第25話ランバージャック編裏話 しゅてるん1

 廃人というものをご存知だろうか?ネットゲームにかける時間が多い人のことを総称する言葉だ。

 どのくらいやり込めば廃人と呼ばれるのかはゲームによって様々ではあるが、社会人であっても余暇時間のほぼ全てを使う人のことは廃人と呼称される。


 黒と白のゴシック衣装に薄紫のニーハイソックスの少女――しゅてるんは、押しも押されぬ廃人である。廃人の中でもさらに別格の廃人のことを超廃人という。

 彼らはただ時間が長いだけではない。効率も重視する。しゅてるんはそこまでは至ってないものの、そこそこの廃人ではある。


 しゅてるんは大学生でバイトを一応しているが、文系大学生ということもあり、学校とバイト以外の時間はほぼ全てドラゴンバスターオンラインに篭っている。

 黒と白のゴシック衣装にその日の気分によってニーハイソックスの色を変える。これがしゅてるんの日課であった。

 廃人にしてはたいした効率プレイをしていなかったしゅてるんのゲーム生活は、「馬王の森」が実装されてから一変する。


 「馬王の森」に通常防具と同じ性能を持つニーハイソックスが実装されたのだ。「堕落した馬王」が出す「馬王の尻尾」を素材にニーハイソックスを作成することで、通常足防具のレア8相当の防御力を持つニーハイソックスができる。

 「馬王の尻尾」はカラーが15種類あり、「馬王の尻尾」の色によって出来上がるニーハイソックスの色が変わる。


 この足防具と同じ防御力を持つニーハイソックスにしゅてるんは衝撃を受ける。これこそ私が求めていた装備だと!

 その日からしゅてるんの廃人プレイがはじまる。「馬王の尻尾」は出現率0.05パーセント。カラーは15種類。長い戦いになることを覚悟しつつ、ニーハイソックスが手に入るならとしゅてるんは毎日「馬王の森」に篭ることになったのだ。


 難易度9「堕落した馬王」に挑戦するには、木を伐採して四体の難易度4のボスを倒す必要がある。

 それぞれの難易度4ボスは「馬王の鍵」を持っている。鍵を集め祭壇に捧げることでようやく、「堕落した馬王」に挑戦できるのだ。馬王は難易度が9のボスだけに、ソロで倒すのはなかなか厄介である。

 一応ゴルキチクラスの上の下辺りのプレイヤースキルを持つプレイヤーなら、逆にやられる可能性は少しあるが倒すことはできる。

 森林のボスは全て、出現すれば誰でも挑戦できるので、頑張って木を伐採したものが必ず挑戦できる訳ではない。


 ドラゴンバスターオンラインでは、一つのアカウントで一キャラクターしか作ることができない。そのため、複数のキャラクターを作るにはアカウントを複数作る必要がある。もちろんアカウントごとに課金が必要だ。

 しゅてるんは「堕落した馬王」討伐のために、木を切るキャラクター、難易度4ボスを待ち構えるキャラクターが四人。馬王を倒すキャラクターと六アカウント準備して馬王を討伐していた。

 待ち構えるキャラクターは四人もいらないんじゃないかと誰もが思うが、そこは超廃人思考のしゅてるんである。

 難易度4ボスの為に、キャラクターを移動させることを嫌ったのだ。ちなみに全キャラクターゴシック衣装である。

 また、廃人らしくプレイ時間も凄まじく、平均して一日10時間超!その時間を全て「馬王の森」で費やしているのだ。いつしか「馬王の森」は「しゅてるんの森」と呼ばれるまでになってしまった。


 現在集めたニーハイソックスは12種類。あと三種類でコンプリートである。とはいえ、同じ色も多数出てしまうので残りの数が少なくなるほど難易度が上がってくるのだ。

 しゅてるんはニーハイソックスに狂信的だが、何もこだわるのはニーハイソックスだけではない。髪の色もスタイルも背の高さも服装も全てだ。

 気に入った色があれば、手に入れるまで頑張るし、キャラクター作成時には相当の時間を悩み、今のしゅてるんの見た目が出来たがったのだ。


 ドラゴンバスターオンラインは、他のゲームにあるような子供のようなキャラクターは一切ない。身長は高い、高め、普通、低め、低いと五段階あるものの、一番低い「低い」であっても身長は155センチとなる。

 そこから一段階上がるごとに五センチ身長が高くなる。男キャラクターの場合は、「低い」で160センチとなる。

 男キャラクターの身長が低いが、これは身長によってリーチが変わることを配慮した運営側が、男女キャラクターでの身長差を少なくした結果だ。

 他にも、筋肉の付き具合であったり、胸のサイズであったり、顔の造形であったり、様々な項目をいじることができるため、プレイヤーによってキャラクターの見た目は千差万別になっている。


 ではしゅてるんの見た目はどうだったかというと、金髪ツインテールにやや釣り目の瞳、胸はやや小さめ、身長は「低い」といった特徴があった。釣り目とはいっても、全体的に可愛らしい感じの顔になっているため、リベールも釣り目ではあるものの顔の印象は彼女とかなり異なる。


 しゅてるんは今日も「馬王の森」に篭っていたのだが、筋肉質の浅黒い肌をしたスキンヘッドのプレイヤーを発見する。自分の縄張りってわけではないが、しゅてるんは一応挨拶しておこうと、スキンヘッドのプレイヤーに声をかける。


「こんちー」


「こんにちは。昨日木こりに転職したばかりでして。どんなものかそれぞれの森を回ってるんですよ」


 スキンヘッドの男は案外紳士な雰囲気で、昨日木こりに転職したことと、ボスが出る森を一通り回っていることなどを伝えてきた。


「ふんふん。馬王狩ってみるる?」


 マナーのいいプレイヤーだったので、しゅてるんはスキンヘッドに提案してみるが、スキンヘッドは一歩後ずさり、「しゅてるんさんの邪魔したら悪い」と返事をしてくる。

 なんかいいプレイヤーかもも!少しだけ好感を持つしゅてるんであった。

 その後、傭兵のチーズポテトからしゅてるんにメッセージが入る。傭兵と廃人は需要と供給の関係で知り合いであることが多く、しゅてるんとチーズポテトの間柄も同じだ。

 チーズポテトが言うには、「自分の別キャラクターのフレンドが木こりになったのでもし会うことがあればよろしく」といったものだった。特徴を聞くとさっきあったスキンヘッドに合致する。

 少し興味が出たしゅてるんは、スキンヘッドのことについて少し聞いてみる。



 次にしゅてるんがスキンヘッドのプレイヤーにあったのは「妖魔の森」でのことだ。ここのボスは「髪染め」以外は難易度より少し低い素材しか出さない上、森ボスは横取り可能なことと出すまでが手間なことで敬遠するプレイヤーが多く閑散としている地域だ。


 しゅてるんはスキンヘッドのプレイヤーを見かけたものの、気になるプレイヤー達がいたのでそっと観察する。

 なんと、スキンヘッドが出したボスモンスターを二度も横取りしていた。スキンヘッドは二度も横取りされたのに怒りもせず再度伐採をはじめようとしていたのだ。

 さすがに、お人好しすぎるよよとしゅてるんは見ていられなくなり、スキンヘッドに話かける。


「こんちー」


「どうもです。しゅてるんさん」


 スキンヘッドのプレイヤーは何か思案した後に、合点がいかないといった感じで口を開く。


「ここでは、アレは出ないですよ」


 そんなことはわかってるよん。さすがに、横取りを見ていられなかったから話かけたよよとは言えず。ここのレアアイテム「髪染め」を思い出すしゅてるん。

 「妖魔の森」の髪染めはここでしか出せない色に染めることができる。また、「妖魔の森」のボス「森の女王」を大量に狩るプレイヤーも皆無のためバザーなどで出回ることはほとんどない。

 もし、スキンヘッドが出してくれるならダブっているニーハイソックスと交換してもいいかななとまで思っていた。もちろん、「髪染め」と「ニーハイソックス」では後者のほうが価値が高い。

 ただ、このいい人スキンヘッドになら、交換してもいいかななと思わせる何かがあったのだ。


「わかってるよん。ゴルキチちゃん、髪染め持ってたら譲ってほしいのの」


 しゅてるんが損にはなるが、スキンヘッド――ゴルキチにニーハイソックスと髪染めの交換を提案するしゅてるん。


「いや、まだはじめたばかりでして、なかなかボスにも挑めてませんし」


「森ボスは横取りあるから二人か、一人なら二アカウントでやらないとよ」


 しゅてるんは六アカウントだが。言う必要はないのでわざわざ言わないが......


「確かに横取り来ますねー。まあ余り気にしてませんけど」


 いや、口ではそう言ってるけどど、横取りされるととてもとても嫌な気分になるのよよ。しゅてるんはそう思ったが口には出さない。


「髪染め取れたら、教えて欲しいのの。お礼にとっておきをプレゼントするよん」


 とっておきとはもちろんニーハイソックスのことだ。


「いや、俺男キャラクターなんで、装備できないですよ」


 しゅてるんは、髪染めでも髪ないから染めれないよよとは突っ込まず、先日チーズポテトから聞いた情報を元にゴルキチに提案してみることにする。


「じゃあじゃあ、リベールたんにプレゼントしたらどうかなな?ゴルキチちゃんこの前、リベールたんの家つくってたじゃない。プレゼントしたらリベールたん大喜びよ」


 しゅてるんはもちろん有名プレイヤーのリベールのことは知っている。面識はないが、彼女のプレイ動画を見たときは衝撃だった。

 あの凛とした顔、涼やかで流麗なプレイスタイル。あの娘がゴシック衣装にニーハイソックスを付けたらどれほど素晴らしいか。

 しゅてるんは想像しニヤニヤしてしまう。


「分かりました。頑張って取りますよ。取れたら馬王の森に行きますね」


「ほおい。よろしくねん」


 ゴルキチちゃん、髪染め取れるかなな。リベールたんにその時会えたらいいなあ。と思いつつその場を立ち去るしゅてるんであった。

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