第36話トレハン編 果たして王命は?
数度「天空王」との戦いが終わった後、しゅてるんがリベールを手招きする。
「リベールたん、地図から一人てやるのの?」
「そのつもりだ」
リベールは当たり前といった風にしゅてるんに答えると、しゅてるんは指を口に置くモーションをしつつ、「うーん」と何か思案している。
「リベールたん、私と組まない?」
はて、どういうことだろう?不思議そうな顔のリベール。
「んとねね。リベールたんが来る時間までに地図を私が集めるのの」
しゅてるんが言うには、長時間ログインしている自分が、リベールが来るまでに地図を集めておいて、しゅてるんの別キャラクターの移動魔法で、宝箱の前まで移動。リベールが難易度9「サキュバス」を倒している間に、しゅてるんは次の宝箱へ移動し拠点登録する。
リベールの戦闘が終了したら、しゅてるんの移動魔法で次へ移動といった動きだ。
「私は構わないが......」
ちょっとしゅてるんの頑張りが大きくないか?リベールはそう懸念する。
「私一人より、リベールたんがいた方が効率がかなり上がるのよよ。リベールたんがスプレー要らないのならだけど」
なるほど、しゅてるんが欲しいのは恐らくメタリックスプレーだろう。ラスティスプレーは彼女の美観に合わないし、何より金属にしか使えない。ゴシック衣装にサビは流石に無いし、そもそもラスティスプレーは使えないし......。
対するリベールが欲しいのは「天空王スープのレシピ」で、欲しいアイテムは被らない。
「ああ、私が欲しいのはレシピだ。君さえ良ければ、その提案を受けよう」
「リベールたん、ありがとう!じゃあじゃあ明日からよろしくねね。リベールたんのお家に行くから」
「了解した」
こうして、宝箱開けの共同戦線が組まれることになったのだ。
しゅてるんの移動魔法で宝箱の目前まで来たリベールは、さっそく箱を開ける。
箱を開くと、中から光が溢れ、光が消える頃にリベールはボスエリアに移動していた。
宝箱のボスエリアは非常にシンプルな作りになっている。古代ローマのコロッセウム風の建物での戦闘となる。コロッセウムとの違いは観客席が無いことだ。かなり殺風景で、運動場にも見える空間だ。
中央に難易度9「サキュバス」が艶絶な笑みをたたえ佇む。サキュバスは一見するとプレイヤーキャラクターと変わらぬサイズのビキニを着た美女であるが、背中から生えたコウモリの翼とお尻から突き出す尻尾が人間ではないことを主張している。
ドラゴンバスターでは、他のゲームにあるようなエルフやドワーフといった種族は存在しない。プレイヤーキャラクターは全て人間になる。だからこそ、サキュバスの異形の姿は目立つのだ。
リベールがボスエリアに出現するなり、サキュバスの手から光弾が連射される。リベールは右斜め前に疾駆しそれを凌ぐと、斧を下からすくい上げるように振るう!
斧にさきほどサキュバスから発射された光弾が炸裂し、衝撃を受けたリベールは後ろへよろめく。 その目前をさらなる光弾が通過していく、ちょうどリベールが後ろへ体が逸らされたことにより、光弾は外れる形になる。
リベールは、サキュバスに向かってゴロリと手を突き一回転。その勢いを斧に乗せ飛び上がると、サキュバスの頭目掛けて斧を振り下ろす。これはサキュバスのシールド魔法に防がれる。
サキュバスは見えている範囲ならシールドを張ることができる。このシールドは全ての攻撃を通さない。
しかし、シールドを踏み台にすることは可能だ。リベールは振り下ろした斧の勢いそのままに、斧を支点に一回転し、回転の勢いを持って斧を振りかぶりサキュバスの後頭部を斬りつける。
着地したリベールは、サキュバスの真後ろに立っていた。振り向きざまに斧をさらに当て、サキュバスが振り返る前に脇を抜け、後ろに回りさらに斧を当てる。
サキュバスには、張り付き続け、円を描くように後ろに回ることが一番の方法で、リベールは後ろに回り続け、斧を的確に当てていく。
完全に張り付かれるとサキュバスにはもう成すすべは残されていなかったのだ......
