第28話パンサー編裏話 ジャッカル2
翌日チート軍団に妨害行為を行いつつ「暴帝」を討伐していると、何やら歓声が上がっている。何事かと注目したチーズポテトだったが、歓声の元になる人物を知るとすぐ納得する。
「リベール!」
「騎士リベール!」
「王命をこなせ!」
リベールと呼ばれたこの少女騎士は、ゲーム内での有名プレイヤーで、流麗かつ精密な超絶プレイヤースキルを持つ。通常それだけでは、傭兵と呼ばれるプレイヤー並に有名にはなれるものの彼女の人気は超絶プレイヤースキルは添え物過ぎないかもしれない。
彼女を魅力的にしているのは、独特な個性だ。オンラインゲームの遊び方の一つに、ゲーム内のキャラクターになりきるロールプレイという遊び方がある。
リベールは一貫して少女騎士のロールプレイをこれまでずっと行っている。チーズポテトもロールプレイが割りに好きで、ロールプレイキャラクターと話をするときは自分もロールプレイを行う。
リベールのロールプレイは本当に徹底していて、素のチャットはまずしないし、理由がなければボス討伐もしないし、ゲームプレイもしない。この独特のロールプレイに加え、ぺったんを恥ずかしがったり、時折見せる騎士ではない素の発言などの可愛らしさが人気に拍車をかけた。
素の発言までロールプレイなので本当にリベールはゲーム内のキャラクターなのではないかと思ってしまうほどだ。
先日のスタイル変更チケットでの「王命でない」が個人的な理由で大海龍を討伐するという話が広まり、彼女の人気は不動のものとなる。
「リベール殿。王命ですか?」
チーズポテトはリベールの前で片膝をつく。
「はい。王より王命を拝命いたしました。チーズポテト様」
チーズポテト様?はて何故か「様」がついてしまった。ああそうか、チーズポテトは近衛騎士。リベールは自分より身分が上と思ってしまったのか。チーズポテトはそう判断する。
「私はただの近衛ですよ。様はいりません」
「そうですか。ではチーズポテト殿と」
チーズポテトは不思議な高揚感に包まれていた。リベールと会話していると、本当に自分も騎士になった気分になってくる。彼女の本気のロールプレイがそうさせるのだろう。近衛騎士チーズポテト、悪くないじゃないか。
「今回はベルセルクですかな。王の騎士リベールの実力間近で拝見してもよろしいですか?」
自然と言葉が紡がれる。
「ええ。では、行ってきます」
暴帝に向かうリベールを見送るチーズポテトは騎士として自然と敬礼していたのだった。
チーズポテトの目から見てもリベールの動きは圧巻で、間近で見るリベールの流麗な動きにチーズポテトは感嘆の声をあげる。
翌日の朝のことだった。とある廃人より連絡がチーズポテトに入る。今回のイベント報酬である「パンサー装備」にレイドボス誘引効果があることが分かったとその廃人は伝えてきたのだ。
パンサー装備のうち女性用は、ドラゴンバスターオンライン公式サイトで発表されて以来女キャラクターを扱うプレイヤーから好評で、手に入れたいと思うプレイヤーも多かった。その中にはもちろんプレイ時間の長い廃人達も含まれている。
連絡をくれた廃人は、パンサー装備を譲るので是非チート妨害に役立ててくれというのだ。
チーズポテトはもちろん、借りるだけで十分だと伝えるが、その廃人はすぐに取れるから問題ないと返してきた。流石廃人である。せっかくの廃人の方からの好意ではあるが、パンサー装備は防御力が皆無だ。
今回チート妨害に集まったプレイヤーのうち、10分間戦えるものはチーズポテト本人を入れて三人。
そのうちの二人――チーズポテトとグルードは男キャラクターのためパンサー女装備は装備できないため、リベールにお願いしなければならない状況だ。
正直なところ、誘引が出来ないとなると昨日一日やったがかなりしんどい。もしリベールが思ったところまで「暴帝」を引っ張ってくれるなら非常に展開が楽になるのだ。もし「暴帝」に襲われてもリベールならば倒されずに凌ぐことができるだろう。
だがとチーズポテトは思案する。大きな懸念があるのだ。リベールはどうも胸が目立つ装備を嫌がる傾向がある。要はぺったんを目立たせたくないのだ。それならそれでぺったんじゃないキャラクターを作れと思うのだけど、何らかのロールプレイなのだろうきっと。
パンサー装備は曲がりなりにも上半身はブラジャーだけだ。水着と同じくらい目立つ。そうはいっても、最適はリベールなのだから、頼んでみるか。ダメなら他の人に頼もう。
「リベール殿。貴殿の腕を見込んでお願いしたいことがあるんです」
チーズポテトは「龍の大地」でリベールを発見するや、襟首を正す。
「な、なんでしょうか」
少し戸惑った様子でリベールはチーズポテトに応じる。
いざ頼むとなると、やはり頼みずらいものだとチーズポテトは肩を竦める。
「実はですね。これを装備していただきたいのですよ」
チーズポテトはパンサー装備の入ったプレゼントボックスをリベールに手渡し、リベールはすぐプレゼントボックスを開ける。
チーズポテトの予想通り、リベールは戸惑っているようだった。パンサーはビキニだものなあ。
「申し訳ないんですが、装備していただけますか?」
「パンプキンブラザーズに取られるわけにはいかないんですよ。どうか」
と迷うリベールにチーズポテトは少し押してみる。リベールは「彼らを許すわけにはいかない」といった風で、パンサー装備を装備してくれた。
やはり、目立つ。ぺったんが。
「かたじけないリベール殿」
心の中でも「ごめんなさい。リベールさん」と謝りながらチーズポテトは謝意を伝える。
「いえ、目的の為には仕方ないことですにゃん」
リベールの言葉......語尾に「にゃん」がついていたことで、チーズポテトはパソコンの前で大爆笑してしまう。にゃんって真面目な顔で、にゃんって言った!どうもパンサー装備の効果らしいが、こんな効果まであったとは。
素晴らしいネタ装備だったのか、パンサー装備は。
翌日には無事チートプレイヤーは全てアカウントを削除され、平和が戻ったのだが、リベールはパンサー装備で前線にたち続ける。
「龍の大地」に集まったプレイヤーは全員チートプレイヤーがすでにアカウント削除されたことは知っているはずだが、リベールは何故パンサー装備をつけたままなのだろうとチーズポテトは不思議に思う。
チーズポテトはリベールに理由を聞いてみようと思ったものの、鬼気迫る雰囲気で「暴帝」を誘引するリベールを見ると何も言い出すことが出来なくなってしまう。
そうか、一度「王命」として受けたものは最後まで完遂するということか。チーズポテトは勝手に納得しリベールを見守ることにしたのだった。
イベント終了日にチーズポテトは感謝の意味を込めて、今回装備してもらったパンサー装備はリベールが持っていてくれと告げる。こうしてパンサー装備はリベールの持ち物になったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます