第38話ゴルキチ編 部屋に女子が!

 久しぶりにゴルキチで練習モードに入った竜二はどうしたものかと悩んでいた。腕は以前より落ちるどころか、ボス研究の成果か若干上がっているように感じる。しかし、これではない、俺のプレイスタイルはこれではないと自身で感じているのだ。

 プレイスタイルは人によって千差万別だが、大きく分けて二つある。

 一つは攻撃型やアグレッシブ、動の動きと言われるボスの動き自体を潰す戦い方だ。

 もう一つは、待ち伏せ型、カウンター、静の動きと言われるボスの行動を見てから対処する戦い方。


 竜二はセンスが必要な攻撃型に興味がほとんどなかった。彼の得意なところはモンスター研究で、モンスターの動きを見てそれに対処する。地味ではあるが堅実なやり方を至上としていた。

 見極めるとはいってもそう簡単な話ではないのが実情で、そこがまたドラゴンバスターの面白さではあるのだが......


 一息ついたところで弟から呼び声がしたのでリビングに足を運んだ竜二は、手招きする弟を見るとちょっと驚いた!


 弟の隣には、制服姿の女子が!


 肩くらいまでの黒髪に、大きな赤いヘアバンド。スカートは短く紺色の短い靴下を履いている。

 なんだなんだ。突然の女子出現にワタワタハラハラする竜二に、弟がミネラルウォーターの入ったペッドボトルを手渡す。

 勢いよく水を飲み、ふうと息を吐き出した竜二はようやく少し落ち着いてきた。


「やっほー」


 手を振る女子高生に、思わず「やっほー」と答える竜二。

 テンパってる竜二に弟がコホンと口に手をやり助け舟を出してくれる。


「兄さん。この子は木下茜さん。同じクラスなんだ」


「初めまして!竜二さん。冴木くんと同じクラスの木下茜です!姉がいつもお世話になってます」


 姉?姉とな。誰だ。木下さん?あ、あー!まさか。竜二は驚きで目を見開く。


「ひょっとして、先輩じゃなかった。木下梢さんの妹さん?」


「はい!」


 満面の笑みで茜は答える。世間狭すぎだろと目を剥く竜二であった。


「世間は狭いよね。兄さん。俺もビックリしたよ」


 いや、先輩の妹さんなのは分かったのだが、何故ここに居るんだ?響也(きょうや)と先輩の妹さんはアレか、アレなのか。

 妄想が加速する竜二であったが、弟の言葉が遮ってくる。


「あ、兄さん。妄想してるところ悪いんだけど、ただのクラスメイトだからね」


「え?」


 盛り上がってた妄想に冷や水を浴びせられ固まってしまう竜二。


「いや、来週の土曜日さ、俺ら二人だけだから木下さん姉妹誘って鍋パーティでもしたいなと思ってさ」


 なるほど。その顔合わせに妹さんが来たと言うわけか。竜二はようやく合点がいったようだ。


「なるほど。それは楽しそうだ。やろうやろう。あ、」


「どうしたの?兄さん?」


「妹さんも先輩と同じでドラゴンバスターやるの?」


 何となく色気が全くないことが分かった竜二は、先輩と共通の話題となるとドラゴンバスターしかも思い浮かばなかった。


「はい。私もドラゴンバスターやってます」


 予想通り妹さんはドラゴンバスターをやってる様子。ようはドラゴンバスター話で盛り上がろうってことか。それだと、響也が微妙な気がするが......


「あ、ひょっとして妹さんが、グルードさん?」


 確かグルードは響也の友達だったはず。いろいろお世話になったしなあ。

 竜二の言葉に、何故か顔を見合わせる響也と茜に竜二は不思議に思う。


「い、いや。違うよ。兄さん、トッププレイヤーになるんだ!とか頑張ってたからグルードを呼ぶのはあんまりと思ってさ」


 弟の言葉に竜二は、そう言えば一度引退する前は傭兵に追いつくんだ!とか意気込んでた気がする。竜二は黒歴史を思い出し暗い気分になってしまう。


「いや、今は逆にグルードさんやチーズポテトさんの操作を間近で見たいくらい見方が変わったよ。俺はもうトップとか全く拘りなくなったんだよ。そうなると逆にどんな動かし方してるかとか間近で見たいなーと」


 妹さんはグルードじゃないのか、残念だなと竜二は思っていたが、響也と茜は微妙な顔でお互い目を合わせていた。


「え?竜二さん、グルードさんに会いたいんですか?」


 驚いた様子で茜が問うと、竜二は嬉しそうに答える。


「出来ることなら一度会ってみたいな。彼か彼女か分からないけど、とても紳士的だし非常に好感の持てるプレイヤーだよね」


 ここぞとばかりにグルードを褒めちぎる竜二に、響也が顔を少し赤くして俯いてしまった。


「そ、そうなんだ、兄さん。グルードのことは今度話するよ」


 来週の鍋パーティのことを軽く打ち合わせしてから、茜は冴木家を後にしたのだった。



 部屋に戻った竜二はスマートフォンに着信ランプが付いていた事に気が付く。確認すると先輩からのメールが届いていたのだ。


<やっほー。竜二くん。そっちに茜が行ったでしょ?>


 ああ来たよ!物凄くビックリしてしまって恥ずかしいところを見せてしまったよ。先輩知ってたなら教えてくれたらいいのに......竜二は少し先輩へ思うところがありながらも彼女へメールを返す。


<来ましたよ!ビックリし過ぎて何がなんやら>


 返信すると即先輩からメールが来る。早いな......まさか待ち構えていたんじゃないだろうか。竜二の額から汗が一筋垂れる。


<ねね。竜二くん。あの二人どうかな?>


 どうかな?って何かな?と一瞬考えた竜二であったが、先輩の考えはすぐ分かってしまった。なるほど。先輩もこの話に一枚噛んでいたな。


<最近仲がいいんですかね?あの二人>


<よくメールし合ってるわよー。きゃー>


 ふむ。俺と先輩が二人をくっつける役目を果たせばいいのかな。何か楽しくなって来た!


<先輩の考えは分かりました!鍋パーティで急接近ですね!>


<さすが竜二くん、よく分かってるじゃない!作戦を考えましょう!>


 先輩はかなりノリノリだ。竜二も同じ気持ちで今回の鍋パーティ作戦をどうするか考え始めている。その日は深夜になるまで二人の作戦会議は続いたという......



――冴木響也

 兄さんがまさかグルードに好感を持っていたなんて驚きだ。気持ちがまだ落ち着かない響也はスマートフォンを取り出し、茜にメッセージを送る。


<グルードのこと言っちゃっていいのかな?>


<大丈夫と思うわよ。ゴルキチさん、グルードのこと悪く思ってないみたいだし>


<んー。悩むなあ>


<それより、鍋パーティのこと後で相談しましょ。家着いたら電話するから>


<了解!>


 響也と茜には今度の鍋パーティで一つ思惑があった。最も竜二と茜の姉の梢は彼らと同じことを二人に対して画策することになるのだが......



 翌日夜、響也は意を決してリビングにいた竜二を呼び止める。


「兄さん、グルードのことなんだけどさ」


「おお?」


 兄は興味深く聞き耳を立てている様子。


「グルードはさ。実は」


「実は?」


「俺なんだよ。黙っててごめん、兄さん」


「何だってー!」


 よほど驚いたのか兄は物凄い叫び声をあげて、万歳のポーズを取っていた。そんな兄に、弟は無言で水の入ったグラスを差し出す。弟の動作は手馴れたものだ。

 全くどっちが兄か分からないよな兄さんって......弟は微笑ましい気持ちで兄を見るのだった。


※誰にでもできる影から助ける魔王討伐を読んでて更新遅れました。

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