「さすがリベールたん、危なげないねね。どんどんいこうー」
しかし、しゅてるんよ。どれだけ地図集めたんだ。リベールは稼働時間の六時間ずっと宝箱を開けていたのだった。
宝箱を開けはじめてから二日目には、メタリックスプレーが手に入り、三日目にはさらにメタリックスプレーが手に入る。
そして、四日目。
「ようやく出たようだ」
宝箱には、レシピらしき巻物が入っていた。さっそくリベールが開けてみると「サイハイソックスのレシピ」だった。
これじゃない!ソックスはいらないんだ!リベールの心の叫びはもちろん誰にも届かない。
「リベールたん、王女様へのサイハイソックスのレシピじゃなかったの?」
首を傾げるしゅてるんにリベールは首を横に振る。なんで王女様......リベールも首を振ったあと首を傾ける。
「公式サイトに、どのボスがどのレアを出すか出ているのの。王命で王女様にサイハイソックスをプレゼントするのかと思ってたた」
公式サイトだと!あれから見てないぞ!リベールの中の人竜二は、薄々気が付き始めていた。
「公式サイト?私には何のことか」
少女騎士ロールプレイでごまかすリベール。あくまで、ゲーム内の住人なのだ。リベールは。
「あー、ちょっと待ってねね。チーズポテチに連絡するねね」
求めてやまない「天空王スープのレシピ」は、男キャラクター用のボス「インキュバス」から出るようだ。
結局、チーズポテチじゃない、チーズポテトにメタリックスプレーと「天空王のスープレシピ」を交換してもらい、王命を達成したのだった......
チーズポテトは「王も無茶いいますなあ」と笑って交換してくれた......
結果的に上手くいったが、どこか納得できない竜二であった。
しかしこの頃になると、すっかりリベールを普通に使う分には忌避感が無くなっている竜二であったが、やはりゴルキチでボスを倒したいと再び考えるようになっている。
一度引退して以来、本格的にゴルキチでボス討伐をやっていなかったが、本腰を入れてやってみるか。竜二は独白し、ゴルキチの装備を思案し始める。
竜二は再開した当時よりかなり心が落ち着き、リベールでログインすることも、ゴルキチで難易度10ボスに再度挑むことにもようやく前向きに捉えることができるようになってきている様子だった。
これで終わっていれば竜二にとっていい話だったのだが、残念なことにまだ続きがある。手に入れたレシピの取り扱いだ。
もちろん「サイハイソックスのレシピ」のことだ。とりあえず必要ないのでメイリンかしゅてるんに譲渡しようと思い、結局メイリンに渡すと彼女は楽しい提案をしてきたのだ。
「女キャラクター四人で一回サイハイソックスを着てみよう!」と。
サイハイソックスがどんなものか不明だったが、準備されたものを見てみると、太ももの中央あたりまで来るタイツだった。
しゅてるんはゴシック衣装に白地に薄紫の横ストライプの入ったサイハイソックス。ゴシック衣装は元よりスカートが超ミニなので違和感はない。メイリンは短い裾のデニムパンツに黒のサイハイソックス。
イチゴはクリーム色のホットパンツに、青字に黒の横ストライプと赤字に黒の横ストライプのサイハイソックス。上着と帽子はいつものままであった。
困ったのはリベールだ。どんな服を着ていいか分からない。結局セイラーの時につくったセーラー服に黒のサイハイソックスを着て誤魔化したが、おしゃれ談義に困ることしか出来なかったのだった......
幸いなことに、衣装を見ているのはこの三人だけであったので外に広まることはなくサイハイソックス試着会は終了となる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます