第26話ランバージャック編裏話 しゅてるん2

 ゴルキチと約束してから数日後、珍しい人物が「馬王の森」にやってきたのだった。

 腰には「不壊」の効果が付与された、漆黒の三日月刀――ソウルシーカー。背中には大型のカイトシールドと呼ばれるオーソドックスな盾。職業はグラディエーターのため、防具は軽装の皮鎧を着ている青年がしゅてるんを訪ねてくる。

 そう、訪問したのは、ドラゴンバスターで一番盾が使うのが上手いと言われている傭兵プレイヤーグルードだった。

 しゅてるんとグルードはそれほど面識はないが、お互いそれなりに有名プレイヤーだったのでお互いの名前と特徴は知っている。


「こんちー」


 しゅてるんはグルードに挨拶をするとグルードもしゅてるんに挨拶を返す。


「こんにちは。しゅてるんさん」


 グルードは現在ゴルキチの髪染め出しを手伝っているみたいだが、髪染めの出現率は1パーセントのためなかなか苦労していると近況を教えてくれた。


「なかなか出ないのの。こっちはもっとだけどねね。ずっとソロだしし」


「僕が手伝うことはできますよ。しゅてるんさん」


 グルードが手伝ってくれるとなると、効率が大幅に上がることは明らかだ。しゅてるんも傭兵などの一部超絶クラスには及ばないもののそれなりの腕を持っている。ただ、難易度9ともなるとそれなりに骨が折れるのだ。

 グルードら超絶クラスになると、難易度9くらいのボスモンスターなら鼻歌交じりに倒してしまう。しゅてるんにとって倒す手間が減る上に、時間まで短縮できるのなら願ったり叶ったりだ。


「ゴルキチちゃんは、どれくらい戦えるのの?」


 もし二人が空き時間に手伝ってくれるのなら、ニーハイソックス取得までの効率が大幅にあがる。そうなればしゅてるんにとっては、「髪染め」以上の価値を見出すことができる。

 「髪染め」とニーハイソックス取得率アップでは、ニーハイソックスを狂信するしゅてるんにとっては、どちらに傾くか自明のことだ。


「んー。上の下ってところでしょうか。上手い部類には入ります」


 上の下なら、しゅてるんとそう変わらない。集中し注意すれば、倒せるが取りこぼしもあるってくらいの腕だろうか。それなら馬王に慣れているしゅてるん自身のほうが腕は上のはず。


「髪染めの変わりに二人に手伝ってもらおうと思ったんだけどど、ちょっとしんどいねね」


「なるほど。髪染めの変わりにお手伝いと交換にニーハイソックスを」


「私にとっては、そのほうが価値が高いのの。ゴルキチちゃんもリベールたんへのプレゼントは、髪染めよりニーハイソックスのほうがいいと思ったんじゃないの?」


「おそらくそうかと思います。ニーハイソックスは実用面でも優れてますし、見た目重視のプレイヤーなら欲しい装備ですよね。出現率も雲泥の差ですし」


 髪染めは一回の伐採でボスに挑戦ができ、出現率一パーセント。対するニーハイソックスは、四回の伐採でボスに挑戦ができ、出現率0.05パーセント。確かに雲泥の差がある。しゅてるんが今回交換してもいいなと思ったのは、ゴルキチの人柄からである。

 リベールたんに会えるかもって気持ちも少しはあったのは否定できないが。


「んん。私の知り合いだと適任はチーズポテトちゃんくらいだねね。グルードちゃんはもちろん合格よよ」


「そういってもらえると嬉しいです。とりあえず僕はしゅてるんさんに協力できるとだけ思っておいてくださればそれで」


「んん。んん。あ、そうだだ。グルードちゃんと同じ傭兵クラスの腕を持つ人がゴルキチちゃんの知り合いにいるじゃない」


「え?リベールさんですか?」


「そそ、リベールたん。リベールたんが協力してくれるなら喜んでニーハイソックス渡すよよ」


 リベールたんなら大歓迎よよ。むしろゴシックとニーハイソックス着て一度戦ってくれるだけでも元が取れるるとまでしゅてるんは考えていた。


「ん。いい提案だと思うんですが、今回はゴルキチさんがリベールさんにお礼として考えてたわけで。あ、そうか」


 グルードも気がついたようである。ゴルキチがリベールに破格の話があると持っていけばいいのだ。一応手伝いは二週間くらいの予定だが、二週間手伝うとニーハイソックスが手に入るとなると破格も破格の話だ。

 ソロで二週間やったところで、ニーハイソックスはまずでない。プレイヤー間の取引でニーハイソックスを買うとなると膨大な資金が必要になってくるほどニーハイソックスには価値があるのだ。

 ゴルキチには今回の話を持っていくことでリベールと親しくなってもらえばいい。そういうところだ。これだけ破格の話を持ってきたとなるとリベールも嫌な顔はしないだろう。グルードはそう思案した。


「あくまで、ゴルキチさんの意思に任すのでしたら、リベールさんと一緒に協力しますよ」


 グルードはあくまでゴルキチの意思を尊重して欲しいと念を押す。兄さんはいい人だから頼まれると断れないからなあとグルードは思うのだ。なので押し付けにならないようにだけは注意して欲しいとグルードは思う。

 こうして、グルード、リベール、しゅてるんの共同戦線が二週間実施されることになったのだ。




「リベールたん、服とアイテムをどぞぞ」


 ゴルキチはうまく話をまとめてくれたようで、リベールが「馬王の森」へやって来たのだ。リベールたん用に作成した黒っぽいゴシック衣装に白のニーハイソックスをリベールに手渡すと、リベールはじっと衣装を見た後、装備を変更する。

 リベールたん気に入ってくれたかななと不安そうにしゅてるんはリベールを見るが、どうやら問題なかったようだ。すぐ着てくれたんだものの。


「んじゃ、馬王よろしくく」


「了解した」


 リベールが馬王のボスエリアに移動したら、しゅてるんはさっそく観戦モードでリベールを観察する。その動きはまさに圧巻だった。

 流麗で涼やかに、表情は怜悧。凛とした佇まいを崩さず馬王の毒霧をするりと抜けていく。

 とにかくすごいのは、攻撃が全て防御を兼ねていること。斧を振るえば脇を馬王が抜け、飛び上がって斬りつければ馬王が下を抜けていく。

 どうやってすり抜けているのか分からないが、馬王が全身に毒霧をまとっていてもリベールはその毒霧を流麗にすり抜ける。


 美しい


 しゅてるんはただそう感じだ。先日見たグルードは盾で馬王を封じ込んでいた。彼の動きは動の極地とするとリベールは静の極地と言える。

 しゅてるんは見惚れた。その流麗な動きに。凛としたリベールの姿に。

 これほどのものだったのだ。リベールは。みんなが夢中になるのもわかる。



 ボスエリアから出てきたリベールにしゅてるんは憧憬の眼差しで彼女を見つめる。


「さっすが、リベールたん。馬王なんてイチコロねね」


 続けてしゅてるんは、口を開く。


「しかも、リベールたんのゴシック衣装に絶対領域!そしてニーハイ!たまらないわわ」


 そういったとたん、彼女は少し照れたとしゅてるんは感じた。ゲームのキャラクターなのに照れるって。可愛い。


「は、恥ずかしい......」


 やっぱり照れてたんだ。リベールたんのこのギャップに皆惹かれるのかなな。


「かわいいー。素に戻ってるよよ」


 しゅてるんは思う。私もこの日からリベールたんのファンになってしまったのだったた、と。


※さて何回ニーハイソックスと書いているでしょうか。BY作者

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る