第29話ハロウィン編 ゴルキチはコック
竜二は目が覚めると先日の出来事を思い出し、頭を抱える。
後からメイリンがゴルキチに教えてくれたのだが、パンプキンブラザーズは運営にすぐ目を付けられアカウント削除されたそうだ。ちゃんと見ていればすぐに気が付けたはずなのに、気がつかなかった。
結果的にリベールがノリノリでパンサービキニつけていたと見られても仕方がない状況にしてしまった......だって俺以外ほぼ全員アカウント削除のこと知ってたんだもの。
その後はしゅてるんとニーハイソックスで遊んだんだったか......。少し頭が混乱していたものの最近の出来事を思い出すことで竜二は少し落ち着きを取り戻す。
気を取り直し、会社へと向かう竜二は街がハロウィンの準備を始めてることに気を止める。そうか、もうすぐハロウィンなんだなあ。ドラゴンバスターでもハロウィンイベントの告知がそろそろ来るはずだ。
昼にスマートフォンでドラゴンバスターオンラインの公式ページを見てみると、ちょうどハロウィンイベントが記載されたところだった。
ハロウィンイベントにつきまして
・墓場に難易度9「殺人カボチャ」、密林に難易度9「女王蜘蛛」が出現します。
・ハロウィン用衣装が作れるようになります。
・ハロウィン用の様々な生産レシピが実装されます。
※みなさん仮装と特別な料理などなどお楽しみ下さい。トリックオアトリート。
帰宅後、詳しくハロウィンイベントのチェックする竜二であったが、表情が優れない。
竜二はハロウィンイベントに惹かれたものの、最終的に何か痛い目に会うのではないかと疑心暗鬼になっていたから、曇った顔だったのだ。
狩はやめだ。ろくな事にならない予感がするのだ。しかし、せっかくのハロウィンイベントだから楽しみたいのが竜二の本音なのだ。リベールにはお休みしてもらって平和に行こう。
衣装や家具はセンスがいりそうだから、コックに転職してみるかな。ハロウィンならお菓子だろ!
思案していくとどんどんウキウキしてくる竜二。
ゴルキチでお菓子を配る姿を想像し、最初にやけていたものの、ハゲ頭の浅黒い、しかも筋肉質な男が笑顔でお菓子配るってと考えが進むにつれて、竜二の表情は微妙なものになってくる。
リベールならまだ絵になるのだろうが、自ら墓穴を掘るわけにはいかない!
だいたい、コックでゴツい男と言えば別の人物を想像してしまう。少し古い映画になるが、やたら強いあのコックだ。渋くてカッコいいんだけど。
竜二がさっそくゴルキチでログインしようとしたその時、パソコンの脇に置いてあるスマートフォンがブルブルと振動し始める。
見ると先輩からのメールだ。先輩は公私の区別ができる人らしく、会社ではドラゴンバスターの話題は出ない。
ごく稀に二人きりかつ周囲に他の社員が居ない時に話題を振ってきたことがある程度だ。それでも、交わす言葉は二言くらい。
いままでメールアドレスは知っていたものの挨拶メールを最初に送信して以来の受信になる。何かあったのかと、竜二は不安になりメールを閲覧する。
<リベールたんから返事がないのー>
コケた!あれか、あのうさたんにメッセージ送ったのか先輩は。竜二は頭がクラクラしながらも先輩にメールを返す。
<分かりました。先輩。俺からゲーム内メッセージ送っときますよ>
先輩をはじめ、ゴルキチがフレンド登録している三人はゴルキチがリベールにフレンド登録しているのを知っている。竜二は自身があれほど精神力を削ってやり遂げたことなので、一応利益を享受しようとしたのだ。
無事ゴルキチとリベールはそれなりに親しい仲ということは、フレンド登録している三人には浸透していたのだ。
正直失ったもののほうが遥かに多かったのだけど......
<ありがとう!メッセージ見てねと伝えてね!>
やれやれだ。もちろん竜二はゴルキチからリベールにメッセージを送るなんて一人芝居はしない。 メッセージは送受信した本人にしか見えないものなので、今リベールでログインしても問題は全くない。
問題は別のところにある。あの部屋に入ってうさぎのぬいぐるみを取ってくることだ。
魔女帽子という悪魔によって、ピンクになってしまったあの部屋だ。
まずは、リベールでログインするか。竜二は重い気持ちを振り払いログインすると、南国風洋館のロビーにリベールが出現する。
リベールは、重い足取りで自室の扉前まで来ると、心を落ち着けるため大きな深呼吸を一度。
扉を開く!
