ。一つ提案があってな」
「なんだなんだ?」
「ゴルキチ。ギルド作ってみないか?」
ジャッカルから出た言葉を反芻するゴルキチだったが、すぐに意味が飲み込めない。ギルドを作る?俺が?あまりに突飛なことだったので思考が固まってしまうゴルキチにジャッカルは言葉を続けのだった。
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