やはり中はピンクだった!
アヒルやらタンスやらが目に入るが、うさぎのぬいぐるみを探す。
天蓋付きのベットにうさぎは寝かされていた。場所は枕元だ。
うさぎを抱いて寝てね!と微笑む魔女帽子を幻視し、リベールは膝を付きうなだれてしまう。うさぎに触れると、うさぎの口から紙が出てくるモーションがありメッセージがリベールに届く。
<リベールたん、月見草取ってくれないかな?もちろんお礼はするよー>
月見草は「王狼の渓谷」の外周部分に自生している。渓谷という名前の通り、「王狼の渓谷」は低い位置にあり、周囲は崖で囲まれている。その崖の上に月見草があるのだ。
月見草はボンヤリとめしべが光る4つの花弁を持つ美しい花で、色は白、黄色、ピンクと三種類ある。
ガーデニングで育てることが出来ないので、欲しい場合は取りに行くしかない。
しかし、一つ問題がある。月見草を取ると「雷神の王狼」が確実に襲って来るのだ。これを退けなければ月見草は持って帰れない。
メイリンはボス狩りをほとんど行わないので、最高峰の難易度を誇る「雷神の王狼」を討伐することは至難の技と推測できた。
目立つことを避けたいリベールではあったが、少女騎士風の衣装で普通に戦闘をする分には今更だったので、頼みごととあれば行くのもやぶさかではない。
「雷神の王狼」はイベント用にマクロを作成したものの、チート軍団を阻むために結局討伐に行かなかった。
あの時と装備は同じだし、マクロは使える。
リベールは思案し、メイリンの頼みごとを受けようと決める。
そうと決めればすぐ動こうと、竜二はスマートフォンを手に取り、先輩にメールを送る。
<リベールさんと連絡取れました。30分後にリベールさんの家でよいですか?>
<やったー!ありがとう竜二くん>
先輩のメール返信は異常に早かった......
先輩が来るまでに転職しておこうと、竜二はゴルキチでログインし転職所に向かう。
「お、ゴルキチじゃないか。この前は行けなくてすまなかった」
転職所前で偶然世紀末覇者ことジャッカルにゴルキチは出会う。この前ってのは月見の時かな。グルードさんを観戦したときだ。確かジャッカルも来るとか魔女帽子が言っていたような気がする。たぶん......ゴルキチは回想するが、その後の悲劇のおかげで観戦した時の楽しさなぞ、とうの昔のことに思えた。
「いやいや。気にすることじゃないよ。ジャッカルも転職に?」
「んだんだ。テイラーやろうと思ってな」
テイラーか。服を自由に作れるのは魅力的だ。ジャッカルは世紀末風の格好をしているが、これは標準装備では作れない。パーツを組み合わせて世紀末風衣装を作成しているはずだから、自身で作ってるのならジャッカル結構センスがあるぞ。
竜二はジャッカルがテイラーをやるということで少し興味を持ったものの、自分では無理だと判断する。
「ゴルキチは何やるんだ?」
「コックでもやろうかと思ったんだけどさ、この見た目だろ......」
肩を竦めるゴルキチに、ジャッカルはポンと手を叩くモーションを行う。
「ゴルキチ、良かったらコック用の服作ってもいいか?」
「おお、それは嬉しい!ジャッカルのセンスに任せるよ」
「任せとけ!とっておきの世紀末を作ってやるからな」
実のところ、竜二は世紀末風衣装は嫌いじゃなかった。モヒカンにしたいとまでは言わないが、世紀末の服装はヘビーメタルな感じがしてゲーム内で装備する分にはカッコイイと思う。
「リベールさんのはきっと、メイリンさんあたりが作ってくれるさ」
リベールの分は要らないんだけど、内心思うものの、口には出すことはしないゴルキチ。
「ま、まあリベールさんに連絡することはやるよ。本人が欲しいかどうかは俺には分からないけど」
精一杯の抵抗の言葉がこれである。自分で言っときながら悲しくなるゴルキチであった。
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